素材は、
黒獅様からお借りしました。
「黒執事」の二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
一部暴力・残酷描写有りです、苦手な方はご注意ください。
「ダガー、退くで!」
「わかりましたよ!」
ダガーは、そう言うと舌打ちして、シエルとエリザベスに背を向けて去っていった。
「アラ、つまんないわね。」
グレルがそう言って空を見上げると、東の空に太陽がまさに顔を出そうとしていた。
(まずい!)
「シエル、シエル!」
「坊ちゃん!」
セバスチャンがシエルの部屋に入ると、彼は窓から離れ、両手で顔を覆っていた。
「坊ちゃん、しっかりして下さい!」
セバスチャンは自分の上着をシエルに被せた。
「大丈夫ですか!?」
「セバス・・チャ・・」
セバスチャンは太陽の光からシエルを守る為に彼の上に覆い被さったが、シエルはセバスチャンを突き飛ばした。
「いつまでもひっつくな、気色悪い!」
「坊ちゃん、太陽の光に当たっても平気なのですか?」
「あぁ。奴らは?」
「彼らは太陽が昇る前にここから去っていきました。彼らは太陽の光を浴びると死ぬそうです。」
「そうか。じゃぁ何故、僕は死なないんだ?」
「それは、わかりませんね。」
シエルとセバスチャン、エリザベスは空き家から出て、街道を歩いた。
「エリザベス様~!」
「ポーラ、無事だったのね!」
エリザベスはそう言うと、自分の侍女と抱き合った。
「良かった、無事だったのね!」
「エリザベス様もご無事で良かったです!」
「お母様達は?」
「皆さん、ご無事ですよ。」
「良かった!」
ポーラとエリザベスは、エリザベスの家族が居る南部へと向かう事になった。
「シエル、元気でね!」
「リジ―も、元気で。」
南部へと向かう特急電車に乗る為、エリザベス達と駅で別れたセバスチャンとシエルは、避難民達でごった返すバスターミナルで、東部行きのバスを待っていた。
「どうぞ。」
「これは?」
「近くの売店で買いました。あなた、昨日から何も食べていないのでしょう?」
「ありがとう・・」
シエルは、セバスチャンからスモークサーモンとクリームチーズのベーグルを受け取ると、かぶりつくようにそれを食べた。
「おやおや、行儀が悪いですね。」
「うるさい。」
セバスチャンはシエルの口元をハンカチで拭うと、彼と共に東部行きのバスへと乗り込んだ。
「ん・・」
「東部に着くまで、ゆっくり休んで下さい。」
避難民達が乗るバスとは違うバスに乗り込んだセバスチャンとシエルは、個室型の座席で疲れを癒していた。
「ジェイド・・」
「ふふ、強がっていても、まだお子様ですね。」
セバスチャンはそう呟くと、眠るシエルの髪を撫でた。
バスは夜通し走り続け、東部に到着したのは夜明け前の事だった。
「これから、どうするんだ?」
「まだ、決めていません。取り敢えず、休む場所を探しましょう。」
「そうだな。」
セバスチャンとシエルは、バスを降りて暫く東部の街を散策する事にした。
「ホテルも決まりましたし、暫くこの街に滞在しましょう。」
「あぁ。」
逃亡生活を続けていた所為か、シエルはホテルのベッドに横になると泥のように眠ってしまった。
「伯爵、久し振りだねぇ~」
シエルが目を開けると、そこには自分を見つめる葬儀屋の姿があった。
「どうして、ここがわかった?」
「君の荷物に、GPSをつけていたのさぁ。小生にとって君は宝だからねぇ、あの悪魔に横取りされたくないんだ。」
「失礼な方ですね。」
セバスチャンはそう言うと、葬儀屋に向かってナイフを放ったが、それは壁に突き刺さった。
「酷いねぇ、はるばるここまで来たっていうのに、お茶のひとつも出してくれないなんて酷いねぇ~」
「セバスチャン・・」
セバスチャンは渋面を浮かべた後、葬儀屋に紅茶を淹れた。
「どうぞ。」
「ティーパックでも、執事君が淹れた紅茶は美味しいね。」
葬儀屋はそう言うと、黒いリュックサックからパウンドケーキを取り出した。
「食べる?」
「要らない。」
「伯爵、そう言えばお兄さんが君に会いたがっていたよ。」
「ジェイドが?」
「あぁ。」
葬儀屋はパウンドケーキを食べ終えると、シエルに一枚のメモを手渡した。
「これ、小生の連絡先ね。いつでも電話してもいいよ。」
「わかった。」
「じゃぁねぇ~」
葬儀屋は、嵐のように去っていった。
「相変わらずおかしな奴だな・・」
「ジェイド様っていうのは、あなたの双子のお兄様ですね?」
「あぁ。」
「会いたいですか、お兄様に?」
「わからない・・」
両親を亡くしてから、シエルはジェイドと二人で支え合いながら生きて来た。
ジェイドと離れて時折恋しく思っているシエルだが、彼に会いたいかと言われたら、会いたいという即答は出来ない。
何故なら―
「坊ちゃん?」
「済まない、ボーッとしていた。」
「色々あって、疲れていたのでしょう。」
セバスチャンがシエルの方を見ると、彼は溜息を吐いてベッドから起き上がった。
「どちらへ?」
「買い物だ。逃げるのに必死で、財布と携帯しか持って来ていないから・・」
「坊ちゃんに何かあったら困りますから、わたしも行きますよ。」
「・・好きにしろ。」
初めて来る街だというのに、土地勘が無いセバスチャンは何故か大型複合商業施設の場所を地図無しで見つけた。
「ここは、北部とは違って戦争中だとは思えない程平和だな。」
ブランチを海沿いのカフェで取っていたシエルは、海岸で遊ぶ親子連れの姿を眺めた。
毎日鬼と人間が殺し合いをし、焼夷弾の雨が降り注ぐ―それが、シエル達にとっての“日常”だった。
だが、それ以外の“日常”の存在もあるのだという事に、シエルは今更気づいてしまった。
学校へ行き、友人達と他愛のない話しをしたり、買い物を楽しんだり―そんな日常があるのだと。
「坊ちゃん?」
「ここにある光景が、“日常”になるまでどれ位の時間がかかるのだろうな?」
「さぁ、それはわかりません。しかし、“希望”は必ずありますよ。」
「そうか・・」
「もう日が暮れますから、ホテルに戻りましょう。」
「あぁ。」
二人が東部の街で暮らしている頃、北部では鬼と人間達との戦いが激化していた。
そんな中、ジェイドと葬儀屋は高級ホテル内にあるレストランで、ケルヴィン男爵と会っていた。
「漸く会えて嬉しいよ。」
「僕もです。」
「あぁ、夢みたいだ!」
「おっと、そこまでにしてくれないかなぁ。」
興奮の余り、涎を垂らしながらジェイドに近づこうとするケルヴィン男爵を、葬儀屋は手で制した。
「ねぇ、君の弟は、この街に戻って来ると思う?」
「戻って来ますよ。」
「その根拠は?」
「あの子は僕の、世界で一番大切な僕の弟ですから。」
「双子の絆、ね・・」
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