乞食の女が車に轢かれて道端で死んでいた。
かけられたムシロから土色の手が出ていた。
垢や埃で汚れた腕輪を確認した。
ムシロを中心にコンクリートの道路は血に染まっていた。
周りを歩く人々と同様に、静かに通り過ぎる。
灼熱の昼下がり、暑さだけでなく、死さえもが騒音を吸いとって、その中で彼女は静かに死んでいた。
いや、そこに放置されている限り、彼女は現在進行形で死に続けていた。
野次馬は去り、警官二人だけになり、車が脇を猛スピードで過ぎ去る。
地表の温度は血をバリっと固まらせていた。
我慢することもなく、不意に死が訪れ、咄嗟の出来事が特別の空間を作りだし、喧騒の中で、感情を欠如させた空気を一本筋に張り巡らせていた。
安堵も浄土も幸福も豊饒もなく。
隣には、やはり乞食が座っていて、彼女と関係あるのかないのか分からない程に静かに、少し焦点のぼやけたまま彼女を見ていた。
何か、突然勃発した出来事も自然の摂理と受け入れた諦め気味の宗教的な目であった。
そこは、凸型の橋の上であった。
私はオート三輪から一瞬の風景を捉えたに過ぎない。
にもかかわらず、ビデオの一時停止の様に何故か見えたのである。
雑踏の一部である脇役の私は、死して初めて多くの人から注目を浴びたヒロインを見た。