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2009.05.27
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カテゴリ:ちょっと創作。


連載10回目です~balloon_34.gif
そういや、書き始めた当初は10回を予定してたんだけど、
話が脱線してる間に、終わらなくなっちゃいました…笑

アイル&シオン番外編の続きです。
びみょ~~な空気でゴメンナサイ。サラリと読んでくださいませ…笑


**第三の扉**(1)
**第三の扉**(2)
**第三の扉**(3)
**第三の扉**(4)
**第三の扉**(5)
**第三の扉**(6)
**第三の扉**(7)
**第三の扉**(8)
**第三の扉**(9)


02961.gif


【Episode-2 アイル7歳 シオン7歳】


「あれ…?今、何か光らなかった?」アイルが不審気に湖を覗き込む。

透き通るような綺麗な水だが、底は見えない。相当な深さがあるようだ。
彼は、波一つない鏡のような水面に、恐る恐る手を触れた。



途端―

ぶわぁっと、湖底から星屑のように煌く光の球が、水中に広がった。
まるで生きているかのように動き回る、エメラルドグリーンの光の乱舞―。

水面下で光同士が衝突しては、キラキラした尾を残して跳ね返っていく。
恐ろしさは微塵も感じられず、この幻想的な光景にただただ目を見張るばかりだった。

アイルは"宝石箱をひっくり返したみたいだ…"と、柄にもない事をぼんやりと考える。




「これはね…死者の魂なんだよ。」

シオンがぽつりと呟き、アイルはハッと我に返った。


「この湖の底には、死んだ人達の魂が…殺された人も、病気だった人も…
 みんな光の球になって、沈んでいるんだよ」

アイルは、訥々と語り始めるシオンを、怪訝な表情で見つめ続きを待った。



「この湖の底は、第二の世界。人間の魂だけが集まった場所。
 それらの魂には個性がない。感情がない。誰のものかも分からない。
 でも、その中でも特に想いの強い魂だけが、第三の世界に行くことができるんだ」

「…第三の世界…?」

「そう、死者の国。この湖は、そこへ行く通過点みたいなものだよ。
 もちろん、死者の国へ行かずに永遠にここで彷徨っている魂がほとんどなんだけど…。」
 

まるで、何者かがシオンの口を借りて話しているように、大人びた口調だった。

シオンの藍色の瞳からは輝きがなくなり、物憂げな様子で湖を眺めていた。
ぼんやりと魅了されたように、キラキラと輝く光の球を目で追う。
そんなシオンの様子を見て、アイルは不意に言いようのない不安に駆られた。



「あ……!!ごめん、アイル。これ、全部本で読んだ事なんだ!本当かどうかは分からな…」


突然アイルは、ギュッとシオンの小さな身体を抱きしめた。


「シオン…どこにも…どこにも行かないでよ。
 俺が、もっと強くなって一生シオンの事を守るから。お願いだから、そばにいて…」

アイルの銀髪から水滴が滴り、シオンの頬を濡らす。
自分の背中に回された手が細かく震えているのは、気のせいだろうか。


ドキリとしてシオンは弟の顔を覗き込む。
まるで鏡を見ているかのように同じ顔。同じ銀色の髪。そして同じ藍色の瞳。
しかし、今その瞳には、困惑と不安が形になってうっすらと涙が滲んでいる。


シオンはたった今、心の中に芽生えた何とも言えない感情に気付かないふりをする。


「僕は…どこにもいかないよ。いつまでも、アイルのそばにいるから」
照れくさかったが、そっとアイルのまぶたに口付けする。僅かに塩辛い味がした。

アイルは見るからに安心した表情を浮かべて、顔を赤くしながら笑った。

「あはは…俺が弟みたいだよね。ごめんね、シオン。
 あっ、もう雨止んだかなー?そろそろ行こっか。腹減ったなー」


"いや、弟なんだけどね…。まぁ……いっか。"

シオンは、この小さな秘密を自分の心の中にしまっておくことにした。
いつか、自分がアイルをこの手で守れるぐらい強くなった時に、この事を明かそうと。


小さなポシェットの中から、草だんごを出してアイルに手渡す。

シオンは頼りになるなー!と、嬉しそうに草だんごを頬張る弟を見て小さく微笑む。
僕が、どんなことがあってもアイルの事を守るからね―。



* * * * * * * * *



鈍い痛みを伴う、甘く柔らかな幼い頃の記憶。
じんわりと感傷に浸りながらも、彼は薬草を手に握り玉座の間に急いでいた。

生まれてこのかた、ここまで必死になったのは初めてだった。
シオンは、周りから「優しい子ね」と言われていたが、自分ではそうは思っていなかった。


他人の事なんかどうでもいい。病気になろうが、勝手に死のうが関係ない。
誰かのために必死になるなんて、シオンの辞書にはなかった。無駄な労力だと思っていた。


表面上だけは穏やかな笑顔を張りつけ、心の中では相手を嘲笑っている。
一番軽蔑していた人間。一番なりたくなかった人間。
自分がそんな人間になりつつある事に気付き、しばしば自己嫌悪に陥っていたのだった。


"今頃になって……そのツケが回ってきたのかな…"


口がカラカラに渇き、汗と涙が頬を伝う。唇からは、僅かに血の味がした。
唇をきつく噛み締めていたせいだと気付く。


"僕が…僕が、アイルの事を一生守るって心に決めていたのに…!"


それが、事もあろうに命を奪おうとするなんて…。何が起こったのか未だに信じられなかった。


今や、目の前に玉座の間の扉がある。沢山の命が失われた呪われた部屋。
もはや、心の奥底に眠るくだらない感傷に浸っている暇なんかない。
ゴクリ…と唾を飲み込み、両手で勢い良く扉を開けた。



* * * * * * * * *



部屋は、無人だった。

城内に立ち込めていた濃い霧はいつの間にか晴れ、妖しい香りも既に消え去っている。


"遅かった……?"


ガクリと膝を付き、冷たい床に広がったまだ生暖かい血にそっと指を触れる。
アイルの身体は、忽然と玉座の間から消えてしまっていたのだ。
後には、見慣れたナイフだけが残されていた。



「アイル……」


塩辛いしずくが頬を伝って流れ落ち、黒い水たまりに混ざり合った。

どこからか、弟の笑い声が聞こえたような気がしたが、それも幻聴かもしれない。
先ほど力任せに毒花を抜いた時の猛毒が、もう身体中にまわってきたのだろうか…。
心なしか手足が痺れ、呼吸も苦しくなってきた事に気付く。


アイルは、死者の国へ行ったのだろうか。恋人に…リルに会えたのだろうか。
こんな時まで嫉妬をしてしまう自分が、どうしようもなく憎かった。胸が苦しかった。


「アイル……アイル……!!」


天窓から、優しく柔らかい月明かりが差し込み、シオンの青白い顔を照らしていた。



<つづく…>






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最終更新日  2009.05.27 05:58:41
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