「シリル、お前は死んだ筈では・・」
ルドルフはそう言って黒髪の司祭に詰め寄ると、彼はにっこりとルドルフに微笑んだ。
「ルドルフ様、またお会いいたしましたね。」
黒髪の司祭―シリルは穏やかな笑みを浮かべ、ルドルフに抱かれている瑞姫を見た。
「ミズキさんが診察に?」
「院長は?」
「先生なら診察室でお待ちです。こちらへどうぞ。」
シリルの案内でルドルフ達は診察室へと入ると、そこには白衣を纏った30代後半と思しき青年がカルテを見ていた。
「先生、ミズキさんがいらっしゃいました。」
青年はシリルの言葉を聞くと、カルテから顔を上げた。
「ようこそ、蒼霧病院へ。来ると思っていましたよ。さ、そちらのベッドに彼女を寝かせてください。」
ルドルフは言われた通りに瑞姫をベッドに寝かせた。
「先生、実は・・」
「ちょっと失礼。」
青年は亜鷹の言葉を遮ると、聴診器で瑞姫の鼓動を聞いた後、脈を一通り測ると、呪を唱えて掌を瑞姫の額に当てた。
「何を・・」
「診察ですよ。どうやら瑞姫さんの妖力は完全に封じられたようですね。」
何が何だか判らぬまま、ルドルフはそっと瑞姫の手を握った。
すると、苦しそうに呻きながら瑞姫が目を開けた。
「ルドルフ様?」
「ミズキ、大丈夫か?」
「ええ・・なんとか・・」
「瑞姫さん、久しぶりだね。」
ルドルフと瑞姫との間に割って入った青年は、そう言って彼女に微笑んだ。
「先生、どうしてわたしが此処に?」
「君の妖力は封じられたよ。まだ完全に自然妊娠については大丈夫だという保障はできないけれどね。」
「そう・・ですか・・」
瑞姫はそう言って俯いた。
「大丈夫、可能性はゼロだということはないんだからね。焦りは禁物だよ。」
どうやら院長と瑞姫は顔見知りらしく、2人が会話している間にルドルフは少し焼き餅を焼きそうになった。
「今日はちょっと産婦人科で検査してみるからね。こちらの方は旦那さん?」
青年はそう言ってルドルフを見た。
「まだ結婚はしてませんけど、恋人です。あの、産婦人科で検査するなんて・・着替えも何も持ってきてないんです。」
「いいんだよ。嫌な事は早く済ませたいだろう?」
不安がる瑞姫を安心させるように、青年は彼女の手を握った。
「わたしも行きます。」
瑞姫が青年と仲良くしているのが気に入らなかったルドルフは、2人の間に割り込むと瑞姫の手を引っ張った。
「嫉妬深い彼氏さんだね。これじゃぁ子どもが産まれたら赤ちゃん返りしちゃうねぇ。」
鳶色の瞳を悪戯っぽく光らせながら青年がそう言ってルドルフを見た。
「わたしはそんな事にはならない!」
「さぁ、どうかなぁ? 奥さんが子どもにかかりきりになって嫉妬する旦那さんって結構居るんだよ?」
「そんなの一部の者だけだろう? わたしは冷静沈着な人間だ、子ども如きに嫉妬する訳なかろう。」
「理屈ならなんとでも言えるんだけどねぇ~」
飄々としている青年を前にして、ルドルフは徐々に苛立ちが募ってきた。
「先生、ルドルフ様をそんなにからかわないでください。診察にはまだ行かないんですか?」
瑞姫が慌てて2人の間に割って入った。
「ああ、そうだった。じゃ、行こうか?」
(なんなんだ、この男は!)
瑞姫の手をひき、ルドルフは男に対して苛立ちをますます募らせながら、産婦人科へと向かった。
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