「わたくしにはね、今生きていればあなたと同じ年になっていた筈の娘が居たのよ。」
「娘さんが居たんですか?」
「ええ、でも生まれてすぐに病気で死んでしまったわ。あなたを世話することになって、いつの間にかわたくしはあなたを死んだ娘の代わりのように思っていたのね。」
「アイリス様・・」
「あなたも、ずっと死んでいたと思っていたお父さんが生きていると知って、会いたいと思ったから頑張って来たんでしょう?」
「ええ。今はまだ会えないけれど、お父さんと会える日が来るまで必死に頑張ってきました。アイリス様、これからも宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくね。」
カフェで昼食を済ませた後、二人は宝石店へと向かった。
「アイリス様、ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ。」
店員はそう言ってアイリスと凛を奥の個室へと案内した。
「こちらが、ご注文されたネックレスと髪留めになっております。」
「有難う。」
「アイリス様、これは?」
「あなたが社交界デビューの日の夜につける髪留めよ。綺麗でしょう?」
凛はアイリスに真珠の髪留めを見せられ、大粒の真珠がふんだんに使われた髪留めの美しさに絶句した。
「これを、僕がつけるんですか?」
「あなた、黒髪だから真珠に映えると思うのよ。今ここでつけてみたら?」
アイリスに勧められ、凛は真珠の髪留めをつけて鏡の前に立った。
「よくお似合いですよ。」
「本当にこんな高価な物をつけても宜しいのでしょうか?」
「いいに決まっているでしょう? あなたの為に、わたくしが特別に注文したのだから。」
思う存分ショッピングを楽しんだ二人が帰宅すると、客間から賑やかな笑い声が聞こえた。
「あら、お客様かしら?」
「二人とも、お帰り。紹介するよ、こちらはキース、わたしの古い友人だ。」
「初めまして、キース様。リンと申します。」
「君がリンだね? 色々と噂は聞いているよ。」
蒼い瞳で自分を見つめるルシウスの旧友・キースは、そう言うと凛に優しく微笑んだ。
「今日君をこの家に招いたのは、リンの社交界デビューを飾る王宮舞踏会で、君がリンのエスコートをしてくれないかというお願いをしたかったからだよ。」
「勿論さ。親友の頼みは断れないからね。」
「有難う。」
「リン様、ヴァイオリンの先生がいらっしゃいました。」
「はい、今行きます。キース様、本日はお会いできて嬉しかったです。」
凛はキースに頭を下げると、そのまま客間から出て行った。
「あれが、マリア皇女様の孫君様か。わたしにとっては、従甥(じゅうせい)に当たるんだな。」
「ええ。それよりも皇太子様もお人が悪い。わざわざ偽名を名乗って、自らの正体を明かさないなんて・・」
「お楽しみは最後にとっておくのがわたしの趣味でね。どうだルシウス、義理の甥と会った感想は?」
「礼儀正しくて、根性が据わっている子です。この先何があっても彼はきっと乗り越えることでしょう。」
そう言ったルシウスの顔は、何処か嬉しそうだった。
素材提供:Little Eden様
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