※BGMと共にお楽しみください。
土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。
「ねぇ、君が新月の夜に出没する鬼?成程、その姿は・・」
「お前、土方の仲間か?」
「そうだけど、それが君に何か関係あるの?」
「お前の首を、土方への土産にしてやる!」
お優はそう言って総司の胴を薙ぎ払おうとしたが、その前に総司が彼女の胴を峰打ちにして気絶させた。
「あんまり僕を軽く見ない方がいいよ。」
「沖田先生、ご無事ですか?」
「屯所に戻って、この子に色々と聞かないとね。」
総司はそう言うと、気絶したお優を肩に担いで屯所へと戻った。
「トシ、少し痩せたか?」
「そうか?」
「今夜の会合で、余り食べていなかったな?」
「俺はあんな豪華な料理は好きじゃねぇんだ。沢庵と茶漬けだけありゃぁいい。」
「トシは少食だからなぁ・・少し肉をつけた方がいいんじゃないか?」
勇はそう言うと、歳三の胸に顔を埋めた。
「やめろよ、くすぐったい・・」
「いいだろう、別に・・」
副長室で歳三と勇がそんな事を言いながら裸でじゃれあっていると、廊下から総司の声が聞こえて来た。
「土方さ~ん!」
「いけねぇ、総司が巡察から帰って来やがった!」
「もうそんな時か・・」
慌てて互いに服を着た勇と歳三は、呼吸を少し整えた後、副長室の襖を開けた。
「どうした、総司?」
「新月の夜に出没する鬼を捕えたんですけれど、どうします?」
総司はそう言うと、肩に担いでいたお優をそっと畳の上に寝かせた。
「こいつは・・」
「土方さん、こいつを知っているんですか?」
「あぁ。昔、江戸で会った事がある。」
「そうなんですか。じゃぁ話が早いや。」
「総司、そいつをどうする気だ?」
「それは土方さん次第ですよ。」
総司はそう言うと、口端を歪めて笑った。
「ん・・」
お優が目を開けると、そこには長年追い続けてきた“仇”の姿があった。
「土方さん、さっきからこいつが言っている、“先生”って誰なんですか?」
「江戸に居た頃、俺はキリシタンとして洗礼を受けた。その時に俺は、”先生“―松本安斎に出会ったんだ。」
歳三はそう言いながら、“先生”こと松本安斎(まつもとあんざい)と初めて会った時の事を話した。
安斎は、亜麻色の髪に琥珀の瞳という、日本人にしては珍しい容姿をしていた。
それ故に、近隣の村人達からは「鬼」と呼ばれ、恐れられていた。
だがそんな大人達とは違って、子供達は読み書きや算盤、剣術などを教えてくれる彼によく懐き、慕った。
歳三も、その中の一人だった。
「なぁ、“先生”がこの前、仔鬼を連れているのを俺の父ちゃんが見たんだと。」
「仔鬼?」
「あぁ、何でも銀色の髪と、血のように紅い瞳をしていたんだと。」
「へぇ・・」
寺子屋でそんな噂を聞いた歳三は、その真偽を確かめる為、安斎が暮らす家へと向かった。
そこには、確かに鬼と見紛うかのような、銀髪紅眼という何処か不気味な容姿をした二人の子供が居た。
「そこで何をしているんです?」
「先生、俺は・・」
「良かったら君も、お団子食べませんか?丁度四つありますし。」
「は、はい・・」
その二人の子供―巽とお優の姉弟は、歳三と目が合った瞬間、まるで威嚇するかのように唸った。
「すいませんね、この子達は今まで、この容姿の所為で周囲の大人達から散々ひどい目に遭わされてきたんです。だから君だけは、この子達と仲良くしてあげて下さいね。」
安斎はそう言うと、歳三に優しく微笑んだ。
それから歳三は、時折安斎の家を訪ねては、彼らと共に楽しい時間を過ごした。
だが、そんな幸せは長く続かなかった。
「先生、大変です!近々大規模なキリシタン狩りがあると・・」
「そうですか。」
「逃げないのですか、先生?」
「わたしは何も悪い事はしていません。わたしはただ、自分の信じる神を信じただけです。」
そう言った安斎の顔は、何処か安らかなものだった。
数日後、大規模なキリシタン狩りが行われ、礼拝の最中に役人達によって惨殺された村人達の遺体を発見した歳三は、胸騒ぎがして安斎の家へと向かうと、そこは既に灰燼(かいじん)に帰していた。
「先生、何処ですか~!」
歳三が安斎の姿を探すと、彼は袈裟斬りにされ、血の海の中で喘いでいた。
「先生!」
「どうか・・彼らを・・守ってあげて下さいね。」
歳三が頷くと、安斎は微笑みながら安らかに逝った。
「・・それが、俺が見た“先生”の最期だ。」
「じゃぁ、“先生”を殺したんは誰なん?」
「それは、俺にもわからねぇ。だが、俺は先生を殺してねぇ!」
歳三の言葉を聞いたお優の真紅の瞳が大きく揺らいだ。
「あれが、鬼の片割れか・・」
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