―総司。
夢に出てくる男の声が、脳裡に甦った。
総司はその男が、今自分を抱き締めている歳三と瓜二つだということに気づいた。
「歳三兄ちゃん・・どうして? どうして此処に居るの?」
「どうしてって、お前が心配だからに決まってんだろ。」
歳三は総司に微笑みながら、そっと彼から離れた。
「土方さん・・と言ったか。ちょっと俺と来て欲しい。」
一はそう言って歳三を睨みつけた。
「総司、すぐに戻るからな。」
「気をつけて。」
総司の病室から出て行った一と歳三は、病院の屋上へと向かった。
「俺に話ってなんだ?」
「総司が俺の婚約者だと知りながら、どうしてあんたは総司に構うんだ?」
「俺がまだ総司の事を愛しているからだよ。15の時に総司と出逢ってからずっと・・あいつに別れを切りだされても、俺はあいつの事が諦めきれなかった。お前という存在が居てもな。」
歳三はそう言うと、一を睨みつけた。
「お前が総司の何を知っているか知らねぇが、総司は俺のものだ。あいつの為ならなんだってしてやる。」
一は、歳三の言葉を受けて美しい眦を上げた。
総司とはウィーンに留学する時に出逢い、向こうで生活してから恋人同士となった。
だが自分と出逢う前の頃の総司が、誰と付き合っていたのかは知らない。
「俺と総司がウィーンに居た時、あいつは時折寂しそうな顔をしながら東の空を見つめていた。まるで誰かを想うように・・それがあんただったとはな。」
悔しかった。
それと同時に憎かった、総司が以前付き合い、今自分と婚約してもなお想っている歳三という男が。
「俺にとって総司が特別であるように、あいつにとって俺の存在は特別なんだよ。言ってる意味、解るな?」
歳三と総司との間に誰も入れる隙間などない、と歳三の琥珀色の双眸はそう一に言っていた。
「諦めろというのか、総司を?」
「それは別にどう解釈してくれたっていいぜ。」
歳三は煙草を取り出してライターを付けると、紫煙を吐きだした。
「俺は総司を諦めるつもりはない。あいつにプロポーズした時、俺はあいつの手を絶対離さないと誓ったんだ。」
一は歳三を睨み付けると、彼に背を向けて屋上から去っていった。
「ふん、青臭いこと言いやがって。お前が何をしたって、総司がはいつか俺の元に戻ってくる。」
意識を取り戻した時、総司は自分を拒まなかった。
本当に憎い相手なら、冷たく拒絶する筈なのに、彼はそうしなかった。
(総司、俺はあいつを・・斎藤をお前の心から忘れさせてみせる。)
歳三が夕陽によって緋に染まる街を屋上から眺めていると、スーツの胸ポケットに入れていた携帯がけたたましく鳴った。
琴枝かと思って彼が液晶画面を見ると、そこには「大鳥」と表示されていた。
「なんだ、大鳥さん。」
『なんだじゃないだろ、土方君! 1週間も無断欠勤して何処に居るんだ!?』
「済まねぇな、今からそっちに行く。」
歳三はそう言うと、携帯の通話を終了した。
一方総司は、医師から腎機能が低下していることを宣告されていた。
「このままじゃ命に関わるかもしれない。」
「じゃぁ、手術することも・・」
「あるだろう。暫く入院して貰うよ。」
「解りました。」
入院生活が長引くことを知った彼は、溜息を吐いた。
(一君にまた迷惑掛けちゃったな・・)
婚約したばかりだというのに、入院して一と離ればなれとなってしまうことで、彼に負担をかけてしまうのではないかと総司は悩み、ある決断を下した。
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最終更新日
2015年06月07日 20時23分56秒
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