「何だろう?」
ルドルフはそう言いながら黒い封筒の封を切った。
「っ痛!」
封筒の中に入っていた剃刀がルドルフの指先を傷つけた。
「ルドルフ様、大丈夫ですか!?」
ユリウスが慌てて救急箱を持ってきた。
「ああ・・ちょっと切っただけだ。それにしても一体誰がこんなものを・・」
ルドルフはそう言って黒い封筒を見た。
すると1枚の便箋がルドルフの膝の上に軽い音を立てて落ちた。
そこには、血文字でこう書かれてあった。
“積年の恨み、今こそ晴らす”
「警察に届けましょう。」
「ああ・・」
数分後、警察がやって来た。
「誰かに恨みを持たれている可能性はありますか?」
もうすぐ定年を迎えそうな眼光の鋭い刑事がそう言ってルドルフを見た。
「いいえ、ありません。」
「そうですか・・今後このような悪質な嫌がらせが続くようなら、またご連絡してください。」
「ご苦労様です。」
ルドルフはそう言って刑事に頭を下げた。
「気味が悪いですね、ルドルフ様。」
「ああ・・今日はもう休もう。」
一体あの手紙を送ってきたのは誰なんだろうールドルフはそう思いながら目を閉じた。
翌朝、ルドルフはリビングでワッパチーズセットを食べた。
だが昨日の手紙のことが気になり、食欲が進まず、オニオンリングを半分残してしまった。
「オニオンリング、いただいてもよろしいですか?」
「ああ。ユリウス、あの手紙を出したのは誰なのかわかったか?」
「さぁ・・心当たりがありませんね。もしいたとしても、わたしには敵が多いので見つけ出すのは困難ですね。」
ユリウスはそう言ってコーヒーを飲み、溜息を吐いた。
会社を設立し、レジャーや食品など、様々な事業に成功し、初めは古びたアパルトマンに電話1台だけだったユリウスの会社は、今やウィーンを初め、世界60の国と地域に支社を持つ大企業へと成長した。それに比例して、競争相手が自然と多くなった。
その中でユリウスに恨みを抱くものもいるに違いないが、一体誰なのか見当がつかない。
ただひとつわかるのは、誰かの悪意の刃が、自分達に向けられていることだ。
「わたしはこのまま出社いたしますが、ルドルフ様はいかがなさいますか?」
「そうだな・・アフロディーテのコンサートのことを色々と調べてみようと思う。それと、病院にも行く。」
「何かあったら携帯に連絡を下さい。あとこれを。」
ユリウスはそう言ってアクアブルーのポケベルをルドルフに渡した。
「では行ってまいります。」
「行ってらっしゃい。」
ルドルフは、ユリウスの頬にキスした。
(ルドルフ様が心配だ・・)
ユリウスは腕時計を見た。
もうすぐ会議の時間だ。
ユリウスはアウディのエンジンを掛け、会社へと向かった。
走り去っていくアウディを見送ったルドルフは、リビングのソファで寝転がりながら、ネットをしていた。
(アフロディーテのコンサートに関する記事は、まだないか・・)
ルドルフがパソコンを閉じようとしたとき、あるニュースが目に止まった。
その頃、昨夜ルドルフ達の家に来ていた刑事―名をキングリーという―は、ウィーンのスラム街へと足を踏み入れた。
「刑事、こちらです。」
まだ警察学校を卒業したばかりの若い制服警官がそう言ってキングリーを尊敬の眼差しで見た。
「またか・・これで9件目か・・」
2003年からウィーンを震撼させている連続猟奇的殺人事件は、未だ未解決のままその犯行はますますエスカレートしている。
キングリーはこの美しい街が何者かによって振り下ろされた悪意の刃に傷つけられていると思った。
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Last updated
Jul 26, 2011 08:15:58 PM
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