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趣味の漢詩と日本文学

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July 22, 2011
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カテゴリ:国漢文
【本文】かかることどもの昔ありけるを、絵にみなかきて、故后の宮に奉りたりければ、これが上を、みな人々この人に代りてよみける。伊勢の宮すん所、男のこころにて、

かげとのみ水の下にてあひみれど魂(たま)なきからはかひなかりけり
【注】
・故后の宮=温子皇后。藤原基経の娘で、宇多天皇の皇后。
・伊勢の宮すん所=温子皇后に仕えた女官。第一段に既出。
・「たま」には「魂」と「真珠(しらたま)」などの「たま」を掛ける。「から」には「殻」と亡骸の「骸」、「かひ」は「甲斐」と「貝」の掛詞。「たま」「貝」「殻」は縁語。
【訳】こんなことが昔あったのを、絵に全場面を描いて、故后の宮(温子皇后)に献上したところ、この登場人物たちの身の上を、各自が登場人物それぞれに代わって心情を歌に作ったとさ。伊勢の御息所は、男の立場になって心情を次のように歌った、

水に沈んだ愛する女の影とだけ水の下に飛び込んで添うことができたが、もはや魂がぬけて死んだあとの遺体では、結婚した甲斐もないことだなあ。

【本文】女になりて、女一のみこ、

かぎりなく深くしづめるわが魂はうきたる人にみえん物かは

又、宮、

いづくにか魂を求めんわたつうみのここかしこともおもほえなくに
【注】
・女一のみこ=均子内親王。
【訳】女の気持ちになって、均子内親王が作った歌、
このうえなく深く沈んでいる私の魂は、浮気っぽい人などと結婚したりするであろうか、いや、浮ついた人などと結婚するつもりはありません。
また、宮が作った歌、
いったいどこに魂を探せばよいのだろうか、海のここだともあそこだともありかがわからないのに。

【本文】兵衛の命婦、

つかのまも諸共にとぞちぎりけるあふとは人にみえぬものから

糸所の別当、

かちまけもなくてやはてむ君により思ひくらぶの山は越ゆとも
【注】
・兵衛の命婦=藤原高経のむすめ、忠房の妻。
・糸所の別当=春澄善縄のむすめ、洽子(あまねいこ)。裁縫をつかさどる縫殿(ぬいどの)の別所。「別当」は、その長官。

【訳】兵衛の命婦(藤原高経のむすめ、忠房の妻)が作った歌、

つかのまの短い間でも一緒に暮らそうと約束したのだなあ。あれで結婚したとは人の目にはみえないけれども。

糸所の別当(春澄善縄のむすめ、洽子)の作った歌、

勝ち負けも無くて終わってしまうのだろうか、たとえあなたのために、思いの深さを比べるという鞍馬山(くらぶの山)は越えることができても。

【本文】生きたりし折の女になりて、

あふことのかたみにうふるなよ竹のたちわづらふときくぞかなしき

又、

身をなげてあはむと人に契らねどうき身は水に影をならべつ
【注】
・「あふこ」に「逢ふ期」と「朸(あふご)」、「かたみ」は、「難み」と「互(かたみ)」の掛詞。「うきみ」に「憂き身」と「浮き身」の掛詞。
【訳】生きていたときの女の気持ちになって作った歌、
逢うことが困難なので交互に植えたなよ竹のように戸口にすっくと立っていられずにうろうろしながら、つらい思いをしていたと聞くのが悲しいことだ。
また、
投身自殺をしてあの世で結ばれようと人と約束したわけではないけれども、つらいこの身は遺体が浮かんで水に影を並べてしまったことだ。

【本文】又今一人の男になりて、

おなじ江に すむはうれしき 中なれど など我とのみ 契らざりけむ

かへし、女、

 うかりける わが身なそこを おほかたは かかる契りの なからましかば
【注】
・「江に」と「縁(えに)」、「すむ」に「済む」と「住む」を言い掛けた。「江」と「済む」は縁語。
・「身」に「水底」の「み」を言い掛けた。「そこ」は、「そこ(あなた)」の意の「そこ」をも含意していよう。
【訳】また、もう一人の男の身になって、
おなじ江に夫婦の縁をむすんで暮らすのはうれしい仲であるが、どうしてわたしとだけ夫婦の契りを結ばなかったのだろうか。

返歌、女

二人の間で板挟みになってつらかったわが身は、水底に沈んでしまったが、そもそもこういう二人の男性から言い寄られるという前世からの因縁がなかったならば、あなただけを愛して済んでいたでしょう、こんな目に遭わずにすんだのに。


【本文】又一人の男になりて、

 我とのみ 契らずながら 同じ江に すむはうれしき みぎはとぞおもふ
【訳】もう一人の男の立場になって、

 あなたは私とだけ 契りを結んだわけではないけれども この同じ江の美しく水の澄んだ水際に 夫婦として暮らすのは嬉しい身だと思いますよ









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Last updated  July 31, 2011 04:53:43 PM
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