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2014.05.29
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カテゴリ:高論歩事件帳
にわとり.jpg

 でくがこの多摩川の橋の下に流れ着いたのは去年の年の暮、12月30日のことだった。やっと、辿り着いた、安穏できる棲家だったともいえた。

 でくは長野の小さな町で育った。でくの父は病弱で、母がリヤカーで魚を売り歩いて生活を賄っていた。でくは背が150センチに満たないチビだった。ぼやーとしている子供で、勉強もひどく遅れていたし、のろまで、運動も後ろからついていくのがやっとだった。
 虐めには格好のターゲットで、学校の仲間には入れてもらえなかった。だから、中学も半分くらいしか行かなかった。学校の先生が迎えに来て、一週間は学校にいくが、またいじめられる。
「おまえは臭いから、学校へくるな!」
 でくは何があっても、逆らわない、怒らない、下を向いて生きていた。虐めや、差別に、辛抱する対処療法が身についていたのかもしれない。
修学旅行にも行けなかった、遠足にも行ったことがない。運動会では、いつもダントツのびりでみなから笑われた。

 父も母も、でくが学校にいかないことを気にもせずリヤカー引きを手伝わせたし、中学になると、新聞配達、牛乳配達で、朝、夕働いた。
 貧しくとも、いや、貧しいから、貧乏人の子だくさん、五人兄弟だった。姉ちゃんは中学をやめて、家を出て、キャバレーで働いた。時々、熱熱の鯛焼きを買ってきてくれるのが楽しみだった。
 あんちゃんは、家を出て、喧嘩が強かったので、山中組の下働きをしてるらしいと、聞いた。病弱の父は仕事もせず、酒だけは飲んで、酔っては母と喧嘩していた。

 中学を卒業すると、叔父さんの紹介で、鶏卵場で住み込みで働いた、社長は大男で、上半身に唐獅子牡丹の入れ墨をした怖い人だった。従業員には、乱暴者が多く、刑務所帰りの男もいた。
 いじめられても、怒鳴られても、慣れっこだったから、でくは我慢できた。愚鈍ではあったが、真面目に働いた。

 鼻がひん曲がるのではないかと思う程の鶏の悪臭で、一日が終わる夜になると、体中が鶏糞まみれになった。いつも最後に入る風呂桶には、鶏の毛が浮かび、お湯は薄茶色になっていて、透き通ってはいなかった。
 夏の盆がすぎると、鶏の餌を止める、弱った鶏から、ばたばたと死ぬ、死んだ鶏を集めて業者に売る。チキンハンバーグになるんだろうか。でくはそこで、18年も過ごした。
 母は別の男と家を出て、父が病死したと、妹からはがきが来た。もう、帰る所もなくなっていた。

 でくは、なんとか一人でも生活できていたが、或る日突然、鶏卵場で伝染病が発生し、鶏はすべて殺処分され、会社は廃業になった。以来、でくは鶏肉は食べない、食べれない。
 月12万円の給料から、部屋代、食事代、を引かれて、六万円が残ったが、そこから、家に2万円仕送りしていた。多分、父の酒代になっていたんだろう。残りのお金から、少しずつ貯めて、蒲団の下に10万づつ新聞紙にくるんで隠しておいたが、同僚のやっさんに鶏卵場を去る時に盗まれた。

(つづく)

作:朽木一空

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最終更新日  2014.05.29 20:35:31
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