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カテゴリ:読書案内
【立川談春/赤めだか】
暑いと何にもしたくない。 せっかくの休日でも扇風機の前に居座って、日がな一日ぼんやりして過ごすのが関の山だった。 今年の夏はとくに暑かったので、自分に対する言いわけもあるし、堂々と無気力に過ごしてしまった。 暑さ寒さも彼岸までとは言ったもので、だいぶ涼しくなって来たし、どれ一冊ぐらい本でも読むとするか、と言う気にもなった。 とは言え、あんまり堅苦しい内容は疲れるし、身の毛がよだつ怪談モノにも触手が動かない。 書店で文庫本のコーナーを行ったり来たりしながらあれこれ悩んだ末に決めたのが『赤めだか』である。 これは10年ほど前に一度話題になった、落語家・立川談春のエッセイ本だ。 この作品で講談社エッセイ賞も受賞している。 当時の私はかなりのあまのじゃくで(今もそうだけど)、話題になっている本を手に取るのがイヤだった。 「私は流行になんか左右されないゾ」みたいな、ムダな意地を張っていたように思う。 そんな理由からスルーしてしまったのだが、その後、再び『赤めだか』はスポットライトを浴びた。 つい3年ほど前にテレビドラマ化されたのである。 主役・立川談春を二宮和也、師匠である立川談志をビートたけしが演じるという豪華キャストであった。 私はその時、心から原作を読んでみたいと思った・・・思ったのにすっかり忘れて読まずに今に至る・・・ 前置きが長くなってしまったが、とにかく『赤めだか』を読んだのである。 著者である立川談春は、もともと競艇選手にあこがれていたようだ。 中学校のころはさんざん父親に戸田競艇場に連れていかれたらしく、競艇選手の加藤峻二に惚れ込んだとのこと。 本格的に競艇学校まで目指したところ、自身の身長が高すぎることで断念。 結果として噺家の道へ進むこととなる。 最近では高学歴の噺家も増えて来たが、談春は高校も中退し、中卒という身分で立川談志の門を叩く。 『赤めだか』はそんな談春が立川談志に入門してから真打昇進に至るまでの青春の記録が、おもしろおかしく綴られている。 読んでいて思わずクスクスと笑いがこみ上げて来るのは、談志のおもしろいことを弟子の志らくが飲み屋でバラしてしまうところだ。 「えー、うちの談志は、世間では大変強面のイメージがありますが、実は趣味は、ぬいぐるみを集めることでして」 なんと、ぬいぐるみコレクションとな?! しかも一番可愛がっているのが、ライオンのぬいぐるみで“ライ坊”という名前までつけているらしい。 さらに、バブル期に町工場の小さな会社の社長から社員旅行に招待された際のエピソードもおもしろかった。 ハワイ旅行である。 社長のはからいで(?)談志と談春はツインルームを取ってもらった。 もちろん談春は顔面蒼白。 師匠とツインになるぐらいなら野宿の方がマシだとさえ思う。 「僕、師匠とツインなんだそうです」 「何!俺はお前と寝るのか」 「すいません」 すると(談志が)ポーチから、コロンを取り出して、 「トイレのあとは、これを使え。いいニオイがする」 と言った。ボクはコケそうになった。 と、まぁこのくだりも私は思わず吹き出してしまうほどおかしかった。 他にも紹介したい箇所がいくつもあるのだがやめておく。キリがないからだ。 今や立川談春と言えば、「今、最もチケットの取れない落語家」の異名を持つ。(ウィキペディア参照) その一方で、『下町ロケット』などテレビドラマでは役者としても圧倒的な存在感で視聴者を魅了する。 文庫本の帯には「談春さんは談志さんが残した最高傑作」と、ビートたけしが賛辞を送っているが、この『赤めだか』を読むとその理由がヒシヒシと伝わって来る。 ところどころ自慢話か?!と思わせるところもなくはないが、それもご愛嬌。 この秋の夜長に『赤めだか』を読んで、ぜひ皆さんにも笑ってもらいたい。 疲労とストレスで悲鳴をあげそうな一日の終わりが、きっと少しだけ癒されるのではなかろうか。 『赤めだか』 立川談春・著 (2008年講談社エッセイ賞受賞作品) ★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから ★吟遊映人『読書案内』 第2弾はコチラから お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.09.29 07:00:10
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