素材は、
黒獅様からお借りしました。
「黒執事」「ツイステッドワンダーランド」の二次小説です。
作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。
セバスチャン=ミカエリスは、その日知人から招待を受けてある場所へと向かっていた。
「おやおや、珍しいねぇ。君がこんな所に来るなんて。」
葬儀屋と会ったセバスチャンは、渋面を浮かべた。
「人付き合いは、この世界で大切ですよ。」
「闇オークションに、人付き合いも何もないだろう?」
「まぁ、そうですね。」
セバスチャンがそう言って溜息を吐くと、闇オークションが始まった。
「ご来場の皆様、本日の目玉商品の登場です!」
司会者の男がそう叫ぶと、数人の男達が、台車に載せた何かを運んで来た。
それは、黒い布に覆われていた。
「さぁ皆様、ご覧あれ!人魚の登場です!」
布が外され、ドーム型の水槽が現れた。
その中には、蒼い鰭を持った人魚が入っていた。
蒼銀色の髪に、雪のように白い肌を持った人魚は、怯えているようで不安そうに紫と蒼の瞳で辺りを見渡していた。
「それでは、二千万から始めます。」
「二千五百万!」
「三千万!」
セバスチャンは、人魚と目が合った。
その瞳を見た時、セバスチャンは雷に撃たれたかのような衝撃を受けた。
「三千万が出ました、他に誰かいらっしゃいませんか?では、三千万で・・」
「三億。」
周囲がざわめく中、セバスチャンは無意識に札を上げた。
「他には誰もいらっしゃいませんか?では、そちらの方が人魚を落札致しました!」
セバスチャンが闇オークションの会場から出ると、葬儀屋が彼の前に立ち塞がった。
「いい買い物したねぇ。」
「ええ。」
闇オークションから人魚を落札したセバスチャンは、その足で経営しているラウンジへと向かった。
「オーナー、お久し振りです!」
ラウンジに入ると、支配人がセバスチャンの姿に気づき、慌てて彼のテーブルへとやって来た。
「今日の売り上げは?」
「それが、隣の店に・・」
「そんな事だろうと思いました。」
セバスチャンは溜息を吐きながら、店内の内装を見た。
清掃は行き届いているが、壁紙はボロボロに剥がれているし、こんな状態じゃ潰れてしまうのも時間の問題だろう。
「今すぐ、全従業員を集めなさい。緊急ミーティングを始めます。」
「は、はい!」
数分後、セバスチャンは従業員の前で、店を全面改装する事を告げた。
「オーナー、それは本当なんですか?」
「えぇ。」
セバスチャンは店の老朽化が著しい事などを話し、ラウンジの改装工事中は、全従業員は有給休暇扱いにする事を決めた。
「え、水槽を!?」
「ここは、海が近いでしょう。海をイメージした巨大な水槽を店内の内装に取り入れたいと思いましてね。」
「そうですか・・」
ラウンジに、巨大な水槽が運ばれた事は、瞬く間に町の住民達の間に広まった。
―ねぇねぇ、あそこのラウンジ・・
―何でも、新装開店するみたいよ。
―へぇ、楽しみ。
インフェルノ・ラウンジは晴れて新装開店の日を迎えた。
「皆さん、今日から心機一転頑張りましょう!」
「オーナー、例のモノが到着しました。」
「わかりました。」
セバスチャンがラウンジの管理人室に入ると、そこにはあの人魚が入っている水槽が置かれていた。
「迎えに来るのが遅くなってしまいましたね、シエル。」
水槽の中に居る人魚―シエルは、怒りに滾っている紫と蒼の瞳でセバスチャンを睨みつけた。
「あぁ、わかりましたよ。こんな狭い水槽の中に閉じ込められるのは嫌ですよね。さぁ、今から大きな水槽に移動しますね。」
セバスチャンは人魚を大きい水槽へと移動させた。
「おや、どうしました?」
「僕に、見世物になれと言うのか。」
「いいえ、あなたの飼育環境を改善したのですよ。さぁ、どうぞ。」
「そうか。」
シエルは巨大水槽の中に入ると、いきいきとした様子で泳ぎ始めた。
「人魚だ、人魚が居る!」
「いやぁ、まさか君が人魚を飼っているなんて思いもしなかったよ。」
「いいえ、あの子は“特別”な存在ですよ。」
「へぇ・・」
劉はそう言うと、水槽の中で泳いでいる人魚を見た。
「おや、あの子、何処かで見た事があるなぁ。」
「本当ですか?」
「うん。確か、三年前に双子の人魚が北の海で捕獲されてさぁ、双子の片割れは、政府の研究施設に居るよ。まぁ、要するに人体実験ならぬ、人魚実験だね。」
「何故、そんな話をわたしに?」
「だって君、あの人魚に惚れたんでしょう?」
「馬鹿な事を。わたしは、ただの好奇心からあの子を飼っているだけですよ。」
「ふぅん。」
二人の会話を、シエルは水槽越しに聞いていた。
三年前、自分には双子の兄・ジェイドが居た。
生まれた時からずっと一緒だったジェイドと引き離されたのは、漁師が仕掛けた定置網にシエルとジェイドがひっかかりシエルは闇市場に、ジェイドは政府の研究施設へとそれぞれ引き取られていったからだった。
(ジェイド、今どうしているのかな。無事だといいのだけれど。)
シエルはそんな事を思いながら、耳に着けている蒼いピアスに触れた。
このピアスは、三年前にジェイドと揃って着けたものだ。
『シエル、僕達は離れていても、ずっと繋がっているからね。』
(ジェイド、会いたい。)
シエルは双子の兄を想って、静かに歌い出した。
―まぁ、素敵な声・・
―あの人魚が歌っているのかしら?
「おぉ、何という美しい歌声!儚げで麗しい人魚を、わたしという名の水槽で永遠に飼っていたい!」
「ドルイット子爵、お帰り下さい。」
「また来るよ。その時は、あの人魚の事を詳しく教えておくれ。」
「またのお越しを、お待ちしております。」
ドルイット子爵を店の前まで送った後、セバスチャンは店の中に戻った。
彼が水槽の方を見ると、シエルが何処か寂しそうな顔をしていた。
「どうしたのですか?」
「な、何でもない。」
その日の深夜、セバスチャンが店の二階にある住居スペースで眠っていると、妙な物音が下から聞こえた。
(何だ?)
セバスチャンが、音が聞こえている下のラウンジへと向かうと、水槽の前に一人の少年が倒れていた。
「大丈夫ですか?」
その少年は、シエルだった。
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