其の年の9月、私は、車を購入した。ドイツ製国民の車であった。
其の年の12月、私は、友達のマンションに、その車を渋く転がして向かっていた。
其のマンションには、敷地内に入るにはチェーンゲートが設けられリモコンで開けなければならないが、当然私はマンションの所有者でないので、不法侵入するしかすべがなく、前の車に続いて、ゲートが降りたときに入るのである。それまで数回そうしてきたので、今回も、そうすることにしたのだが、少し前を走る車がかなり前にいることは薄々気がついていた。
そして、チェーンが上がり始めたのである。冷静な判断であれば、車を止めるのであるが、何故か其の時、「ええい、面倒だ、いってしまえ」と面倒な脳が指令を発信し、アクセルを踏んだ。
チェーンは車の下をくぐり、そしてひっかかった。
そこで止まればいいものを、何故か、アクセル更にを踏んだ。やけに冷静であった。
「とにかく、止まってくれよ、チェーンよ」と念じつつ、「後続車に迷惑かけてしまうなあ」と恥じつつ、「うわー。修理代たまらんなあ」と悔やみつつ、「友達に迷惑かけるなあ」と考えつつ、「車屋の電話番号控えてたかな」と思い出しつつ、「弁償代金たあらんな、保険使うか、100万ぐらいしたよなあ」と悲しみつつ、車は止まった。
オイルが漏れ、私は、すぐさま車を降り、管理人に謝りつつも、出口車線の方から出入りしてもらえるように依頼した。
すぐさま、車が数台後ろに並んでいた。私は謝ると共に、交通整理をしなければと思い、後続車の方に話をしようとした。
「ひゅいまひぇん(すいません)」
あれ、あれ、あれ、興奮状態にあり、痛みを感じていなかったのであるが、舌が半分千切れてだらりと垂れ、血がドボドボ噴出した。
「あ、二枚舌だ!」と下らぬギャグが頭を巡った。
いつ舌を切ったのだ?と考えていると、たんこぶができており、フロンとガラスにひびがいっていた。
ぶつかった瞬間に、体が前にのめり込み、フロントガラスにぶつかって、そのとき舌を噛んで、またシートに戻ったようである。其の速度は時速30キロはあったであろう。
一通りに作業を終え、舌をどうするものかと考えていると、神は私に慈悲を与えてくれたようである。坂の下に緊急病院が見えた。
歩いていったが、頑丈に病院は閉まっており、私は、携帯電話から「あけてくれ」と病院に電話した。
医者が、看護婦と何か談笑しながら、私の舌を縫っていく。
「お金はまた後日でいいからね。薬は、舌なので塗れないからね。抜糸にまた来てね」と医者は言った。
私は、分かりましたとお礼を言い、外に出た瞬間私は重要なことに気がついた。
「飯が、食えねえ」
翌朝私は人にあった。自分で何を言っているか分からなかった。
昼からは、おでんパーティに出席した。もはや腹が減って仕方ない。
「おでんをフードプロセッサでドロドロに溶かしてくれ」と私はいい、おでんジュースを啜った。十分に不味かった。
翌日以降、数日間、私は、何でもかんでもドロドロに混ぜる計画に成功したのである。勿論、舌は痛いので、ストローを喉の奥に突っ込むのである。チューブ人間になった気分であった。
ちなみにエンジンとミッションがいかれた車は廃車になった。
ちなみに縫った糸は、勝手にほどけてしまった。
ちなみに病院に行ってないので、思わず治療費を踏み倒してしまった。
ちなみに最近のマンションのチェーンゲートのチェーンは、こういうようなことがないようにチェーンが切れるようになっている。これでは、敷地内で盗難した車は、チェーンを突っ込んで切って逃げることも可能である。
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