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カテゴリ:映画の感想
この映画を最後に俳優業引退を示唆したと伝えられているクリント・イーストウッドの監督、主演映画です。もし、この映画が俳優としての引退映画になるとしたら、これ程イーストウッドらしいラストにふさわしい映画はないと思います。
本当に観て良かったと思える映画の一つでした。敢えて書き連ねる程の難しい事件が起こる訳ではないです。些細なイザコザと民族間の軋轢が物語の主軸になっていて、そこから両者が民族の垣根を超えてどう係わって理解し合うかを描いています。静かな感動を与えてくれる秀作でした。 この物語の主人公であるウォルトは朝鮮戦争を経験した元軍人と言う設定です。アメリカの映画やTVドラマを見ていると、元軍人でベトナム戦争や朝鮮戦争に従軍していたと言う設定がよくあります。正義感を持っている人だからこそ、その戦場での暗い過去を引きずってトラウマに苦しんだり、晩年の人生に重くのしかかってくると言うのもよくあります。 ウォルトの場合も、悲惨な悪夢をもたらした戦争と、無気力で個人主義が蔓延した平和の両者の時代を実体験した人の、やりきれない苦悩を持った人物だったと思います。近所の住人や自分の息子たちには人種差別主義者の偏屈で頑固な老人と言う風にしか見られていませんが、本人の心の奥には、誰にも語る事の無かった癒される事のない深い悔恨の情が渦巻いていたんです。 過去の自分を封印するように硬い鎧で覆われていた老人の心の扉が、隣に住むアジア系移民の姉弟が起こした些細な事件がきっかけで少しづつ開いて行きます。そして忘れかけていた温もりのある心の触れ合いを感じ、戸惑いながらも交流が深まります。その事が彼らの人生を大きく変えて行くことになってしまうのですが・・・。 誰もが抱える親の老後問題や人種差別問題をシニカルに笑いを誘うようにサラッと描いていて、ラストでは主人公ウォルトの過去に経験した戦争体験からくる”しょく罪”の思いと”愛”のメッセージが伝わってきて、久しぶりに涙がジワッとくるのを感じた映画でした。老いる事と、生と死を真正面から扱うと暗く深刻になりがちですが、この映画の場合は最後まで重くなり過ぎず、観終わった後に痛快さが残るエンディングでした。
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