ウォルフが交差点で信号待ちをしていると、一台のスポーツカーが隣に停まった。
「おいてめぇ、顔見せろよ!」
スポーツカーの運転席に座っていた男は、ガラの悪そうな顔をしていた。
ウォルフがうんざりして窓を開けて外に顔を出すと、スポーツカーの運転手は彼に唾を吐きかけた。
「誰かと思ったら娼婦の息子じゃねぇか。まだこの町にいやがったのか、とっとと失せやがれ。」
未婚の母から生まれたということで今まで謂れのない差別を受けてきたウォルフにとって、男の罵声は大して心に響かなかった。
「俺だってこんなクソの掃き溜めのような町、居たくはないが、事情があるんでね。」
「へっ、そうかよ。」
スポーツカーの運転手は急に興味を失ったかのように、青信号になるとスポーツカーを急発進させ闇の彼方へと消えていった。
ああいう輩には関わらない方が身の為だ―そう思いながらウォルフはタンバレイン邸の敷地内へと車を入れた。
裏口から家に入ると、中には誰も居なかった。
そっと二階へと上がろうとした時、誰かが言い争う声が聞こえた。
「あなた、いつまであの子をそこに置いておくつもり?」
「アビゲイル、少し黙っておいてくれないか!?」
「何よ、わたしはあなたのために・・」
「うるさい!」
タンバレイン夫妻の会話をもうそれ以上聞きたくなくて、ウォルフは自室に戻るとアレンから渡されたUSBメモリをラリーのラップトップに挿し込んだ。
パスワード認証画面に素早くパスワードを打ち込むと、そこには信じられないものが入っていた。
ラリーは顧客情報の中でも最も重要なものだけを、USBメモリに保存していた。
そこにはある大物政治家の名があった。
「おはよう、どうしたの?顔色悪いよ?」
「ああ・・アレックス、朝食の後話せるか?」
「わかった。」
二人が階下へと降りると、タンバレイン夫妻はまるで通夜のように陰鬱な表情を浮かべて押し黙っていた。
「どうかなさったんですか?」
「あなたには関係のないことよ。それよりもあいつを殺した犯人はまだ捕まらないのかしら?」
「それは警察にお任せいたしましょう。素人ができる事は限られていますから。」
「そうね・・」
タンバレイン夫人にラップトップのことを話していなくてよかったとアレックスは思った。
「ご馳走様でした。」
「あら、もう食べないの?」
「このごろ食欲が余りなくて。失礼します。」
アレックスがダイニングから出て部屋へと戻ると、ラップトップの前にはアレックスが座っていた。
「ラリーを殺した犯人がわかった。」
「え?」
「昨日、彼の友人で隣町のクラブを経営するアレンからラリーのUSBメモリを渡された。そこにあったファイルを開いてみると、ある人物の名が出てきた。」
「誰なの、彼を殺した犯人は?」
「お前もよく知っている人物だ。」
そう言うとウォルフは、パソコンの画面を指差した。
そこには、自分の実の祖父であるジャック=ハノーヴァーの顔写真が映っていた。
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