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2008.10.11
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ミシェル・パストゥロー(篠田勝英訳)『ヨーロッパ中世象徴史』
(Michel Pastoureau, Une histoire symbolique du Moyen Age occidental)
~白水社、2008年~

 このブログでしばしば紹介しているフランスの中世史家、ミシェル・パストゥローの邦訳最新刊です。ミシェル・パストゥロー氏の経歴や著作についてはこちらの記事を御覧下さい。
 本書は、既に原著を読んでいくつかの論文について記事も書いている、Michel Pastoureau, Une histoire symbolique du Moyen Age occidental, Seuil, 2004の全訳です。個人的には、原著読了前に邦訳が出て、嬉しいやら悲しいやらというところですが、訳も丁寧ですし(原著と読み比べると、いろんなところで勉強になりました)、内容も面白いですし、やっぱり嬉しいことです。

 本書の構成は以下のとおりです(なお、既に原著を読んで記事を書いた章については、それぞれの記事にリンクさせておきます)。

ーーー
序章 中世の象徴―想像界はどのように現実界の一部をなすか (→論文紹介記事へ

動物
 第1章 動物裁判―見せしめとしての正義? (→論文紹介記事へ
 第2章 獅子の戴冠―中世の動物たちはいかにして王を得たか (→論文紹介記事へ
 第3章 猪狩り―王の獲物から穢れた獣へ 下落の歴史 (→論文紹介記事へ

植物
 第4章 木の力―物質の象徴史のために (→論文紹介記事へ
 第5章 王の花―百合形文様の中世史のための道しるべ (→論文紹介記事へ

色彩
 第6章 中世の色彩を見る―色彩の歴史は可能か? (→論文紹介記事へ
 第7章 白黒の世界の誕生―起源から宗教改革期にいたる教会と色彩
 第8章 中世の染物師―神に見放された職業の社会史
 第9章 赤毛の男―中世におけるユダの図像学

標章(エンブレム)
 第10章 楯形紋章の誕生―個人のアイデンティティーから家系のアイデンティティーへ
 第11章 楯形紋章から旗へ―国家の標章の中世における生成

遊戯
 第12章 西欧へのチェスの到来―困難な異文化受容の歴史
 第13章 アーサー王に扮する―文学的人名学と騎士道のイデオロギー

反響
 第14章 ラ・フォンテーヌの動物誌―十七世紀における一詩人の紋章図鑑
 第15章 メランコリーの黒い太陽―中世の図像を読むネルヴァル
 第16章 『アイヴァンホー』の中世―ロマン主義時代のベストセラー

訳者あとがき
初出一覧
図版一覧

索引
ーーー

 本書は、ミシェル・パストゥローがこれまでに発表してきた論文を、「象徴史」という観点から集め直した論集です。発表時点とほとんどそのままの論文もありますが、今回まとめなおすにあたり、加筆修正などもされているようです。

 個人的には、既読章のタイトル訳はともかく、基本的に意味をとれていたので安心しました。
 が、一点強調しておくべきことがあります。原著の紹介の際、私は書名に『西洋中世の象徴の歴史』と訳をあてていました。 une histoire symboliqueはしかし、序章で著者が強調するように、「象徴史」と訳すべきでした。というのも、ミシェル・パストゥローはこれを、社会史や政治史、経済史などと同様の領域と位置づけているからです。原著の段階ではこの部分で誤読していたこともあり、きちんと意味をとれていなかったので、邦訳で意味をとれて良かったです。

 さて、ここではそれぞれの章についての細かい紹介は避け、印象に残った部分について書いておきたいと思います。

 まず、細かいところですが(誤植?の)指摘をしておきます。訳者あとがきで、パストゥローの訳書を列挙したのち、(三)[『紋章の歴史―ヨーロッパの色とかたち』]のあとがきで、パストゥローの人柄が描かれているとありますが、これは(二)[『ヨーロッパの色彩』]の誤りだと思います(348頁)。
 ついでに、あとがきではパストゥローの既にある訳書として5つを挙げていますが、 2007年12月に出版された邦訳『色をめぐる対話』は挙げられていません。ドミニク・シモネとの共著ということで、あえて外したのでしょうか…??
 なお、パストゥローの比較的最近の著作『熊、玉座を追われた王の歴史』も、松村剛・理恵両氏による邦訳が進行中とのことで、こちらの出版も楽しみです。

 さて、内容の方に移ります。
 著者の論文を読んでいるとよく感じることですが、数々の問題提起が行われるのが興味深いです。常に新しい、今後の研究を促す言葉を忘れないというか。
 たとえば、「木の力」での問題列挙に付箋を貼ったのですが、特に興味深かった問題提起の例を挙げておきます。それは、日常生活における物品を作るとき、これこれの木を使うということと、元になる樹木の象徴的機能の間に関係があるのか、という問いです。たとえば、墓地に植えられ、死と密接な関係があるとされたイチイから、棺桶や葬儀関連のものを作るのに使う木材を採ろうとするのでしょうか。このような興味深い問題提起が、いろんなところに見られます。

 動物や植物の部が面白いのはもちろんですが、詳細はそれぞれの紹介の記事に譲るとして、標章(エンブレム)の部が興味深かったです。第10章で論じられる紋章とアイデンティティーの関係、第11章で論じられる国民意識と旗の関係などなど、この研究はかなり有意義だと感じました。ここでは、旗について論じられる部分で興味深かった部分について書いておきます。
 国旗で使われる図柄や色彩の根拠を見いだすのは困難ですが、その実例として19、20世紀に独立したアフリカ、アジア、南米諸国に見られるといいます。はじめは侵略者あるいは植民者たる西欧の国家に対する武装闘争の中で旗が登場し、これが次第に広範な運動の非公式の標章となります。そして、いったん勝利して独立が達成差荒れると、これは新たな国家の公式な旗となります。そして、かつての圧制者とのあいだに「援助・友好」条約の類が締結されると、もともとの動機や「挑発的な観念」は忘れるか、隠した方が良くなります。というのも、新しい国家は「清潔な」国旗―平和的で、過去ではなくて未来に向けられた旗を持つべきだからです。そうすると、旗の図柄や色彩そのものを変えることなく、その意味や象徴性が再解釈される、というのですね。

 第13章で扱われている人名学も興味深く読みました。
 このブログでも何度かふれていますが、日本では宮松浩憲先生が中世の歴史人名学の領域を開拓しておられます(論文「鉄とその象徴性」の紹介はこちら)。ただ、宮松先生はあだ名を中心とした姓の方に重点を置かれていますが、本章は洗礼名の方に重点を置いていて、その点で興味深く読みました。もっとも私自身は西欧の名付けのシステムをほとんど知らないので、さらに勉強が必要な部分と感じています。
 なお、この13章では、アーサー王伝説の人名が実際に用いられた事例を検証するため、およそ4万もの印章を調査し、431の事例を抽出しています。ミシェル・パストゥローはしばしば語り口もやさしく、テーマも面白いので、その研究はとても読みやすいのですが、その裏には莫大な史料の綿密な調査があるということがあらためてうかがえます。

 こうして通読してみると、あらためてミシェル・パストゥローの研究の面白さを実感できました。『紋章学概論』(Traite d'heraldique)もぼちぼち読み進めたいです…。
(2008/10/08読了)





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Last updated  2008.11.16 07:19:34
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