|
カテゴリ:エッセイ集
第一子誕生を間近に控えた今日この頃ですが、今回もまた、アメリカのハリケーンの話題でいきたいと思います。
超大型ハリケーン「カトリーナ」がもたらした被害によって、大惨事に見舞われたニューオーリンズ。一体どうして、こんなに被害が大きくなってしまったたのか??ネットで調べてみたところ、これは天災というより、どう考えても人災の部分が大きいと思えてきました。 まず第一に、ニューオーリンズの受けた人的・物的被害のほとんどは、8月29日から30日にかけて起こった、堤防の決壊(計3ヶ所)によって引き起こされたようです。仮に堤防の決壊がなく、単純に風雨による被害だけだったとしたら、これほどの大惨事にはならなかったでしょう。 そこで、堤防の設計や安全性が問われてきます。ニューオーリンズ市街地の大部分は、海面下2m程度の「ゼロメートル地帯」に位置していますが、隣接するポンチャートレイン湖の水面は、海抜プラス2mあります。両者には約4mの差があるため、一旦、湖水から水が溢れ出したら、市街地が水浸しになるのは必然! その危険性に関しては、歴代市長も十分理解していたようで、1960年代から、ニューオーリンズとその周辺で、堤防の強化が順次行われてきました。その結果、できあがった堤防システムは、強度「カテゴリー3」のハリケーン直撃に十分耐えられるものとされていました。ですが、もっと危険な「カテゴリー4」や「カテゴリー5」のハリケーンが、ニューオーリンズ周辺を直撃して長く滞留した場合の安全性は保障の限りではない!という警告が、科学者などから出されていたようです。ですが、そのレベルのハリケーン襲撃に耐えられる堤防システムの建設には、当然、莫大なお金がかかることもあり、一朝一夕には進みません。当然、連邦政府による財政支援も必要になってきます。 で、その連邦政府の財政支援が、なんと今年2005年の春から、過去に例を見ない規模で大幅削減されてしまったのです。昨年2004年が、過去数年で最大の「ハリケーンの当たり年」だったにも関わらずです。ブッシュ政権が、なぜこの種の「安全経費」を大幅削減したのか、イラク戦争と関連があるのか、その辺の事情はよく分かりません。が、皮肉なことに、大幅削減したその年に、カトリーナがやってきて、ニューオーリンズは水の底に沈んだのです! 第二に、ニューオーリンズ市長から避難命令が出ていたにも関わらず、なぜこれだけの人数が避難できず、大惨事の犠牲者になってしまったのか、という点です。これには、ニューオーリンズ地域を重苦しく覆う、貧困問題が関連してきます。 避難命令が出たのは、米国中部時間で8月28日の午前10時。そして、堤防が最初に決壊したのが翌29日の午前11時ですから、それまでに、25時間の「余裕」があったわけです。避難命令自体、ニューオーリンズ市はじまって以来のことだったそうですから、これを出した市長の決断は、賞賛されていいでしょう。 ところが問題は、「避難したくてもできない」人が大勢いたことです。ニューオーリンズは、貧困人口の割合が38%を占め、これは全米の大都市でトップの数字です。また驚くべきことに、ここの市民でマイカーを持たない人は、全体の27%を占めており、これも全米トップ。完全にクルマ社会の米国において、マイカーのない暮らしは著しい不便を伴うものですが、ニューオーリンズでは、市民の約4分の1が、「クルマを買いたくてもお金がなくて買えない」階層に属しているわけです。そして、この階層はアフリカ系(黒人)が多くを占めています。 そういう状況を考えれば、市当局は、自前の移動手段をもたず、長距離バスのチケットさえ買えない貧困市民をいかに避難させるかを、最優先で考えるべきだったのですが、空前絶後の自然災害ということもあって、そこまで対応が回らなかったようです。その結果、堤防が決壊しても家から一歩も出られなかった、貧しい人々の多くが犠牲になったのです。また、「運良く救出された人々のほとんどが黒人だった」ことが、TV映像を通じて全米に伝えられたことにより、改めて米国南部における黒人の貧困問題がクローズアップされることになりました。 第三に、イラク戦争との絡みがあります。ニューオーリンズを含む米国南部諸州は経済的に貧しいこともあり、兵士の輩出率が高いのですが、彼らがイラク戦争に駆り出された結果、ニューオーリンズの災害復興や治安維持に必要な兵士が不足してしまい、その結果、略奪や暴行が起こっても、それを抑える人がいない、という無法状態を現出してしまいました。ブッシュ政権は今後、イラク戦線から米兵の一部を引き上げてハリケーン被害復興に回すかどうか、難しい選択を迫られることになるでしょう。 また、これは間接的な要因ですが、地球温暖化がハリケーンの異常発達と関連している、という話もあります。私自身、台風には昔から興味があって、よく調べてきたのですが、今回の「カトリーナ」の場合、ニューオーリンズの南方海上、北緯27~28度前後のメキシコ湾上で大発達して、わずか一日で945ha(ヘクトパスカル)から一転して906haの猛烈な勢力になったそうです。日本近海の台風に関していえば、この緯度帯で発達することは稀で、よくて現状維持がせいぜいですから、カトリーナの発達ぶりはまさに異常で、当時、メキシコ湾の水温がよほど高かったことが推測されます。 科学者のなかには、地球温暖化によって、アメリカを襲うハリケーンの回数と、それが異常発達する頻度が多くなっていると指摘する人も大勢います。何より、アメリカは世界最大のCO2排出国ですから、地球温暖化防止に大きな責任を負っているはずなのですが、今のブッシュ政権はこれに冷淡で、京都議定書も批准していないし、また、年々温暖化ガス排出量が増えているのにも関わらず、それに歯止めをかける有効な対策がとられているとも思えません。 以上のことを考えるにつけ、今回のカトリーナの一件は、ハリケーンの襲来という自然現象が、アメリカの社会システムやブッシュ政権の政治路線が抱える根深い問題を、一気に、見事に露呈してしまったような気がしてなりません。具体的にいえば、なぜアメリカは、イラク戦線に回すお金があっても、それを国内の貧困問題解決に使うことができないのか?或いはアメリカ国民の生命を守る堤防システムに使うことができないのか?そして、原油高でアメリカ全国のドライバーが困っているのに、なぜ、地球温暖化防止やエネルギー効率の良い社会づくりに冷淡なのか? もし今のアメリカがブッシュ政権でなく、もっと上記の問題にコミットする政権であったならば、ニューオーリンズの被害は、これほど大きくならなかったかもしれません。ディキシー・ジャズの都を水の底に沈めた張本人は、「アメリカ社会を蝕む病」だったのかもしれません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[エッセイ集] カテゴリの最新記事
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/
ブッシュ政権の怠慢振りについて、こちらの紹介記事も詳しいです。 (2005年09月04日 06時32分36秒)
ブログを拝見してなるほどーと思いました。
CNNを見ていると、本当に色々な映像が出てくるんですが、被害にあってるのがほとんど黒人の方(アフリカ系)だったので、驚いていたんです。 このハリケーンは、アメリカが抱える他の問題をも露呈してしまったわけですね。 こうなった今は、一刻も早く何とか復旧してもらいたいと願うばかりです。 (2005年09月04日 10時46分56秒)
snowbeesさん
> http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/ >ブッシュ政権の怠慢振りについて、こちらの紹介記事も詳しいです。 なかなか面白いBLOGですね。 今回のニューオーリンズ浸水の件は、すでに4年前から予測されていたことも、このBLOGを通じて知りました。 http://www.popularmechanics.com/science/research/1282151.html (2005年09月04日 14時38分38秒)
Sydney Tinaさん
>被害にあってるのがほとんど黒人の方(アフリカ系)だったので、驚いていたんです。 そうなんですよね。私は実際にニューオーリンズ各地を歩いて、地元の人々の人種比率もだいたい覚えていたので(白人:黒人=2:3、といったところか・・・)、今回、被害に遭ってるのがほとんど黒人だということに、驚いていたんです。白人の、特に豊かな層は自力で避難できたんでしょうね。 (2005年09月04日 14時59分19秒)
http://www.archrecord.com/news/daily/archives/050830neworleans.asp
恒久対策は、オランダ式の洪水制御システムで、概算予算2-2.5 billion us dollars掛かるが、今回の被害額(11兆円と言われる)に比べて、!a drop in the bucket"であると。アメリカの恥部が、図らずも露呈した様です。 (2005年09月04日 18時40分15秒)
Blogに書かれていたことは本当にその通りだと思います。オーストラリアでも新聞に記事に同じ事が書いてありました。まさに「人災」です。
「アメリカは医療システムにしても社会保障にしても、貧しかったら死ぬようになっている」とアメリカに住んでいた人が言っていましたが、本当に恐ろしい事がまかり通ってるんですね、アメリカでは。 Michael Moore監督の信奉者ではありませんが、ブッシュ大統領のアフリカ系アメリカ人への扱いは明らかに厳しいものがありますよね。選挙の投票さえ妨害されたり無効扱いされたりしたと聞くと原正しく思います。 とにかく早く多くの人が無事に救助されるように祈ってます。 (2005年09月04日 20時41分24秒)
snowbeesさん
>恒久対策は、オランダ式の洪水制御システムで、概算予算2-2.5 billion us dollars掛かるが、今回の被害額(11兆円と言われる)に比べて、!a drop in the bucket"であると。 全長30マイルにも及ぶ、壮大な堤防ですか・・・でもつくるべきですね。 カトリーナによる被害額は、阪神淡路大震災のそれとほぼ同じ、というのも興味深い。 (2005年09月05日 00時41分16秒)
じぇーむずさん
>「アメリカは医療システムにしても社会保障にしても、貧しかったら死ぬようになっている」とアメリカに住んでいた人が言っていましたが、本当に恐ろしい事がまかり通ってるんですね、 もし自分がアメリカ人だったなら、今回の件はきっと、「国家の恥だ!」と思ったことでしょう。 私は、どちらかといえば親米的な気分が強い人間で、近代の歴史を力強く引っ張ってきたアメリカには尊敬の念さえ抱いていますが、でも、やっぱりイケてないよなあ。 国民皆保険制度は、先進工業国ならどの国でも当たり前に実現できているのに、なぜアメリカだけできないのか?世界の富の25%を所有する金持ち大国なのに、なぜ「貧しければ死ぬしかない」ような社会保障システムしかつくれないのか?軍事的には、世界の七つの海を支配する国なのに、なぜ足元のニューオーリンズ一つ救えないのか?何か根本的なところが、間違っているとしか思えません。 (2005年09月05日 00時54分04秒)
manachan2150さん
>じぇーむずさん >>「アメリカは医療システムにしても社会保障にしても、貧しかったら死ぬようになっている」とアメリカに住んでいた人が言っていましたが、本当に恐ろしい事がまかり通ってるんですね、 自分が、アメリカを避けた理由の一つがそれ。 オーストラリアは、留学生さえ、健康保険に 「強制加入」なのに。 (人口が違うから、比較はできないけど) (2005年09月05日 17時33分13秒)
Ballaratさん
>自分が、アメリカを避けた理由の一つがそれ。 >オーストラリアは、留学生さえ、健康保険に >「強制加入」なのに。 実際、我々がアメリカに住むようになったら、医療保険はどうするんだろう? おそらく、民間の医療保険は充実していると思うので、それに加入することになると思いますが、 私自身、アメリカに2ヶ月、長期出張した時は「無保険」状態だったんですけど、体調はずっと完璧で医者にかからなかったので、運がよかったです。 (2005年09月05日 20時08分55秒)
manachan2150さん
>カトリーナによる被害額は、阪神淡路大震災のそれとほぼ同じ、というのも興味深い。 ----- 阪神淡路大震災の時(中越地震の時でもいいですが)アメリカは「国として」日本に何かしてくれたんでしょうか?今回20万ドルの資金援助に30万ドル相当の物資援助の用意があると日本政府は発表したそうですが…?どうも腑に落ちません。 私が知らないだけだったら「ごめんなさい」です。 (2005年09月07日 03時25分36秒) |