夜、急に何年も会ってない大学の先輩から電話があった。
「おりゃー!銀行今日やめたぞ!飲むぞ!」
年収1500万エリート銀行マンは、明日から、ただの38歳独身無職ホモになる。
願により退職を認める!株式会社○○○○銀行
明日から予定は何もないみたい。切れたみたい。
某月某日 バンコク
夜中の2時、喉が乾き、下の24時時間レストランに行く。ナンとか頑張って注文する。
「パパイヤシェーク」
注文を受けた兄ちゃんの真面目な顔が愉快だが、ここで笑ってはいけない。
1. 冷蔵庫からパパイヤを取り出す。
2. パパイヤを切って、ミキサーに入れる。
3. シロップをドボリと入れる。
4. クーラーボックスを空けて氷を入れる。
5. スイッチを入れる
6. 15秒待つ。
7. コップに移す。
8. 作り過ぎた。
9. 眉毛がハの字になった兄ちゃんの姿が見られる。
運び込まれてきたパパイヤシェイク体内注入作業の処理は、氷占有割合が多過ぎて、ストロー内限界密度及び肺活量不足により、粛々と、進まない。全身全霊でストロー吸込み活動の死闘を展開している間に、西洋人がワタシのテーブルに座り、勝手にスプライトを取り出してきて、ウインクをして、沈黙が始まった。
数分が経過した所で、ワタシはパパイヤシェイクと悪戦苦闘継続中であったが、前のフランス人は微粒だに動かない。
十数分後、遂にシェイクを空にすることを達成したワタシは、晴れ晴れした気分で勘定を済ませた。お釣りを貰うときにやっと、そのフランス人はワタシが席を立ったことに気が付き、にやりと笑って「おまえも同類か」と目は語り、ワタシは黙って、煙草(クロングテップ)を進呈し、「グーテンナハッ、アウフビーダーゼーヘン」とドイツ語でおちょけて見たが、既に彼の意識は山の向こうへ。
ワタシは、タイ語を解さないのであるが、ワタシの前で展開されているお喋りを自動自己解釈してみたのであった。
女同士の喧嘩に、トゥクトゥクの運転手が仲裁にはいったようである。
運転手「おっと、喧嘩はいけねえ(何故か江戸調)、ディズニーランドの王子様ならいいぜ」
といいつつ指を口元で揺らしながら「チッ、チッ、チッ」とにやけながらやってのける。
女性2人がそれを見て呆れているうちに、エンジンを吹かして、クラクションを2回鳴らして行ってしまう。
別のトゥクトゥクの運転手がやってきて「わしゃよう分からんわ」と言ったが、中国系の上半身裸で腹の突き出たおっさんが店から出てきて、運転手の胸ぐうらを掴み、「金はちゃんと払え」と言っている。「分かってるよ」と運転手は言いながら、近くにあった卵を指差す。
「もうアフガン戦争はとっくに終わったんや、息を吹き返せよ」と白目を向けて笑ったふりをする運転手。女性のうちの一人がどうやら運転手の妻のようであり、旦那に「男のお喋りはみっともない」とたしなめるが、運転手は、分かってるとジェスチャーをするだけ。
夜中と言うのに、赤い上着に青いパンツを履いた少年が走っている。女性2人に「イーダっ」をする。運転手の妻でないほうの女性が、歯を剥き出しにして腕を組み、「あなたの考えることではないわよ」と叫ぶ。少年は「ヒッチハイクしにきたのに」と言い返す。
運転手はパーマのかかった妻に「おまえ、まだ…」と感動的な目つきで見つめる38歳になっても純な男を演じている。
明日の予定は何もないみたい。
切れたみたい。