ゾフィー大公妃の葬儀は、カプツィーナ教会によってしめやかに行われた。
葬儀には皇帝夫妻と皇太子夫妻、皇女ヴァレリーが参列していた。
―大公妃様は、曾孫のお顔を見ずにお亡くなりになられて、お可哀想に。
―皇太子様は皇太子妃様を甘やかし過ぎているのではなくて?
―全くだわ・・
葬儀の後、貴族達はひそひそと瑞姫の陰口を叩いていた。
「ルドルフ様、すいません。」
「謝らなくていいよ。君が大学を卒業するまで子どもは作らないと、そう決めたんだから。」
「でも・・新婚旅行の時は避妊せずにしましたよね?」
新婚旅行中、ルドルフと瑞姫は各地を観光したが、その後はずっと客室に籠って愛し合っていた。
“ウィーンに戻るまで、2人きりの時間を楽しみたい”というルドルフの願いを、瑞姫は無下にする事が出来なかったし、2人きりで過ごす時間を大切にしたかった。
「もしかしたら、と思っているの?」
ルドルフはそう言って、瑞姫の下腹をそっと撫でた。
「いえ・・もうすぐ生理が来る筈なので、まだ・・」
「そう。今回は駄目でも、大丈夫だ。焦らないでいこう。」
「ええ。」
瑞姫はルドルフの言葉を聞いて、笑顔を浮かべた。
「マリー、久しぶり。」
「ミズキ、久しぶり。元気そうね。」
新学期が始まり、マリーと再会した瑞姫は彼女と抱き合った。
「最近ルドルフ様とはどうなの? 相変わらずラブラブなの?」
「ええ。新婚旅行は楽しかったわ。ジャグジーの中で彼と2人きり、楽しい時間を過ごしたし。」
「まぁ、惚気話はもう聞きたくないわ。」
「あら、御免なさい。」
瑞姫はそう言って笑うと、コーヒーを飲もうとした。
すると、急に彼女は胃のむかつきを覚え、慌てて口元でハンカチを覆った。
「どうしたの?」
「急に気分が悪くなって・・夏バテが少し残っているのかしら?」
「大丈夫?」
その後胃のむかつきは治まったが、瑞姫は大学の授業が終わると近くの薬局へと向かった。
(妊娠検査薬って、何処に置いてあるんだっけ?)
店内を歩いていると、幼児を連れた若い母親が瑞姫にぶつかってきた。
「あ、すいません。こら、駄目でしょう!」
母親はそう言うと、男児を叱った。
「この子、おいくつですか?」
「2歳になるんです。もう目を離したら何処かへ行ってしまうから・・」
「へぇ、そうなんですか。大変ですねぇ。」
薬局の前で親子と別れた瑞姫は、その足でホーフブルクへと戻って行った。
自室に入り、薬局で買ってきた妊娠検査薬を取り出した彼女は、トイレに入って結果を待った。
突然感じた胃のむかつきは、夏バテなんかなじゃないと、彼女は思っていた。
3分後、瑞姫は検査薬を見ると、そこには陽性を示すピンク色の線が浮き出てきた。
(やっぱり・・)
まだ学生の身で、漸く宮廷での生活も慣れてきたところだというのに、妊娠してしまっただなんて。
「ミズキ、どうした? 食欲がないのか?」
「ええ・・」
夕食の席で、普段は残さずに食べる瑞姫が、珍しく夕食を残したことに、ルドルフは不審に思った。
「ルドルフ様、実は今日、妊娠検査薬を薬局で購入したんです。結果は、陽性でした。」
瑞姫がルドルフに妊娠の報告をすると、彼は破顔して彼女を抱き締めた。
「そう・・産んでくれるよね?」
「ええ。」
あれほど“曾孫の顔を見るまで死ねない”と言っていたゾフィー大公妃が亡くなった後、瑞姫はルドルフとの子を妊娠した。
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Last updated
2016年05月08日 20時56分10秒
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