「何だと、それは一体どういうことだ!?」
「そもそも、ルドルフ様があの人魚を連れて来たのです。それは、余程あの人魚に執着している上でお取りになられた行動でしょう。わたしが、ルドルフ様を人魚から引き離す事など、できません。」
「ではどうすればよいのだ!現にあいつは、シュティファニーが亡くなって間もないというのに、プールであの人魚と戯れているではないか!」
「それは、わたくしどもでもどうも出来ません・・」
怒り狂うフランツを前にして、歳三はそう言って彼に頭を下げることしか出来なかった。
「一体これから、どうなるんだ?皇太子妃様が玻璃の薬を飲んで死んだのは間違いねぇが・・」
「そうですよねぇ、今はまだその事は公にされていませんが、もしこれが世間に広まりでもしたら・・」
「一大事だな。その薬がどんなものかわかったら、人魚達は人間どもに捕えられちまう。それに、海も汚されることになる。」
「当分、あの薬の事は誰にも話さない方がいいでしょうね。」
「ああ・・」
皇帝との謁見を済ませた後、歳三はスイス宮から聞こえてくる歓声に耳をすませた。
「なぁエリカ、皇太子ご夫妻は上手くいっていたのか?」
「いいえ。離婚寸前だと聞いてます。多分ルドルフ様にとっては、皇太子妃様が死んだことなんて痛くも痒くもないのでしょうね、きっと。」
「何だか可哀想な人だったんだな、皇太子妃様は。一度しか会ってないが、不幸な結婚生活だったんだろうな。」
歳三はそう言うと、スイス宮へと足を向けた。
「どちらへ?」
「玻璃に、会ってくる。」
歳三がスイス宮の中庭へと向かうと、そこには豪華で広いプールがあり、その中ではルドルフと玻璃が戯れていた。
「玻璃、どうやらお前のことが気になって仕方がない男が来たようだ。」
「歳三様、来てくださったんですね!」
「お前ぇ、こんなところで何してやがる?皇太子妃様が死んだっていうのに・・」
「申し訳ありません、すぐに着替えます。」
玻璃はそう言ってプールから上がると、近くにあったベンチに置いてあったタオルで濡れた身体を拭いた。
「玻璃、ルドルフに気をつけろ。あいつは・・」
「わかってます。あの人はわたしの敵です。歳三様、また会えますよね?」
「ああ、会えるさ。それまで、元気で居ろよ。」
「わかりました・・」
「それじゃぁ、俺はもう行くからな。」
「お気をつけて。」
歳三が中庭から去って行くのを静かに見送った玻璃だったが、ルドルフは彼女の背後に回ると彼女の豊満な乳房を揉んだ。
「やめてください!」
「いいだろう、減るものでもないし。」
ルドルフはそう言うと、玻璃の腰を掴んでプールへと入った。
「まぁ、あれは・・」
「何ということでしょう、皇太子妃様が亡くなられてまだ時間が経たないというのに・・」
「不謹慎にも程がありますわ!」
自分の妻が死んだというのに、彼女の死を悲しむこともなく人魚と戯れるルドルフの姿に、皇太子妃付の女官達は一斉に眉を顰(ひそ)めた。
数日後、シュティファニーの葬儀がカプツィーナ教会で執り行われた。
市民達は、不遇の末に急逝した皇太子妃の死を悼み、彼女の魂が安らかであるようにと静かに彼女に祈りを捧げた。
葬儀には、ルドルフは参列しなかった。
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