テーマ:小説書きさん!!(610)
カテゴリ:オカルト的な・・・
落ち葉を舞い上げた風が吹き抜けると、ガチャガチャとねずみ色のシャッターが一斉に鳴る。
このシャッター通りをさらにひとつ奥に入ったドン詰まりに、「よろず相談所」の看板を掲げる一軒家がある。 ここは空気や匂いまで止まってしまいセピア色の不思議な空間が広がる。 皆さんはこんなことを聴いたことがあるだろうか。 本物の霊能者なんて、わざわざ目立つ看板なんかを揚げなくても口コミでその実力が知れられるものだ。 だから市井に静かに佇んでいて、唯一その存在が近所に知るのは、その者の葬式に大物政治家や有名企業の花輪がたくさん並ぶのを見るときだと。 そういう世間の評価基準で言うなら、「よろず相談所。運命原理研究評議会」なんていう看板を堂々と掲げるここの主はどういう人なのか。 その看板には、「骨董品の鑑定をいたします。お気軽にどうぞ」とへたくそな字で後から追記されている。それもスマイル・マーク付だ。 運命原理研究評議会というのも気になるが、それよりもこんな看板を見て気軽に入っていく人の方が、私個人としてはもっと気になってしまう。。。 **** 客 「先生、ここで一発人生の大勝負しようと思っていてネ、そこで先生ご意見を聞きたいんですがネ」 霊能者 「オオ、人生の大勝負か。ワシの好きな言葉だぞ。 あんたの大勝負ということなら、ワシも腰をすえねばならないな」 客 「ところで相談料は如何ほどで?」 霊能者 「そうじゃな、人生の大勝負ということであればワシとて責任重大だで、それなりに準備が必要になるでな。 そうさ、いつものお山に篭って霊的エネルギーを充電するのにチト時間が掛かるでの、その経費を見込むとなると・・・・」 霊能者は、年代物のそろばんを前に置くと、半眼で考えだした。どうやら、客の表情を読もうとしているみたいだ。 客 「先生、誠に申し訳ないないのですが、本題の相談をさせていただく前に、その・・・なんていうか・・・」 男の話しの途中で、霊能者は大きな目をさらに大きく見開いたので、男は言葉を飲み込んでしまった。 霊能者 「なんだね。 すなわちお試しが必要ということかな。 クーリング・オフなんて、この頃はしゃれた制度があるしな。。。 こういう仕事は、良心的に誠実に行うのが筋というもんだ。あんたがお望みならワシはかまわんぞ」 客 「ありがたい! 今すぐに、そのお試しというのをお願いできますか?」 霊能者 「ああ、かまわんよ。 ただし、でぃーぷなし質問は勘弁してくれ」 客 「もちろん、お試しせすからそれぐらい承知しています。 じゃ先生、競馬なんてどうです?」 霊能者 「専門外じゃ」 客 「医者じゃあるまいし、専門外だなんて冗談を」 霊能者 「どんな仕事でも、得意な分野と不得意な分野があるもんだ。ワシの仕事でも同じということだ」 客 「でも先生は、凡人に見えないものが見えるんでしょ。。。。?」 霊能者 「そうだが・・・」 客 「だったら競馬場で馬が走るところを、ちょこっと見ることが出来るんじゃないですかね?」 霊能者 「ああ、それぐらいならワシにも見えるだろ」 客 「でしたら贅沢は言いませんから、その先生が見えた映像をそのまま教えてくださいなナ」 霊能者 「それで良いのか?」 客 「それで十分ですから、ちょっと競馬場の様子を覗いてみてくださいよ」 霊能者 「その程度ならお安い御用だ。どれ覗いてみるかな」 霊能者は首にかけていた大きな数珠を手に持つと、深呼吸を三つ・・・・まぶたを閉じた目玉が忙しく動き出す。 霊能者 「おお、馬の走る姿が見えるぞ・・・」 客 「先生、何が見えます?」 霊能者 「土を巻き上げて走る馬の姿だ。 大きな尻が見えてるぞ。 何でバケツを馬の尻と書くんじゃ? 馬の尻を見てもワシには訳が解らんな」 客 「先生、馬のケツもバケツもいいですから、違う角度から見てくださいよ」 霊能者 「そうか・・・今度はたくさんの顔が見えるぞ。大きな目だし馬面とは良く言ったものだな、言われてみればあいつは確かに馬顔だ」 客 「馬ズラもいいですから、どんな顔です? 色は栗毛? 黒毛?」 霊能者 「何を贅沢なことをいうんだ。ワシに馬の顔の見分けが出来ると思っているのか。それに白黒だから色もワカラン」 客 「そうですか・・・でしたら、馬の横腹にカタカナで馬の名前とゼッケンがあるでしょ! 見えるでしょ!ゴールをするところを良く見てくださいよ」 霊能者 「お試しでいいと言うくせに注文が多いな・・・ゴールをするところだな・・・・あっ!」 客 「アッ!とはどういうことです?!」 霊能者 「見えるには見えたが早すぎて読めなかった。。。。」 客 「モ~近づき過ぎなんでしょ、世話がかかるなー 離れて、離れてもう一度見直して!!」 霊能者 「本当に人使いが厳しいヤツだな。ちょっと待って焦るでないわ・・・・今度は遠くて数字しか読めない」 客 「ああ、いいとまできたのに、まじめに見るつもりはあるんですか?」 霊能者 「こりゃ失敬! 不得意だと最初に断ったけどナ・・・オお♪ 今度はよく読めたゾ。ゴールを真っ先に通過したのは」 客 「一番で通過したのは・・・」 霊能者 「ハ・・・イ・・・」 客 「ハイ?」 霊能者 「セ・・イ・・コ・・ウ・・・こいつ時計屋の馬か?」 客 「ハイ・・セイコウ・・・ハイセイコウ? そんな古い馬をいまさら見てどうするの!!」 霊能者 「古い馬なのか? だからギャンブルは専門外だと最初に言っただろ。 なんたって寝ているときに見る夢と同じでな、時間と場所を特定するのが一番難しいんじゃ!!」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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