チバユウスケに さよならルーシー
本当はチバさんに。というべきなのだろうけど、いつも彼のことを語るときはチバだったから。今日もいつもと同じようにチバって呼びます。90年代という時代の空気。特に95年以降の日本が奈落に落ち始める頃の心象風景を表す音楽。それはミッシェルガンエレファントだったと思う。もちろん他にも優れたロックバンドやシンガーがいたけれど、90年代といって真っ先に思い出す音楽。それはミッシェルガンエレファントだった。ミッシェルは「世界の終わり」というステキな曲で僕らの前に現れた。僕がミッシェルのアルバムを初めて買ったのは「チキンゾンビーズ」っていうアルバムだった。性急でつんのめっていくような曲。痙攣したようなギターの凄まじい音圧。その緊迫感溢れる音楽。僕はすぐにその音楽が好きになった。歌詞だってステキだった。全く無駄がなく俳句のように短くまとまった歌詞。それなのにその歌詞は僕らの想像力をかきたてた。僕はすぐにライブに行きたいと思ったけど、ミッシェルはライブハウスでしかライブをやらなかった。渋公の公演すらしなかった。だからそれほどミッシェルのライブには行けなかった。ライブだって思い出がある。今でも忘れられない。98年のフジロックは覚えているかい。僕は入場制限に引っかかってモッシュピットには行けなかったけど、後ろの方でも今すごい大変なことが起こっているということが分かった。99年のゼップ東京のことは多分忘れているよね。僕は前の方で頑張っていたけど、あまりに激しいモッシュのせいで酸欠で倒れそうになって、あのときは本当に大変だった。代々木ライオットはもちろん覚えているよねシトロエンの孤独はしびれるほどかっこよかった。そして最後の幕張メッセ。ドロップで始まって、最後は「世界の終わり」で本当にミッシェルは終わってしまった。世界の終わりは そこで見てるよと思い出したように 君は静かに待つパンを焼きながら 待ち焦がれているやってくるときを 待ち焦がれているこの曲を聞くといつも僕は思いだす。90年代がどんなだったかって。僕の想像だけれども多分チバは曲や歌詞を作るとき、日常と繋がっている「ここの世界」をみていた。ユートピアを想像してとか、こうあるべき空想の世界だとか、輝かしい未来だとか、そうではなくて「今ここ」を見ていた。今からすると90年代ってまだのどかな時代だったけれどもう既に転落のレールは敷かれていた。「ここの世界」は少しずつすさんでいって、何かが起きそうで何も起きなかった。そんな「ここの世界」を、傷口をやすりでこするようなヒリヒリとした感じでミッシェルは曲を歌っていた。この「ヒリヒリした感じ」ってわかるだろうか。多分チバだったらわかってくれると思う。僕はそんなミッシェルの歌を必要とし、そしてあこがれ続けた。何とかして「世界の終わり」を超すような何かを作りたいと思っていた。僕には音楽的才能がないからせめて詩でも文章でも。どんな形でもいいから「世界の終わり」みたいなステキなものを作りたかった。でも時は経った。2010年代に入ってから自分が信じていた90年代的な感性が時代遅れになってしまったのを知ってしまった。90年代、00年代。僕は必死になって「世界の終わり」の後のことを書き続けて、もっとステキなものを創造したいと考えていたけど、10年代、20年代と時が経つにしたがって何かが擦り切れたように自分の感性がダメになっていくのに気が付いた。それから僕は怠情になった。何かの熱が冷めてしまったかのように。そんな僕を置き去りにするようにチバはThe Birthdayというバンドを転がし続けていた。ミッシェルの頃と同じとは言わないけれど、The Birthdayもいいバンドだと思う。続けるということは大変なことだから、ミッシェルという巨大なアイコンのようなバンドのあとも創作活動をしているチバはすごいカッコイイと思っていた。悪いのは全部 君だと思ってたくるっているのは あんたなんだってつぶやかれても ぼんやりと空を眺めまわしては 聞こえてないふり僕はもうだめかもしれない。それでも何かやってみれば一回くらいうまくいくかもしれない。そんなところで僕は漂っている。年を取るっていうのは嫌なものだね。老いるよりも成長したい。老け込むよりも成熟したい。そう思うけど、本当はどうなんだろう。そんな僕を笑うかな。何やってんだって。トンネルは続く。サボテンの毒針で死ぬのかな。今日あなたの死を知った。えっ。と思ったけど、意外とショックは小さかった。何だろう。今までにいろいろな人の死を体験してしまったから、そんな感じになってしまうのかもしれない。だけど何か書かなければと思った。だから久々にウェブ上でこの文章を書いている。何かいい言葉を書きたいと思うのだけれども、全然頭に浮かばない。ミッシェルというバンドと出会えて、あなたに感謝しているけど、今更ありがとうなんて白々しいね。ゲットアップルーシー、キラーズビーチ、ジェニー、ダニーゴー、ベイビースターダスト…。ホントかっこいい。そして今でもリアルだと思うよ。少なくとも僕には。僕がそっちの世界に行ったら、またあっちのフジロックであなたの出番を待っているよ。それまでに「世界の終わり」を、僕自身の「世界の終わり」を作れたら。僕は何も思い残すことはない。できるかどうかわからないけど、少しあがいてみる。サヨナラの時間だね。ありきたりだけれど。ご冥福をお祈りいたします。さよならルーシー さよならジェニー さよならダニー さよなら