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テーマ:映画館で観た映画(8382)
カテゴリ:邦画(12~)
「あん」 昨年岡山ではイオンシネマだけで上映された作品なので、観た人は多くないかもしれません。ただ異例のロングランヒットを続け、アンコール上映さえ行われました。 どら焼き屋の雇われ店長千太郎(永瀬正敏)の店に、桜が満開のある日に徳江(樹木希林)というヨボヨボの老女が「時給三百円でもいいから働かせてくれないか」と頼んで来ます。最初断った千太郎も徳江の作ったあんこが美味しくて採用。その粒あんが評判を呼んで店は繁盛しますが、徳江が実はハンセン病だという噂が立って、客足が一挙に途絶えます。 もちろんこの病は伝染する事はないので、患者が食べ物を作っていたからと言って心配する事はないのです。けれども、この作品は差別反対をテーマにはしていません。なんとなく世間に引け目を感じて伏し目がちに悲しい目をして生きている人は、実はハンセン病患者以外にも多くいると思う。千太郎も刑務所からの出所して来た男でした。物語が進むにつれて、哀れな老女だった徳江と、いわれ無い差別に憤る千太郎の立ち位置が逆転して行く様が見事でした。 「店長さん、美味しいときは笑うのよ」 「私たちはこの世を見るために、聞くために、生まれてきたんだ。だとすれば、何かになれなくても、生きる意味があるのよ」 徳江さんの長い人生で掴んだ結論には普遍性があると私は思います。人間としての尊厳とは何か。それが「あん」の美味しさに凝縮するという面白さ。 監督は河瀬直美です。ドキュメンタリータッチの作風を嫌う私の映画仲間もいるのですが、今回はドリアン助川の原作つきのせいか、とても緊張感のあるドラマになっていてびっくりしました。 それにしても、最後の主演作かもしれない樹木希林の演技は凄まじく、永瀬正敏の涙を見せない泣きは絶品でした。樹木希林の孫娘内田伽羅の存在は、この作品世界を濁りのない目で見る視点を作っていたと思います。そして、「釣りバカ日誌」で優しい妻を演じていた浅田美代子が、今回は悪人じゃないけどとっても嫌らしい女性を演じていて、とっても感心しました。 ラストは、また満開の桜の樹の下で終わります。(2015年作品、レンタル可能) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年11月23日 23時42分13秒
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