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2013.11.16
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【落合恵子/母に歌う子守唄~わたしの介護日誌~】
20131116

◆親一人子一人の環境が直面する介護記録

これからますます高齢化社会に拍車をかける世の中へと突入していくわけだが、その中で“介護”という問題は切実な課題として人々の肩に重くのしかかっていくのは間違いない。
皆が皆、元気で長生き、臨終はポックリ、、、という具合ならまだしも、そんなのはほんの、ほんの一握りだ。
大多数のお年寄りが何らかの病気を患い、医療機関の世話になり、そのうち寝たきりになって要介護者となる。
そして、本人が望んでも望まなくても長く生命を維持され、やっとあの世からお迎えが来た時には、介護生活に疲労困憊の家族らが安堵の胸を撫でおろすという始末なのだ。
巷には壮絶な介護体験記や、ご本人による闘病記などが五万と出版されている。
そんな中、人権問題、ジェンダー問題に取り組んで来たフェミの論客である落合恵子のエッセイは、ひときわ優れていることに気付いた。
私の周囲を見回した時、高齢の片親とシングルの子という図が意外に多いのだ。
つまり、“親一人子一人”という形態である。
兄弟姉妹がいないから、たった一人きりの子に全ての責任がのしかかる計算になる。
その子が結婚していたら、また状況が違うかもしれない。あるいは、子がおらず、天涯孤独の身だったらまた違うだろう。
問題は、片親とたった一人きりの結婚していない子の環境である。
落合恵子はシングルである。しかも一人っ子である。
そんな彼女がたった一人で背負った介護ドキュメントを、興味本位だとしても覗いてみる価値はあるのではなかろうか?
多発性脳梗塞、パーキンソン病、一方の腎臓の機能不全、、、その後、サード・オピニオンを別の病院で求めたことで、アルツハイマー病であることが発覚したという経緯。
3年間もパーキンソン病だと思って通院、入院をして来たことで、アルツハイマー病の治療を遅らせてしまったのだ。
(周知の通り、アルツハイマー病は、手遅れになると薬剤が全く効かない)
この時の落合恵子の憤りやら無念さを想像すると、胸が痛くてたまらない。

また、我々が認識しているはずの「医療はサービス業である」ということについても、医師は「そのことを忘れている、あるいは覚えている風を装いながら権威にしがみついている」と、落合恵子は糾弾する。そのとおり!
母親が二度目に入院した時、担当したのは研修医だったとのこと。
おそらく、この時のセカンド・オピニオンに納得がいかなかったのであろう。
ふんまんやるかたないと言った感情の矛先が、文章に表れている。
その中の一部を引用しておく。

〔彼の言うことをただ黙って聞いているときは機嫌よく、極めて饒舌で穏やかな口調だが、少しでも質問をすると(自分が嫌になるほど、そんなときのわたしの口調は卑屈になっている)、彼は反射的に身構え、攻撃に転じ、びっくりするほど怒り出す。〕

※ここでの「彼」は、研修医のことをさす。

私はこの文章を読んだ時、思わずこの研修医に対して激しい憎悪を覚えた。
患者を人質に取られ、思うことの半分も言えないでいる家族の立場を考えたことがあるのか?!
医者という立場にあぐらをかいて、ストレス解消の弱い者いじめに過ぎないではないか!
無論、世の中には立派なドクターはたくさんいると思う。
だが、そうは言っても中にはこんな権威主義の研修医が現実には医師となって一人立ちしていくのだから、手に負えない。もうどうしようもない絶望的な気持ちになる。
落合恵子は、読者に問うている。
医療と向かい合った時、そこに不安や不信や疑問を見つけてしまった時、皆はどのように乗り越えていくのかと。
「ほどほど」であきらめるしかないのだろうか?
落合恵子だからこそ発信することのできる医療の実状、介護の現場をこのエッセイから読み取ることができるのは、大変ありがたい。
苦悩を抱える多くの人々を代弁し、根本的な国の福祉の見直しと、医療のありかたの検証を呼びかけるところで結ばれている。
さすがは落合恵子。お涙ちょうだいでは終わらない。
介護者、必読の書である。

『母に歌う子守唄~わたしの介護日誌~』落合恵子・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.100)は呉智英の「現代人の論語」を予定しています。


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最終更新日  2013.11.22 05:49:02
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