晩冬の旅
相米慎二の遺作「風花」は、関東では桜が咲く時期、汚れた雪が残り、埃っぽい中、風花と呼ばれる雪が舞う、北海道の一番冴えない風景に痛々しい男女の姿を重ね合わせた作品であった。今年は春の訪れが早く風花の舞う予感がない中小さな一人旅に出た。路肩の汚れた雪、埃に霞む風景、燃料は満タン。昔観た高校生の撮った8mm作品「急げブライアン」を想起する、ガソリンさえあればどこまでも走れる、そんな思想の疾走感が今も朧気に記憶に残る。旭山脈を見て、十勝山脈を見る、この町の人はいつもこの風景に包まれている。この後、日高山脈を見て札幌に近づくとき手稲の山並みを見て安心することになるのだが、間近に迫る山が好きだ。落ちる日に照らされて。鹿も森に帰る、わけではない、私の車に驚いているだけ(ピンボケだな)。今回見た野生動物は鹿、兎、狐。渡り鳥はまだ時期が早かった。ご褒美のような風景。一応シュラフは持ってきたのだが、温泉街で宿探し。不精髭にだらしない格好の中年男一人旅、ホテルの従業員にすげなく満室と告げられて姿を見せてはだめ、電話で予約を入れてと作戦変更。GPSで現在地を地図に落とし、近在の宿を表示させて電話、「お一人ですと割高になります」「お幾らほどで?」「14,800円となっております」「私には高級すぎます」。温泉から街に戻り携帯にて同じ作業にて見つけた宿は一軒「禁煙室ならご用意できます」隣の大きな街に戻り携帯にて再び同じ作業にてビジネスホテルを無事予約して携帯のボタンをプチッと押すと「次左に曲がります、300mほど先が到着地です」う~む、便利である。でかいベッドに占領された如き部屋、ライティングデスクに向かうとでかい鏡、自らの姿が鬱陶しい。シャワーを浴び、サッポロクラシックを飲み、知る人ぞ知る「酒正 土井」にて仕入れた万作の花を飲みつつ暇つぶし。蓮實重彦・柄谷行人「闘争のエチカ」を車に忘れ、NHKのテレビ放送とネット映像の話題を見つつ夜を過ごし一日が終わる。