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カテゴリ:読書案内
【井上ひさし/新釈遠野物語】
◆常識を打ち破ったシュールレアリズムの世界 明治時代に書かれた柳田国男の『遠野物語』はあまりにも有名だが、実は、私は読んでいない。 古典的な香りがプンプンするし、日本民俗学などというカテゴリに分類されているだけで、拒絶反応を起こしてしまう。 それに引き換え、井上ひさしの『新釈遠野物語』なら、「現代の怪異譚」と紹介文にもあるので、わりに取っつき易いだろう、、、そう思って手に取ったしだいである。 『ひょっこりひょうたん島』を手掛けた放送作家として有名な井上ひさしは、上智大学文学部卒業。 代表作に『吉里吉里人』『不忠臣蔵』などがある。 山形県出身の井上だからこそ、東北には並々ならぬ思い入れがあり、「新釈」を書くに至ったのかもしれない。 作品は、大学を休学してバイトをやっている「ぼく」が、山で出会った老人から聴いた話を書き留めたもの、という設定となっている。 ところが巻末の解説によると、井上自身、「大学に失望して休学届けを出し、当時母親が住んでいた岩手県釜石市に帰省して、やがて国立釜石療養所の事務員となった」とあり、小説の冒頭部に描かれている「ぼく」の状況が酷似している。 おそらく自分で自分をモデルにして「ぼく」というキャラクターを作り上げたに違いない。 その「ぼく」が、遠野近くの山の中の穴ぐらに住む犬伏老人と出会い、あれこれとおもしろおかしい物語を聞かせてもらうのだ。 犬伏老人から聞かせてもらう話はいくつかあるが、その中でも私が好きなのは、『雉子娘』『冷し馬』そして『狐つきおよね』の3本だ。 「雉子娘」は正統派の伝説で、「日本むかしばなし」でも放送されたことのある物語だ。 涙なしでは読めない結末である。 「冷し馬」は衝撃的だ。 私がこれまでに読んだことのない、人間の女性と牡馬との禁じられた愛とエロスの物語なのだ。 あってはならない行為が、この小説の中では平然となされていて、もはや想像を超えた領域に、読者はパニック寸前になること間違いなしだ。 そしてさらに、「狐つきおよね」、これもまた民話とはいえ、あまりにも生々しく妖艶で、どこか滑稽だ。 人間の娘が狐に憑かれている話なのだが、それだけではなく、狐と交合しているという場面が出て来るからヤバイ。 「およねの寝所の蚊帳の中には狐がいた。そいつは人間ほどの背丈のある大狐で、おまけに毛は白かった。そしてやつは、およねの開いた股の間に躰を入れて、腰を前に突き出しては引き、突き出しては引きしている。」 なんだかとんでもない新釈となっている(笑) だが、もともと私はシュールレアリズムが大好きなので、こういう話は大歓迎である。 常識ばかりにこだわった、堅苦しい小説には肩も凝るが、井上ひさしの新釈は昔話なのに反って斬新で瑞々しい! サプライズの連続で、ページをめくるのさえもどかしい。 『新釈遠野物語』は、R-18(?)と指定させて頂いた上で、一読をおすすめしたい。 最後のどんでん返しで見事なオチをつけている。 明日のことでくよくよ悩んでいるそこのあなた、この『新釈遠野物語』を読んで、新しい世界観を感じて下さい! 「新釈遠野物語」井上ひさし・著 ☆次回(読書案内No.128)は田中慎弥の「切れた鎖」を予定しています。 ★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから ★吟遊映人『読書案内』 第2弾はコチラから お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.05.31 05:20:24
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