若竹七海「水上音楽堂の冒険」
本日ご紹介するミステリーは、若竹七海さんの「水上音楽堂の冒険」です。●あらすじ荒井冬彦は、自転車とぶつかって壁に激突してから、記憶が曖昧なものになってしまった。親友の坂上静馬の頼みで同じく親友の中村真魚と共に水上音楽堂のコンサートの手伝いをした。その翌日、坂上につきまとっていた後輩の北浦水江が殺されているのが発見される。彼女は前日に、静馬から暴言を浴びせられていたのを、吹奏楽部員たちが聞いていた。静馬は警察へと連れて行かれ、冬彦と真魚は静馬の無実を証明するべく調査に乗り出した。●簡単な感想「冒険」という言葉のイメージとはあまり合わない感じでした。冬彦の記憶が曖昧なために、本当は誰かが裏口を出入りしたかもしれない、という不確定さが良かったです。冬彦がちょっといらいらするタイプでしたが、他の登場人物は、変わった人もいますが、それほど気になる人は居ませんでした。展開もちょっと変わっていますし、面白かったです。この作品内では高校生の飲酒、喫煙が普通に行われています(もちろん法律違反です)。以下はネタバレを含む感想です。親友二人が調査に乗り出しましたが、親友の友達でさえ静馬を信じていない状況というのが珍しく思いました。悪役が「どうせあいつが殺したんだろ」とか言うのはありがちですが、主人公たちと仲の良い人はたいてい信じてくれるものかと思っていたので。主人公側よりも脇キャラの方が真実を見抜いていたというのも良かったです。石橋くんが意外と悪い人でなくて良いキャラでした。偽の犯人を自殺に追い込んだ冬彦と、真犯人の静馬がお互いに口外しないで生きて行くというラストは、あまり後味の良いものではありませんが、これはこれでありかと思いました。月子が放送室にいたことは確認されませんでしたが、これは結局先生の見落としだったということで良いのでしょうか。真魚が信じる、だけで終わってしまったのが多少引っかかりました。また、真魚が静馬を好きっぽいような描写がありましたが、これも実際のところはどうなのか良くわからなかったです。冬彦がそう思っただけかもしれませんし。どうでもいい部分ではありますが。以下は、この作品と類似点の多い作品について言及しています。苦手な方はご遠慮ください。ネタバレを含みます。今回、この作品を読んでいる途中で、類似点の多い作品に気が付きました。松本洋子さんの「殺意のメッセージ(漫画)」です。松本さんは他にも盗作疑惑があり、検証サイトもあるようです。わたしは松本さんが好きで、「闇は集う」以外の単行本はほとんど全て持っています。疑惑があっても被害はなかったので、あまり気にとめてはいなかったのですが、今回はちょっとひどいかな、と思いました。●登場人物の類似点被害者は美人で自己中心的。男の子をこっぴどく振る。被害者親友は大人しいタイプ。被害者が殺されたときには暴言を吐いた容疑者(真犯人)を責め、被害者が可哀想だと嘆くが、実は被害者が大嫌い。自分が彼女の奴隷のようだと思っていた。犯人が好きで、罪を被って飛び降り自殺する。殺人の動機は、被害者と犯人が付き合うことになったから(「水上」では付き合うようになるのも時間の問題だった)。犯人は被害者が殺される前に大勢の前で被害者に暴言を吐く。容疑者とされるものの、釈放される。実は真犯人。女生徒に人気が高い。●似たシーン。()内が「水上音楽堂」です。犯人に頼まれて、主役が部の手伝いをする。主役友人は自主的に名乗り出て手伝い(主役、主役親友共に頼まれて手伝い)。特別に許可をもらってSF研(合唱部)は遅くまで準備して良いことになっていた。主役の友人(「水上音楽堂」では親友)は、アリバイに関係する時間帯に、友人に呼ばれて、主役が一人になる時間がある。犯行現場と死体発見現場は別。釈放署名嘆願運動をはじめようとした人たちがいて、先生に止められる。生徒に「容疑者が犯人なのは本当か」と聞かれた先生が「容疑者は被害者とさいご(最後)に会ったSF研(合唱部)の(唯一の)先輩として警察の事情聴取に協力しているだけだ」と言う。主役と被害者親友が話をして、被害者親友は自殺する。「殺意を持つのと実際に殺す(殺すことを妄想する)のとではおおちがい(天と地ほどの違いがある)」という被害者親友の台詞。「大っキライ(嫌い)よ。被害者も、真犯人も」という被害者親友の台詞。殺したときのことについて「すっごく気分よかったわよ(すっごく、いい気分だった)」という被害者親友の台詞。こんなところでしょうか。特に被害者親友がそっくりです。主役と主役友人が被害者親友に話しを聞きに行ったときのシーンも結構似てます。「水上」の方ではあった夢見がちなところは「殺意」にはなかったですが。安易に盗作だとかパクリだとか言うのは好きではないですが、盗作した側(殺意)を先に読んでいて、盗作された側(水上)を後から読んで、途中で、盗作した側との類似点に気がつき、展開がわかってしまうような作品は、わたしは盗作であると認定します。過去には他に、「金田一少年の事件簿」でも盗作だと思いました。盗作した側によって、盗作された側で味わうはずだった楽しみが損なわれるのは本当に残念だと思います。以上です。