「先生、おはようございます。」
「おう、おはよう。」
翌朝、歳三が出勤すると、校門の近くを歩いていた生徒達が歳三に気づいて彼に挨拶しながら次々と校舎の中に入っていった。
「土方先生、おはようございます・・」
「おはよう、荻野。」
「昨夜、またあの人から電話があったそうですね・・それに、例の“プレゼント”も。」
周囲の生徒達に聞こえないような声で、千尋はそう言うと歳三を見た。
「何でお前がそんな事を知っているんだ?」
「昨夜寝る前に、先生の奥さんから電話が来て・・これ以上自分の家庭を引っ掻き回さないでくれって言われました。」
「そうか・・」
琴子の奴、余計な事をしやがって―歳三は内心妻に向かってそう毒づくと、千尋の肩をそっと抱いた。
「お前は何も心配するな、千尋。あの人がこれ以上うちに嫌がらせをするつもりなら、こっちだって考えがある。」
「そうですか・・余り無茶しないでくださいね。」
「わかったよ。千尋、昼休み時間あるか?」
「ええ。」
「じゃぁ、いつもの場所に来い。」
「はい、わかりました。それじゃぁ、失礼します。」
千尋は嬉しそうに笑うと、歳三に頭を下げて校舎の中へと入っていった。
「千尋、おはよう。」
「おはよう。」
「なぁ、数学の宿題やった?やってたら、少し見せてくれねぇか?」
教室に入った千尋が自分の席に座ると、隣の席の藤堂平助が千尋にそう話しかけて来た。
「おい平助、いつもお前千尋の数学の宿題写してんじゃん!千尋、嫌な事は断ってもいいんだぜ?」
平助の言葉を聞いた彼の友人・吉田がそう言って平助にヘッドロックをかました。
「だってさぁ・・」
「だってもクソもねぇよ。まだ二時間目まで時間があるだろうが、さっさと宿題しやがれ!」
「朝っぱらから煩せぇぞ、お前ら!」
教室に入った歳三がそう怒鳴って平助達の方を見ると、平助は数学の宿題を必死にやっているところだった。
「平助、また数学の宿題忘れやがったのか!」
「だってよ~、なかなかゲームがクリアできなくてさぁ・・」
「ったく、お前ぇはゲームと勉強、どっちが大事なんだ!?」
歳三はそう平助に怒鳴った後、出席簿を教壇に叩きつけた。
「もうすぐ受験シーズンなんだから、みんなたるんでんじゃねぇぞ、わかったな!」
朝のHRを終えた歳三が教室から職員室へと戻ると、自分のデスクの上に郵便物が山積みになっていた。
「おはよう、トシ。」
「おはよう、勇さん。」
郵便物をチェックしながら、歳三が親友であり誠学園校長兼理事長の近藤勇に挨拶した時、彼は指先に鋭い痛みを感じて顔を顰(しか)めた。
「どうした、トシ?」
「畜生、またあの女か・・」
剃刀で切った指先をティッシュで押さえた歳三は、耳元で朱莉が自分を嘲笑う声が聞こえたような気がした。
昼休み、千尋が歳三のいる数学準備室へと向かうと、右手の人差し指に絆創膏を巻いた歳三が回転椅子に座って煙草を吸っていた。
「先生、その怪我どうしたんですか?」
「ああ、郵便物チェックしていたら、紙で切っちまってな・・大した怪我じゃねぇから、心配するな。」
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