「畜生、クソアマ!」
仲間を目の前で倒され、いきり立った暴徒が聖良に向かって金属バッドを振り翳したが、聖良の額を割る前に彼は暴徒の脇腹を鉄パイプで打った。
「ふん、たいしたことないね。役立たずのもんをつけているの、お前たちは?」
額に張り付いた汗を拭った聖良は、余裕の笑みを浮かべながら暴徒たちを見た。
「くそ、行くぞ!」
「このままで終わると思うな!」
暴徒たちは戦意喪失し、次々と引き上げていった。
「セーラ様、ご無事ですか!」
「リヒャルト。」
聖良が安堵の溜息を吐いていると、リヒャルトが駆け寄ってくるのが見えた。
「お怪我はありませんか?」
「ああ。それよりも夫人は?」
「彼女は大丈夫でしょう。さぁ、ここを離れましょう。」
「わかった。」
聖良とリヒャルトがアリエステ侯爵邸から離れ、王宮へと向かっている間、貧民街では住民たちがバリケードを作り軍隊を入れないようにしていた。
「あいつら、いきなり撃ってきやがった!」
「もう許せねぇ!」
「あいつらを一人残らず火達磨(ひだるま)にしてやらぁ!」
市民達に無差別に軍隊が発砲したこの事件は世界中で報道され、鳩江淑介(はとえしゅうすけ)はすぐさま現地へと飛んだ。
リヒト郊外から車を走らせ、首都へと向かった彼らが見たものは、破壊し尽くされた官民街と貴族街だった。
辺り一面には黒煙が上がり、銃声や怒号、悲鳴などが絶え間なく聞こえた。
淑介は我を忘れて、街の風景を何枚も撮った。
「危ない!」
何処からか悲鳴が聞こえたかと思うと、突然淑介の近くに建っていたビルが崩落し、コンクリートの塊が彼に降ってきた。
「誰か、来てくれ!怪我人だ!」
貧民街にある病院に担ぎ込まれた患者を見た聖良は、それがリシェーム王国で知り合った淑介だとわかり絶句した。
コンクリートの下敷きとなったのか、彼は大量に出血し、意識を失っていた。
「彼は助かるのか?」
「難しいところです。これほど出血が酷いと、輸血用の血液だけでは足りないかもしれません。」
「そんな・・」
聖良は、淑介を助ける方法を必死に模索した。
「他の病院では、どうだ?」
「どうだと申されますと?」
「輸血用の血液は大量に保存されているのか?」
「はい。確かワルテール病院なら大丈夫ですが、ここから最短ルートを通っても片道30分はかかります。」
「そうか。じゃぁ俺が行って血液を取ってくる。」
「セーラ様、危険です!」
「黙れ!」
異を唱えるリヒャルトを、聖良は睨みつけた。
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