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2013/03/14
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ドイツワインは和食にあう、とよく言われる。

実際、私もそう思う。さっぱりとして繊細な辛口は大抵のおそうざいに無難に合うし、毎晩のように辛口リースリングを飲みながら、これはまずい、と思うことは滅多にない。というか、これまで一度もない(キッパリ)。にもかかわらず、なぜドイツワインが日本では肩身の狭い思いをしているのか理解に苦しんでいたのだが、実は、和食とリースリングのマリアージュはけっこう難易度が高いらしいということを、先日知った。

そう、マリアージュ。私は普段そこまではこだわっていない。普通に飲んで普通に食べて、両方が喧嘩しなければそれでいい、というのが普段飲みの基本的なスタンスだ。ところが、最適なコンビネーションをリースリングあるいはドイツワインと和食の間に見出そうとすると、とたんにこれが、難しくなる。


その日はドイツワインと和食の相性をテーマにしたセミナーであった。
講師は私が密かに尊敬するワイン評論家のT氏。参加者の前には鯖ずしと穴子寿司に、天ぷらや煮物の入った和食弁当とともに、紙コップが4つ並ぶ。まるでお花見のような道具立てだ。一式携えて、その週末に丁度満開だった梅を眺めたら、さぞ気持ちよかったことだろう。だが、我々は都内のとある会議室に集い、紙コップにドイツワインを少しずつ注いで一つ一つの料理との相性を検討するという、お花見の解放感とはおよそ対照的な状況であった。

普段なら何の疑問も持たずに全部おいしく綺麗に飲み干し、たいらげたことだろう。だがそれではセミナーの意味がないし、進歩もない。お花見への思いを断ち切って鯖ずしを一口齧り、口中の感覚を確かめる。そして異なる4種類のリースリングとの合い方を観察する。確かに、寄り添うような感じのものもあれば、分離するような感じがするものもあり興味深い。新鮮な感覚だった。

なぜこうした違いが生じるのかを知り、その理由を言葉で伝えることが出来るようにするため、T氏は独特の手法を提示した。ワインと料理、それぞれについて、以下の点に注意してみるのだ。

(1) ワインや料理の口中での広がり方はどうか。拡散するように広がるか、それとも一部に集中するような印象を受けるか。(分布)

(2) 縦方向での定位。味わいは口中の上方に主に感じられるか、それとも下方か、あるいはその中間か。(重心)

(3) 口中での味の広がり方は大きいか、それとも小さいか。(広がり)

(4) 味わいの口中での形状は垂直に近いか、水平に近いか。(形状)

(5) 味わいは口中の前にあるか、それとも奥にあるか。(前後感)

(6) 味わいの感触は柔らかいか、固いか。ざらついているか、なめらかか。(物性)

セミナーでは空間(分布、重心、広がり、形状、前後)、時間(流速、余韻)、物性(密度、構造、表面)、香味(酸、風味、香強度)といった分析基準が紹介されたが、主な項目は上記の6点と考えて良いだろう。

味は舌で感じるものであるのに対して、口中での位置と形態で分析するとはどういうことか。その理由はさておき、気を付けてみると確かにそうした違いを感じることが出来る。これまでワインと料理の相性については甘味、酸味などのバランス、軽さ、重さを基準にして表現されることが多かったが、この切り口は新鮮だった。ワインだけでなく料理はもとより水、調味料など、およそ口に入るものには何でも適用可能な基準で、これらの項目で一致する部分が多ければ、ワインと料理の相性はよくなるという。

実際、鯖ずしはほどよく効いた酢の感覚が口中で拡散し、口中の下方で米としめ鯖の甘味と旨みが水平に広がり、長めの余韻を残す。4つ合わせたリースリングのうち、あるものは酸の切れ味がよく口中の上方に香味の縦方向の存在感があり、鯖ずしの下方で横方向に広がる味と分離した。やわらかく甘味のあるシュペートレーゼは懐が広く、味わいも下方にゆとりがあったので、鯖ずしに比較的よく合う。一方、穴子寿司は比較的コンパクトに口の中ほどに味わいがまとまり、焼いた皮のテクスチャーがやや硬めに感じられ、余韻は鯖ずしほど長くない。すると上記のシュペートレーゼでは柔らかさとズレがが生じ、酸の垂直方向に伸びる味とも重ならず、辛うじてリースリングのミネラル感の固さが接点となった。かぼちゃの天ぷらでは、リースリングの酸が油を洗い流すとは時々聞くが、実際にはかえって衣の油分を強調するように作用したのが意外だった。確かに、リースリングと和食の組み合わせはなかなか難しい。

T氏によれば、和食は様々な国の料理の中でも重心が低いのだという。その理由の一つにほとんどの料理の味付けにはダシが用いられていて、このダシを使うと重心は必然的に下がるのだそうだ。また、質感も主食のコメをはじめとして豆腐、おふ、油揚げ、さといもなど柔らかいものが多く、しかもダシを含ませてある。そして酸味は酢の物や梅干しなどの副菜を除けば使われないことの方が多い。一方でドイツのリースリング辛口は酸が明瞭で重心が上方に位置し、ミネラルと酸が固いことが多い。つまり、相互にズレを生じる要素の方が、一致する要素よりも多いのだ。その点で甘口の場合甘さが重心を下げるので、和食との相性は改善される。かつて日本で甘口のリースリングが広く受け入れられたのは、もともと日本の食文化が重心の低い味覚体験に慣れ親しんでいたことと関係があるのかもしれない。逆に言えば、辛口リースリングがなかなか浸透しないのも、そのあたりの違和感に理由があるのかもしれない。

リースリングに比べると酸味の比較的控えめなブルグンダー系やジルヴァーナーは、和食とはまだ合わせやすい。ラインヘッセンのヴァイスブルグンダーと塩漬けの桜の葉でくるんだ甘塩の鮭はすばらしくよく合った。不協和音を奏でる要素がなく、ひとつひとつの味覚的要素が適度な強さで調和し、桜の葉の甘く香ばしいかおりがブルグンダーの繊細な果実味によくあった。塩気がワインを引き立てた面もあったと思うし、鮭の固さがワインのテクスチュアとマッチしていた気もする。ともあれ素直に「美味しい」と思った。1+1が2ではなく3になる、記憶にのこる体験だった。4種類のワインの中のひとつはイタリアのシャルドネだったが、誰もドイツワインではないと気付かなかった。バーデンのグラウブルグンダーは酸が控えめでとてもユルく、フルーティな甘味が重心を低めにしていて、どの食材とも反発しないが、かと言って合うわけでもない。また、ラインヘッセンのジルヴァーナーが主体のブレンドワインも生姜入りのつくねによくあっていたし、ビュルテンベルクのシュペートブルグンダーのロゼも同じく肩の力を抜いた穏やかな味で、無難に合わせることが出来る。その後でモーゼルのリースリング・ファインヘルブを飲むと、生き生きとした酸の存在感と充実した甘味でリースリング単体で飲むにはフルーティで美味しいが、自己主張が強く和食からかなり浮いていると感じた。

T氏によれば、和食にはドイツ南部のゆるいロゼ、薄いシュペートブルグンダーやブレンドワインが合わせやすく、土壌で言えば粘板岩や石灰質よりも砂質土壌のほうが、酒質がやわらかく和食にあわせやすいという。和食にあう、日本人の味覚にあうワインという点からすれば、冷涼な気候のいかにもドイツらしいリースリングよりも、温暖な産地のゆるくて柔らかく重心の低いブルグンダー系やジルヴァーナー、あるいは複数品種のブレンドワインに注目するべきではないか。日本には日本の食文化があり、日本の味覚にあったワインを選ぶべきである。それは欧米の評価とは違っても不思議ではなく、むしろ当然だ。というのが、今回の結論であった。


以上は私の理解であって、言葉足らずで理解不足な点があるかもしれない。とはいうものの、日本におけるドイツワインのありかたを考える上で興味深い視点と思ったので、ご紹介させていただきました。ご意見や間違い・思い違いに気がつかれた方は、お気軽にご指摘頂ければ幸いです。






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Last updated  2013/03/15 12:49:30 AM
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李斯。@ お久しぶりです。 御無沙汰しております。 何時も拝見してい…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002@ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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