「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。
「う・・」
「目が覚めたか?」
歳三がゆっくりと目を開けると、そこは洞窟の中だった。
「こいつが、本物の方か?」
「ああ、間違いない。」
そう言ったのは、赤髪の大男の隣に立つ、銀髪の男だった。
「お前ら、何者だ?」
「済まない、自己紹介が遅れたな。俺は茨木童子、こっちの赤い方は酒呑童子だ。あんた達には悪いが、少し俺達に付き合って貰うぜ。」
「嫌だと言ったら?」
「悪いようにはしねぇさ。」
酒呑童子はそう言うと、歳三とはじめを交互に見た。
「申し訳ありません兄上、俺の所為で・・」
「過ぎた事はどうにもならねぇよ。それよりもはじめ、お前どうしてあいつらに攫われたんだ?」
「はい、実は・・」
はじめは歳三に、二人に攫われた日の事を話した。
その日は、いつものようにはじめが太郎君に箏を教えていると、外から女房達の悲鳴が聞こえた。
「姉様・・」
「太郎君、お前はここに居ろ。」
「はい・・」
はじめがそう言って外を見ると、自分の前に赤髪の大男が立っている事に気づいた。
「貴様、何者だ!?」
「ちょっと、俺に付き合って貰おうか?」
「な・・」
反撃する間もなく、はじめは彼に鳩尾を殴られて気絶した。
「それで、目が覚めたらここに居たって訳か。」
「はい。それよりも兄上、彼らは何故か兄上の事を以前から知っているようです。」
「そうか。何だか怪しいな。」
「あぁ・・確か、兄上の懐剣の事を、彼らは知っているようでした。」
「知っている?」
「はい。少しだけ、あの二人が兄上の懐剣について話しているのを聞きました。」
―まさか、あの方が霞様の・・
―では、どうするつもりだ?
―それはまだ、考えていない。
「詳しくは聞けませんでしたが、兄上、心当たりはありませんか?」
「ないな。だが、一度俺は、鬼に会った事があるんだ。」
「鬼に、会ったのですか?」
「あぁ。」
歳三は、幼少期に体験した不思議な出来事をはじめに話した。
「そんな事が・・」
「もしかしたら・・あの鬼が、俺を産んでくれた母親なのかもしれねぇ。」
「それは、確かなのですか?」
「さぁ、わからねぇ・・」
「兄上、顔色が悪いですよ?」
「大丈夫だ・・」
歳三はそう言うと、冷たい床の上に横になった。
身体が、燃えるように熱かった。
一方、屋敷では酒呑童子が酒を飲んで眠っていた。
「全く、こやつの酒好きには困ったものよのう。」
「あなたがこいつに酒呑と名付けたからでしょう?」
「言うてくれる。それにしても、鬼姫達をどうするつもりじゃ?」
「それは・・」
「妃にするつもりなら、やめておけ。鬼姫達はそなたらの手には負えぬ。」
「そうか。」
「茨木、もうそろそろ帝が動き出すぞ。」
「帝が?」
「妻を攫ったお主達を殺める事など、あの男にとっては容易い事よ。」
少年はそう言うと、酒を一口飲んだ。
「大変でございます!」
「どうした?」
「茨木様、客人が・・」
「今行く、案内せよ。」
「はい!」
下働きの婢と共に茨木童子は地下の洞窟へと向かった。
「兄上、しっかりして下さい!」
「一体、何が起きた?」
「あの方が、突然苦しまれたかと思うと・・」
婢はそう言うと、震える指先で歳三が居る牢獄を指した。
するとそこには、苦しそうに呻きながら横たわっている一匹の鬼の姿があった。
「これは・・」
「どうやら、覚醒めの時が来たようじゃのう。」
「覚醒めの時だと?」
「今宵は朔(新月)じゃ。妖力が高まる時、この者は半妖故、己の流れる血の所為で苦しんでおる。」
「血だと?」
「そうじゃ。この者の母親は、北方の誇り高き鬼の一族ぞ。だが、父親の方は名もなき雑色よ。」
「霞様は、人の子を身籠り家を追われたと・・」
「そうじゃ。」
「何と・・」
「この者を救う為の方法は、ひとつしかない。」
「それは?」
「鬼の精を、その者に注ぐ事よ・・」
「漸く見つけたぞ、雑鬼共。」
背後から地が震えるかのような声がして茨木童子達が振り向くと、そこには怒りで真紅の瞳を滾らせながら彼らを睨みつけている千景の姿があった。
「さぁ、我妻を返して貰おう。」
「それは出来ぬな。何故なら、そなたの妻は今、死にかけておる。」
「何だと!?」
「妻を救いたくば、その身に鬼の精を注ぐがいい。」
「そこを退け。」
「部屋を用意せよ。」
「わかりました。」
婢と共に、歳三を横抱きにした千景は地下の洞窟を後にした。
自分の腕に抱かれている歳三は、銀髪に三本の角を生やした姿だった。
「お前は下がれ。」
「はい・・」
御帳台の上に歳三を寝かせた千景は、そっと彼の頬を優しく撫でた。
「お前は永遠に俺のものだ。」
千景はそう言うと、歳三の唇を塞いだ。
歳三は、闇の中を歩いていた。
(ここは、何処だ?)
暫く歳三が歩いていると、彼は藤の木がある池へと辿り着いた。
(ここは、一体・・)
「漸く来たわね。」
「あんたは・・」
歳三が向こうからやって来た、一人の女の顔を見ると、彼女は銀髪で自分と同じ三本の角を持っていた。
「その懐剣、ずっと持っていてくれたのね。」
女はそう言うと、歳三を抱き締めた。
「あんたが、俺の・・」
「会いたかった、吾子よ。」
女は涙を流しながら、歳三を抱き締めた。
「あなたがここに居るという事は、あなたは今、死にかけているのね?」
「あぁ・・」
「歳三、良くお聞きなさい。わたいはあなたと共に過ごした時間は短かったけれど、わたしはあなたをいつまでも見守っているわ・・」
女は、歳三の頬を撫でた後、寂しそうな顔をして彼に微笑んだ。
―歳三
遠くで己の名を呼ぶ声が聞こえているというのに、歳三は何故かずっと女の傍に居たかった。
「さぁ、もう行きなさい。」
「でも、俺は・・」
「お前の帰りを、待っている者が居ます。」
さぁ、と歳三を促すかのように女は彼の背を押した。
「待ってくれ、まだ話を・・」
歳三は慌てて女の元へと向かおうとしたが、女は徐々に藤の花に埋もれ、その姿が見えなくなっていった。
「待ってくれ、お願いだ!」
―その子の為に、生きなさい。
女は、歳三の下腹を指すと、消えた。
「お願いだ、待ってくれ・・」
「歳三、目が覚めたのか?」
「千景・・どうして、ここは・・」
「お前は三日も眠り続けていたのだ。」
「三日も・・」
「熱は、下がっていたようだな?」
千景はそう言うと、歳三の額に手を当てた。
「薬湯だ。」
「ありがとう・・」
千景から受け取った薬湯を歳三が一口飲もうとした時、彼は突然激しい吐き気に襲われた。
「大丈夫か?」
「あぁ・・」
程なくして、薬師が呼ばれた。
「どうだ?」
「恐れながら申し上げます・・中宮様、ご懐妊おめでとうございます。」
「え?」
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