桃剣幻想記 21
桃剣幻想記 21 ~風~ 蒼い剣にまつわる不思議な騒動があってから、 リンは剣の手入れを毎日行うようになりました。 鍛冶師の記憶を取り戻したので、剣の手入れがスムーズに 進みます。 蒼い剣を前にして座っていると、隣に通鷹が座り込みました。 「そんなに動いていていいのですか?」 「通鷹」 少し大きくなったおなかに手をあてて、通鷹が心配そうな 顔をします。 こういうところは相変わらずだと思いながら、リンは微笑みます。 剣の手入れをしながら、とりとめのない話をして、 ふと浮かんだ疑問を通鷹に投げかけました。 「剣は、なぜ道端に落ちていたのかな」 その疑問に視線をそらして、照れくさそうに頬をかきます。 「剣のことをリンに話そうか迷っていたと言ってたでしょう?」 剣についてリンに話そうか迷っていた時、ちょうどリンは 子を宿しました。 妊婦に負担がかかってはと、口をつぐんだものの、 もやもやとした気持ちが通鷹の中に残っていました。 「痺れをきらした剣が、あなたの元に行こうとしたんでしょう」 すまして言う通鷹をぽかんとみつめて、リンは噴出しました。 くすくす笑うリンを軽くにらみつけて、ふっと息を吐いて、 一緒に笑います。 穏やかな風が吹く陽だまりの中でひとしきり笑ってから、 以前の夢でであった少女の話になりました。 「たぶん…」 「そうでしょう」 二人で顔を見合わせてから微笑んで、リンのおなかに 二人で手をあてます。 「名前はどうしようか?」 「風(ふう)はどうでしょうか?」 風と何度も口の中でつぶやいて、リンはうなづきます。 「いい名前だね」 緩やかに風が吹いて、竹林の葉がざわめきます。 やわらかな風がかけぬけて、どこからかやってきたピンクの花びらがリンと通鷹のそばにふわりと舞い込みました。 おわりご愛読ありがとうございました。いつも感じることですが、ひとつの物語が終わると肩の荷がおりるような、寂しいような気持ちになります。寒い日が続きますが、ご自愛ください(^^)