翌朝、鈴と英人は道場で稽古に励んでいた。
―あいつ誰だ?
―さぁ・・
―確か数日前、柵原が助けた・・
―それにしても綺麗だなぁ・・ホントに男か?
道場の隅で囁き合う隊士達に、英人は微笑んだ。
彼らは顔を赤く染めた。
「英人、なんであいつらに笑うんだよ!」
鈴がそう言って英人を睨んだ。
「挨拶代わりさ。」
「挨拶でも何でも、俺以外にはその笑顔、見せるなよ!英人の笑顔は、俺のもんなんだからな!」
鈴は肩を怒らせながら道場を出ていった。
「ったく、ガキなんだから・・」
英人はフッと笑った。
「なんだよ英人の奴、あいつらに笑顔なんか・・」
井戸で鈴は手をバシャバシャと洗いながら鼻息を荒くした。
「何をそんなに怒っている?」
木陰から黒髪を後ろで流した長身の男がぬっと姿を現した。
鋭い切れ長の目をした金色の瞳は、じっと鈴を見ている。
この人こそ、沖田と一,二を争う実力を持つ新選組三番隊組長・斎藤一であった。
「さ、斎藤先生っ!」
鈴は慌てて立ち上がろうとしたので、頭から釣瓶の水を浴びてびしょぬれになってしまった。
濡れた白い道着から見える白い肌を見て斎藤は、一瞬ムラッと来てしまった。
「これを使え。」
斎藤はそう言って懐から手拭いを出し、鈴に渡した。
「ありがとうございます。」
「いいんだ、別に。ところで、一体何に怒ってたんだ?」
「それは、英人が・・」
「英人?ああ、最近新しく入った奴か。」
斎藤は少し不機嫌になった。
「あいつ、さっきあいつのことヒソヒソ言ってた奴に微笑みかけたんですよ!媚び売って・・英人のあの花のような笑顔は俺のものなのなのに、安売りするなんて英人の奴許せない!」
鈴はそう言って拳を固めた。
「だいたい英人の奴、自分が綺麗だからってそれを安売りして・・真也の奴なんか昨夜英人にキスされたとかで喜んでみんなに言いふらしてるんですよ!鼻の下伸ばした真也の顔ったらムカついてムカついて・・斎藤先生、聞いてます?」
「・・すまん、居眠りしてた。」
そう言って斎藤は袖口でよだれを拭いた。
「そんなにカッカッしなくてもいいだろ。そんなことより、正村に伝えろ。沖田さんが呼んでいると。」
「沖田先生が、英人を?」
鈴は急に不安そうな顔をした。
「彼・・何かしたんですか?」
「いいや、何でも彼に用があるとかで。」
「わかりました。」
鈴はそう言って井戸を後にした。
「・・そこにいるんだろう、沖田。」
「あれ、バレちゃいましたかぁ。斎藤さんにはかなわないなぁ。」
茂みの中から顔をひょっこりと出して、沖田はそう言って舌を出した。
「正村には直接会えばいいだろ。どうしてそう回りくどいことをするかな。」
斎藤はそう言って溜息をついた。
「いいでしょ。それに、正村君についてひとつ報告がありますし。」
「報告?」
斎藤の眉がピクリと上がった。
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