「おい、起きろ!」
「ん・・」
アレックスが目を開けると、そこは客用の寝室だった。
「急に倒れたから、ビックリしたぞ。」
半ば呆れたように自分を見つめるウォルフの顔を、アレックスは睨みつけた。
「だって君が、いきなり婚約者だって言うから!」
「そうするしかあの馬鹿を黙らせる方法がなかったからだ。」
「へぇ、そう。もう家に帰らなきゃ。疲れたし早くベッドに入って休みたいから。」
アレックスがベッドから起き上がって寝室から出ようとすると、ウォルフが彼の腕を掴んだ。
「実は、お前は帰れなくなった。」
「何、どういうこと?」
「あの人が、俺をこの家に入れたがっていることは知っているだろう?それでお前をさっき婚約者だなんて紹介したから、すっかり乗り気になってだな・・」
「なんだよ、それ!僕を家同士の問題に巻き込まないでよ!」
アレックスは偏頭痛が襲ってきそうになりながら、溜息を吐いた。
「で、これから僕にどうしろっていうの?」
「そんなこと、俺に聞かれても困る。まぁ、今わかっているのは、俺もお前も同じ部屋で一晩過ごす羽目になったってことだ。」
「そんなぁ・・」
アレックスはガクリと肩を落とした。
その夜、ウォルフに連れられてタンバレイン家のダイニングルームへと入ったアレックスは、冷え切って険悪な空気が漂っているタンバレイン夫妻の顔をまともに見ることができなかった。
「その子が、あなたの婚約者なの?」
タンバレイン夫人はそう言うと、じろりとアレックスを見た。
「はい、アシュリーと申します。」
「こんなブスの何処がいいんだか。女の趣味が悪いよな。」
コーンブレッドを齧(かじ)りながら、ディーンはニヤニヤとウォルフを見た。
「それはどうも。お前は巨乳でミーハーな女だったら誰でもいいんだろう?アンジェラ最近化粧が濃過ぎないか?」
「うるせぇ!」
「あの女、先週違うアメフト部員と歩いてたぞ。確か・・ネイサンってやつだったな?」
「畜生、あいつぶっ殺してやる!」
ディーンは乱暴に椅子から立ち上がると、ダイニングから出て行った。
「あなた、一体ディーンに何を吹き込んだの!?」
「別に何も。」
ウォルフが涼しい顔でタンバレイン夫人を軽くあしらっていると、家政婦が料理をワゴンに載せて運んできた。
食卓に並んだのはフライド・キチンとビスケットという、典型的なアメリカ南部の家庭料理だった。
「デザートはピーチ・コブラーです。」
「そう。お前が作るピーチ・コブラーは絶品だものね。もう下がってもいいわよ、アーニー。」
「はい、奥様。」
アフリカ系の家政婦(ヘルプ)は、大きな身体を揺らしながらダイニングから出て行った。
「さてと、頂く前にお祈りをしましょう。」
食前の祈りをささげた後、アレックス達は無言で夕食を取った。
「あなた、この子を本当に家に入れるつもりですの?」
「ああ、ウォルフもタンバレイン家の一員だ。トレーラーパークに住むよりも、ここでちゃんとした生活を送った方がウォルフにとっていいんだ。」
「ふざけるな、誰がこんな欺瞞(ぎまん)に満ちた家で暮らせるか!」
ウォルフはそう叫ぶと、ミスター・タンバレインに向かってナプキンを投げつけた。
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