テーマ:映画館で観た映画(8350)
カテゴリ:日本映画
端正な顔立ち。太くて濃くてつりあがった意志の強そうな黒いまゆ。まさに原田巧だなーっと思うこんな子役をよく見つけたなっと感心しちっゃた。彼のおかげでこの映画はやっと完成したんだ。 協調性第一、チームワークが何よりと思われるスポーツの世界で、その天才ゆえに人とのかかわりも作らずに孤独に野球だけに向き合う主人公巧。 巧みの性格は、まるで、やたら勉強の出来るエリート少年とそっくりだ。野球をやろうとしているのに、こんなにチームワークや仲間とのふれあいを無視できるやつがいるんだ。というのが、原作を読んだときの感想だった。 『バッテリー』の文庫本を始めて読んだのが確か四、五年前。だから、ハードカバーが出たのはそれよりずっと前。そこから少しづつじわじわと人気が上がってきたんだろう。六巻まで出るのにはずいぶんかかった。 原作はストーリーもなかなかなのだが、とにかく文章が読みやすくて読んでいて抜群に面白い。頭にすーっとはいってくるような文章で、どんどん次に読み進めたくなる。児童文学と言うカテゴリーに納めてしまってはもったいないほどの完成度とおもしろさなのだ。 原作の登場人物はもっとそれぞれの性格が切れていてきついのだが、映画ではやはり映画的常道でかなり軟化されてはいた。が、それでも、かなり原作に忠実な映画化で、原作の雰囲気がそのまま再現された映像に原作ファンとしては、ゆっくりとたっぷりと『バッテリー』ワールドを楽しませてもらえた。 一冊目だけの映像化と思っていたら、意外に五巻目くらいまでがうまくまとめられていて、さすがにきちんと完成されていた。原作では、一人ひとりの喋りが異様に長く、またそれが面白いのだが、さすがに映画なので、事件を追う方が重視されていた。 地方都市ののんびりしたたたずまいや小説では思い描けなかった巧の家や町なみがほのぼのとして美しい。 ほとんどしゃべらない無口で友達とかかわることを由としない巧が、野球という共通点だけで、豪やその友達とだんだん心を通わせていく。野球をするというだけでこんなに簡単に友達になれるなんていいなあと思う序盤から、やがて野球を道具として子供たちを管理しようとする大人たちのみにくさや、そういった管理の中で心を蝕まれていく野球部の先輩たちによって、野球と言うものが現代社会の中で変容されていくさまが描かれる。 「野球は誰のものですか」と巧は作中でなんどもと問いかえす。 本来やること自体が楽しくて、それゆえに人と人を結び付けていくはずの野球というものが、大人たちによって子供を管理し自分たちの思惑のために使うものへと変容していく中で、巧だけは決して、その方向性を見誤らない。 「俺が大好きな野球を勝手にいじるな」という怒りが寡黙な巧の体の中で青い炎となって燃え盛っているようだ。 やること自体が楽しいはずのスポーツがいつのまにか、試合に勝つための苦しい修行をメインとするものになってしまったり、試合に勝つ事で学校の名を売るための道具に使われたり、勝つための練習の過酷さゆえに選手自身の体をも破壊していくような、大人のための道具に成り果ててしまっている現在のスポーツは、明らかにおかしいと私は思う。スポーツとは本来体を使うことを楽しむためのものであったはず。 巧たちは必死に練習したり、基礎トレをしたりもしているけれど、それだけじゃなくて、青波(巧の弟)を投手にして巧や豪やそのほかの仲間たちで三角ベースの野球をやるような本来の野球とのかかわり方を巧たちは忘れていない。その時の楽しそうな少年たちの笑顔こそが本当の野球なんだよと思う。 ルールや試合や大会や部活なんてそのあとにあるもの。 巧の母は、病弱な弟青波のために巧が野球をやること自体を非難する。けれど、本当は少女時代野球部の監督として忙しいゆえにほとんど家族を省みなかった父ゆえに野球を嫌い、憎んでいるのだろう。本来これほどの天才少年をわが子に持っていたら、母親は歓喜して息子の才能を伸ばすことに夢中になるものだが、「青波が、青波が」と言って巧にきつくあたるこの母も自分の本音に気づいていない。 わが子に野球をやめさせたいのにやめさせられない豪の母親は巧に豪を説得するようにと頼んでくる。本来自分がやるべきことをまだ中学生にもならない子供に割り振ってくるというのはどういうことか。自分の仕事を放棄しているんじゃないのか。 野球さえあれば子供を管理していうことを聞かせることが出来るなんて思い込んでいる学校の先生たちや学校の監督もその行動自体が自分たちの無能ぶりをさらしているに過ぎないことにきずかないのかな。 巧や野球少年たちを通して、大人世界の実相や矛盾が浮き彫りにされている映画でもある。 春休みの子供向け映画なので、子供たちが多くて、映画館の場内は少し騒がしかったけど、明らかに野球少年だなと思える男の子たちが群れをなして見に来ているのを見るのは、それはそれでほほえましくて楽しかった。 バッテリー@映画生活
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|