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2010/06/08
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カテゴリ:醸造所訪問

フォン・シューベルト醸造所の新酒試飲会。ケラーマイスターのシュテファン・クラムル(右)と話し込む醸造所後継者マキシミリアン・フォン・シューベルト。


ヨーロッパには階級社会が現代も根強く残っているのではないか。
目に見えない意識の壁に、時々ぶつかることがある。

それは、フォン・シューベルトの新酒試飲会であった。
つつじの花が咲き乱れる庭園から館のエントランスに入ると、オーナーのカール・フォン・シューベルトが顧客と談笑していた。
「ああ、きみか」フォン・シューベルトは私を見て軽く笑顔を浮かべ頷くと、会話に戻った。
相手は医者か薬局経営者だろうか。頭痛薬の話題で盛り上がっていた。

新酒試飲会は毎年5月下旬の日曜と翌月曜に行われ、日曜は一般顧客、月曜は業者向けとなっている。
その日曜の来訪者は、ざっと見たところ3つのグループに分けることができた。
一つは個人のお得意様。フォン・シューベルト氏もメンバーに名を連ねるロータリークラブ会員など社会的地位のある人々で、オーナーとは旧知の間柄である。彼らはワイン目当てというよりも、フォン・シューベルト氏に会う為に来ているようだ。
二つ目はワイン商やレストラン関係者。彼らも醸造所にとっては大事な顧客なので、奥さんかオーナーが丁寧に対応している。
そして三番目目が私の様なワイン好きだ。大抵は2~4人連れで訪れ、仕上がりについて議論し、納得がいくまで繰り返し比較試飲にいそしんでいる。フォン・シューベルト氏は彼らと短い挨拶は交わすものの、あまりかかわらない。代わりにケラーマイスターのシュテファン・クラムル氏が話し相手となる。

この会場の雰囲気は、他の醸造所の新酒試飲会と少し違う。
私的な印象だが、社交の場としての性格がその根本にあるような気がする。本来はオーナーと個人的に親交がある顧客のみ参加が許される機会に、その他のワイン愛好家の参加が寛大にも許されている、という感じだ。つまり、著名醸造所の新酒試飲会である以前に、フォン・シューベルト家の年中行事のひとつなのである。しかしながら、新酒試飲会は醸造所のサイトで告知され、事前に連絡すれば誰でも参加できる。そこにフォン・シューベルト氏の懐の深さを読み取ることもできるかもしれない。

いずれにせよ、2007年、2008年を交えた27種類の試飲は興味深いものであった。
2009のフォン・シューベルトは、中身の詰まった充実した生産年である。
繊細さが目立つ2008よりも、2009の辛口は、ミネラルとエキストラクトと酸味、それにルーヴァー独特の青草のような香草のヒント交じり合い、メタリックな、まるで青銅をなめているような味わいがあり、とても力強い。天然酵母による発酵と、瓶詰め間もない新酒故に酵母臭も明瞭で、閉じ気味の果実香を覆っている。複数の樽をアサンブラージュして残糖を8g/Liter前後に調整しているとはいえ、酵母を一切添加せず、果汁が樽の中で自然に発酵するに任せた味は、まさにテロワールのもたらした独特の個性に満ちている。先日、酵母を自家培養して添加していると書いたが、この機会にクラムル氏に確認したところ間違いであったので訂正する。「自家培養でも酵母を添加したら、それは天然酵母による発酵とは言えない」という。天然酵母による発酵は、いわゆるサッカロミセス・セルヴィシエ(アルコール発酵を司り、醸造用に培養される酵母)以外の酵母でスタートするが、やがて毎年12月末にはちゃんとワインに仕上がる。「天然酵母による発酵は個性的なワインが出来るし、それが僕には面白いんだ」という。

ファインヘルブ以上ではフルーティな甘みが他の要素を中和し、辛口よりもやや素直な味と感じた。ミネラル感は明瞭だが、果実味にピュアな感じがあり直線的で、辛口ほど自己主張が強くない。そしてさらに甘口は熟したリンゴ、シトラスのアロマが膨らみ、ほっそりとして繊細なスタイル。辛口にあった意固地なまでのミネラルと酸味の力強さは、甘みを増すほどに澄んで熟したフルーツのエレガントさに圧倒され、目立たなくなるようだ。

甘口の中ではとりわけ、2005年に植樹したブリューダーベルクの初収穫で醸造したアウスレーゼ 2009 Br?derberg Jungfernwein Ausleseは、非常に繊細かつしなやかでピュアな甘み、精妙な酸味と非常に長い余韻が素晴らしい。シュペートレーゼはやや中途半端だったが、アウスレーゼはAbtsberg Nr.149より番号なしの単なるAbtsberg方が、現時点ではアロマティックで熟したリンゴ果実味も深く、調和がとれて余韻も長く、魅力的であった。一方Abtsberg Nr.93は蜂蜜、香草、パイナップル、エッセンス的な澄んだ甘みで、熟したリンゴが主体のノーマルなアウスレーゼとは一味違う。そして昨年幸運にも収穫を見学出来た2009 Herrenberg Eisweinは、予想以上に見事な仕上がりであった。クリーミィで濃厚なネクターの甘みは気品に満ちて、余韻は口に含んだときよりも力強く長く続いた。

「アスパラガスのクリームスープは如何ですか」
コーヒーカップに入ったスープをトレイに載せて歩く女性に勧められ、一通り試飲を終えてほっとしていた私はありがたく頂戴した。重厚な家具調度にかこまれた会場には、オーナー自ら仕留めたというイノシシのサラミや美味しそうなテリーヌなどがご自由にどうぞ、と置いてあった。もっとも、私は遠慮して口にしなかったが。

「君、このような非公開の場で写真を撮るのは主催者の許可を得てからにしたまえ」
幸せの余韻に浸っていると、年配の男から唐突に注意された。私が首から提げていた一眼レフが気に障ったらしい。ロータリークラブ会員で、フォン・シューベルト氏とは旧知の仲であるという。
私は毎年この試飲会で写真を撮っていこともあり、いまさら許可を取るまでもないかと思っていたのだが、それではとオーナーを探すと、相変わらず得意客と話し込んでいた。それはいつまで待っても終わる気配がなく、少し距離をおいて機会を伺う私を気にする様子もなく、延々と話は続いた。
あえて割り込んでも却って機嫌を損ねるだけかもしれないし、以前実際に損ねかけたことがあった。
いまさらあえて撮影許可を得て撮ることもないか。私はとりあえずカメラをしまいこみ、醸造所を後にした。
その後味はグリュンハウスのリースリングのように、ほろ苦かった。


C. von Schubert'sche Gutsverwaltung Gr?nhaus
www.vonSchubert.com

昨年の新酒試飲会の様子はこちら
昨年のアイスヴァイン収穫の様子はこちらこちら






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Last updated  2010/06/08 07:18:17 AM
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pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002@ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
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