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2006/07/06
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カテゴリ:ワインスタンド
夕刻、ワインスタンドを通りすがると、顔見知りのベッカー氏が手を振った。
「買い物の後でまた来ます。」
と言うと、
「俺はそろそろ引き上げるから、一杯とりあえず一緒に飲もう。」
という。彼は大学の近くのアパートの管理人をしていて、かれこれ10年近く、ワインスタンドに通っている。気前のいい人で、大抵一杯おごってくれるので、つい、好意に甘えてしまう。

ベッカー氏は今年ここに来たのは今日が初めてだそうだ。常連は来ているか、というので、何人かの顔は見ました、と報告したついでに、ディーターのことを思い出した。僕がトリアーに来たばかりのころ、ワインスタンドに来ると必ず彼がいた。近郊のホテルでソムリエをしていると聞いたが、いつもいるので、てっきり引退したと思っていたが、当時まだ現役だったという。一体いつ仕事をしているのか、不思議に思ったものだ。ともあれ、ワインスタンドに行くといつも彼がいて、常連達とゼクト一本で長話をしていた。ふとした折りに目が合うと、「あぁ!」と笑顔を見せ、軽くグラスを持ち上げて挨拶した。
「ディーターは、去年の秋に死んだよ。」
ベッカー氏は告げた。

「がんになっちまって。ま、なっちまったら仕方がないやね。今のうちに楽しめるだけ、楽しむだけだよ。」
ディーターが前立腺のがんを患っていたことは、一昨年彼から直接聞いた。
昨年時々見かけた時も、ひどく顔色が悪かった。最期の頃は立っているのがつらいので、椅子のあるマルクトハレのワインバーで飲んでいたらしい。

ディーター体調を崩してワインスタンドに滅多に現れなくなってから、常連の顔ぶれが少し変わった。いつもアットホームで和気藹々としていたのが、少し酒癖の悪い人々が長居することが増えたような気がする。
「おい、あんた。いい加減充分飲んだだろう。そろそろ家に帰りな。」
そう言って場を仕切ってくれたのが、ディーターのいた頃の常連達だった。

ディーターという核をなくしても、ワインスタンドは相変わらずトリアーの真ん中にあり、気軽に色々なワインを飲める場所に変わりはないのだが、いつも彼がいた一角を見ると、そこだけぽっかりと穴があいているような気がした。ベッカー氏が去った後、彼がいつも飲んでいたゼクトを一杯頼んだ。そして心の中でディーターに向けて軽くグラスを上げ、冥福を祈った。

sekt





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Last updated  2006/07/07 07:39:33 AM
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mosel2002@ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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