「きみ、一人?」
アレックスが振り向くと、そこにはブロンドの髪を靡(なび)かせて日焼けした肌をした青年が立っていた。
「いえ・・連れを待っているんです。」
「ふぅん、そう。俺はジェイクだ、宜しくね。君は?」
「ア・・アシュリーです・・」
「アシュリーかぁ・・可愛い名前だね。」
ジェイクと名乗った青年は、まるで品定めするかのようにジロジロとアレックスの全身を見ていた。
「わ、わたしこれで失礼します!」
「あ、待って!」
ジェイクの視線に気味悪さを感じたアレックスは、ドレスの裾を摘んで屋敷の中へと入っていった。
広大な庭園を持つタンバレイン家の屋敷は、コロニアル様式の美しい外観をしており、内部はロココ様式の華美な調度品や家具が揃っていた。
(ウォルフは何処にいるのかな?)
マーメイドドレスの裾を摘みながら、アレックスは邸内を観察しながら歩いていると、誰かが争うような声が聞こえた。
そこは、タンバレイン家の男達が葉巻を吸いながらビリヤードに興じる遊戯室だった。
「わたくしは認めませんよ、悪魔の私生児をこの家に入れるだなんて!」
「口を慎め、アビゲイル!ウォルフだってわたしの息子だ!」
「よくも抜けぬけとそのようなことを・・わたくしの息子はディーンだけですわ!」
ドアの隙間からアレックスは、怒り狂うタンバレイン夫人の顔を見た。
「どうして君はあの子を受け入れることが出来ないんだ?」
「愛人の子を憎むのは、当たり前でしょう!?この家にあの子を入れたら、全員呪い殺されるに決まってますわ!」
「止めないか、アビゲイル!」
「あの子は魔女の息子よ!わたくしやディーンだけでなく、この一族を呪い殺すでしょうよ!」
(全員呪い殺される?魔女の息子?一体どういうことなんだろう?)
「おい、そんなところで何をしているんだよ、このブス!」
話に夢中になっていて、ディーンが近づいてくることにアレックスは全く気づかなかった。
「わ、わたしは別に・・」
「ちょうどいい、お前に話があるんだよ。来い!」
「いやっ、やめてください!」
ここでディーンに正体がバレたら最悪だ。
アレックスとディーンが揉み合っていると、ウォルフが廊下の向こうから歩いてきた。
「彼女を放せ、ディーン。」
「うるさい、お前に命令されるなんて真っ平だ!このブスを庇うのか?」
「ああ。何故なら・・」
ウォルフはアレックスの腰を掴んで自分の方へと引き寄せると、いきなり彼にキスをした。
「こいつは俺の婚約者だからだ。」
(え、今何て・・)
ウォルフの言葉に目をパチクリとさせながら、アレックスは急に身体のバランスを崩して気絶した。
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