カテゴリ:ワインスタンド
アパートに帰る道すがら、ワインスタンドで飲んできた。
朝からどんよりと曇った一日で涼しく、先週までの暑さが懐かしい。今日のワインスタンドには新酒がなく、1995年産のトロッケンなんて、売れ残ったワインをなんとかしたいということのようだったが、まっとうな味のリースリングだった。何より、一杯90セントからという良心的な値段がうれしかった。ユーロになってから何でも高くなったけれど、ワインスタンドのワインも例外ではない。一杯1ユーロを切る値段なんて、今年初めて見た。 石畳の町並みの上を、早い速度で流れる雲をながめながらワインをすすっていると、質素な身なりの老婆が一人カウンターにあらわれた。きのうの1ユーロを払いにきた、という。持ちあわせが無いんだけど、と言ったけど、それでもワインをグラスに注いでくれたのだそうだ。その場に居合わせた人々みんな、良心的な老婆に感心していた。 「昔は、貸したら返ってくるのがあたりまえだったよね。」 「そうそう、今はそのあたりまえがあたりまえじゃなくなっちまったけど。」 そういえば、つい先週もワインスタンドで、飲み逃げがあった。24ユーロだから、グラス10杯以上は飲んだあげくに、代金を払わずにトンズラされたワイン農家のご主人は相当にご機嫌ななめだった。「こちとら、まっとうな値段で正直に売っているんだから、こんなことされたらやってられんよ、まったく。」と怒りながら、店じまいするにはまだ早い6時前というのに、帰り支度をはじめていた。 今日のワイン農家の旦那は「ありがとう」と1ユーロを受け取ると、そのまま他の客の応対を続けた。老婆は少し何かを期待する様子でしばらく佇んでいたが、「それじゃ、昨日のおかみさんによろしく。」と言って立ち去った。気前のよいワイン農家なら、「せっかくわざわざ払いに来てくれたんだから、一杯飲んできなよ」と、振る舞いワインがあったかもしれない。僕は彼女に一杯おごってあげたい気持ちになっていたが、そうするのも何か差し出がましい気がして、出来なかった。その場にいた誰も、そうしなかった。 昔なら、今よりおおらかな古きよき時代なら、みんなが彼女に一杯おごろうとしたのだろうか?不景気で世知辛い世の中が、人々の心のゆとりをなくしているのだろうか。事情はよく判らないが、少し寂しい気がした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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