※BGMと共にお楽しみください。
「黒執事」の二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
一部暴力・残酷描写有りです、苦手な方はご注意ください。
「坊ちゃん、起きて下さい。」
「ん・・」
シエルが目を覚ますと、そこは見慣れぬベッドの上だった。
「ここは?」
「空き家の中ですよ。住民がこの家を捨てて間もない場所ですから、余り傷んでいなかったようですね。」
「そうか・・」
シエルがそう言いながら起き上がろうとすると、激しい頭痛に襲われ、彼は呻いた。
「まだ無理をなさってはいけませんよ、坊っちゃん。あなたはまだ、覚醒したばかりなのですから。」
「“覚醒”?」
「詳しい話は後にいたしましょう。坊ちゃんはゆっくりとお休みください。」
「わかった・・」
シエルは、再び眠った。
同じ頃、葬儀屋はベッドの中で眠っている少年の髪を撫でた。
「さぁ、後少しで君の弟に会えるよ。」
黒く長い爪で葬儀屋が少年の蒼銀色の髪を撫でると、彼はかすかに呻いた後、寝返りを打った。
「おやおや、ご機嫌斜めのようだねぇ。」
クスクスと笑いながら、葬儀屋は彼を見つけた時の事を思い出していた。
跡形も無く破壊された校舎の瓦礫の下敷きとなった彼は、葬儀屋が見つけていなければあのまま息絶えていた筈だった。
だが、葬儀屋はその消えかかった命を再生し、彼をずっと魔物から守って来た。
彼もまた、彼の片割れと同じ、鬼の血が流れている。
彼らの血は希少価値が高く、力を欲する者や永遠の命を欲する者などが、彼らを狙っている。
「大丈夫、小生が君を守ってあげるよ。」
だから、今はゆっくりとお休み。
―シエル、シエル・・
ジェイドは、闇の中で弟の名を呼び続けていた。
しかし、何処にも弟の姿がない。
―シエル!
伸ばしたジェイドの手の先に、弟のものではない誰かの手の感触がした。
「やっと目覚めたのかい?」
「お前は・・」
「小生の事を憶えていてくれたのかい、嬉しいねぇ。」
葬儀屋は、そう言った後ジェイドに微笑んだ。
「あの子は何処?無事なの?」
「君の弟は無事だよ、安心おし。それよりも、お腹減っていないかい?小生が、君の為に作った料理を振る舞ってあげよう。」
「ありがとう。」
「君の弟にはいつか会わせてあげるから、その時まで栄養をつけておかないとね。」
葬儀屋は、そう言うとキッチンへと向かった。
一人暮らしに慣れてしまっていて、最低限の家事しかしていなかったので、二人分の食事を作るのには骨が折れたが、何とか作れた。
「小生特製のボロネーゼパスタだよ。口に合うといいけれど。」
「悪くないね。」
ジェイドはそう言うと、パスタを完食した。
セバスチャンがシエルと人里離れた空き家で暮らし始めてから、一週間が過ぎた。
「セバスチャン・・」
「良く寝ていましたね、坊っちゃん。」
「喉が渇いた・・」
「どうぞ。」
「ありがとう。」
シエルはセバスチャンからミネラルウォーターのペットボトルを受け取ると、それを一口飲んだ。
「セバスチャン、どうして僕はここに?」
「それは・・」
セバスチャンが事の経緯を話そうとした時、シエルが突然悲鳴を上げ、顔を両手で覆った。
その雪のような白い肌が、赤く爛れている事に気づいたセバスチャンは、慌てて窓のカーテンを閉めた。
(鬼は、日光が苦手だったか・・まだ、ここから出るのは早いですね。)
「坊ちゃん、大丈夫ですか?」
「セバスチャン、僕は、化物になってしまったのか?」
「いいえ、あなたは人間ですよ、坊っちゃん。」
セバスチャンはそう言うと、シエルを抱き締めた。
やがて、シエルはセバスチャンの腕の中で眠ってしまった。
(これは、少し厄介な事になりましたね。)
セバスチャンが台所で夕食を作っていると、外から人の気配を感じて、思わず包丁を握り締めていた。
「セバスチャン、どうした?」
「坊ちゃん、わたしが“いい”と言うまで、部屋から出てはなりませんよ。」
「おい、セバスチャ・・」
シエルを寝室に閉じ込めたセバスチャンは、台所から外へと出た。
「久し振りやなぁ、ブラック。」
「あなたは・・」
「“あの時”は、ようやってくれたなぁ。」
セバスチャンが外に出ると、派手な髪を揺らしながら、一人の青年がセバスチャンに攻撃を仕掛けて来た。
「ジョーカーさん、何故・・」
「うちの名前憶えていてくれたんや、嬉しいなぁ。」
青年―ジョーカーはそう言うと、セバスチャンの喉元にナイフを突きつけた。
「うちらがここに来たんは、スマイルを“お父様”に会わせる為どす。せやから、あんさんにはここで死んで貰いますえ!」
「そうはいきませんよ!」
セバスチャンがジョーカーと激闘を繰り広げている頃、シエルは苛々とした様子でドアの隙間から廊下の様子を見ていた。
(一体、何がどうなって・・)
シエルがそんな事を考えていると、突然窓ガラスが何者かによって破られた。
「よぉ、また会えたな、“スマイル”。」
闇の中から声が聞こえたかと思うと、ドアに数本のナイフが突き刺さった。
「俺の事、忘れちまったのか?」
「お前は、ダガー!」
「憶えていてくれて、嬉しいぜ!」
シエルはダガーの攻撃をかわし、素早く跳躍して鋭い爪で彼の顔を切り裂いた。
「おお、やるじゃん!随分会わない内に強くなったな、“スマイル”。」
顔の肉を深く抉った筈なのに、ダガーはそんな事を気にせず平然と笑っていた。
「何その顔?鬼の血が流れているのは、お前だけじゃないんだぜ?」
(まさか・・)
シエルが攻撃を緩めた時、部屋に侵入して来た大男―ジャンボが彼の華奢な腰を掴んだ。
肋骨が激しく軋む音がして、シエルは悲鳴を上げた。
「さてと、大人しく俺達と来て貰うぜ!」
シエルは激痛に呻きながら部屋へと出ようとしたが、身体が動かなかった。
「坊ちゃん!」
「おっと、余所見せんといて!」
「くっ・・」
シエルの部屋の窓が破られている事に気づいたセバスチャンは家の中へ戻ろうとしたが、ジョーカーに阻まれた。
「まだまだ夜はこれからどすえ!」
ジョーカーは、口端を上げて笑った。
(不味いですね・・)
このままでは、ジョーカー達を倒す前に自分達が彼らに倒されてしまう。
何とかしなくては―そんな事を思っていたセバスチャンは、遠くから何かが唸る男が聞こえて来る事に気づいた。
「ハ~イ、セバスチャン!」
「何や、けったいな兄ちゃんやなぁ。」
「失礼しちゃう、あたしはれっきとした乙女よ!」
グレルはそう叫ぶと、ジョーカーに向かってチェンソーを振り回した。
「良い男ね、あたしが真っ赤に染めてあげるわ!」
「へぇ、面白そうやな!」
ジョーカーとセバスチャン達が戦っている時、シエルはダガーとジャンボを睨みつけながら、必死に爪を振り回していたが、それは虚しく空を切った。
「いい加減諦めろって。」
ダガーがそう言って笑いながらシエルに近づこうとした時、彼の顔の近くに長剣の切っ先が光った。
「危ねぇ・・」
「リジ―・・」
夜風に揺れるブロンドのツインテールを見たシエルは、驚愕の表情を浮かべた。
「シエル、あなたの事は、今度こそわたしが守ってみせる!」
かつて自分と袂を分かったエリザベスと再会したシエルは、唸り声を上げて蒼い炎をダガーに向けて放った。
「クソ、油断した!」
ダガーは、焦げた髪を乱暴に梳くと、舌打ちした。
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