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2009.09.08
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ものと技術の弁証法
堀越宏一『ものと技術の弁証法(ヨーロッパの中世5)』
~岩波書店、2009年~

 岩波書店から刊行されているシリーズ「ヨーロッパの中世」の第5巻(第7回配本)です。
 堀越先生は東洋大学文学部史学科教授で、最近は中世考古学の研究をさかんに進めていらっしゃって、『中世ヨーロッパを生きる』にも興味深い論考を書かれています。
 『世界歴史大系 フランス史1 先史→15世紀』などでは、なんとも独特の文体で執筆されている堀越先生(*)ですが、本書の文体はとても読みやすく、また内容的にもとても興味深く、安心して読み進めることができました。
 まず、本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
序章 物質文化と中世社会
第一章 中世物質文化の源
 1 古代ローマの遺産
 2 古代石造建築の伝承―バシリカと城
 3 古代文化との断絶―古代と初期中世の農村家屋
 4 ゲルマンの痕跡
 5 キリスト教の支配―修道院の影響
 6 東方世界伝来のものと技術
第二章 領主に支配される生産と技術
 1 領主による所領経営
 2 森で採れるもの―狩猟・採集・資源
 3 河川の多角的利用と水車
 4 パンとグルートをめぐる領主の支配
 5 領主と手工業
第三章 都市に生まれた技術と商品
 1 中世都市の家
 2 都市空間のなかの公共建築
 3 繊維産業と衣服
 4 食品産業の展開
 5 手工業と機械技術
第四章 身分制社会のなかの技術・もの
 1 身分ごとの食事
 2 中世衣服の変遷と差異の発生
 3 衣服と食事の身分規制
 4 宮廷がリードする物質文化の舞台―大広間
 5 宮廷の家具調度品
 6 身分制のなかの技術書―狩猟書と料理書
第五章 鉄から見た中世社会
 1 ヘゲモニー的素材から大量消費へ
 2 製鉄技術の発展―古代から近世へ
 3 戦争の技術
 4 多様な商品生産の展開
 5 領主と製鉄所
第六章 大量消費社会のあけぼの
 1 中世と近世の物質文化を分かつもの―農業
 2 中世と近世の物質文化を分かつもの―機械技術と産業
 3 食品における大量生産と大量消費の始まり
 4 多様な服飾製品
 5 商人企業家・領主・国家
終章 中世から近世へ

参考文献
索引
ーーー

 まず、序章から引き込まれました。たとえば、世界史Bに関する高等学校学習指導要領で、身近なものや日常生活にかかわる主題などの学習が求められ、具体的な教育内容のひとつとして「日常生活に見る世界史」が指示されたことを取り上げて、こうしたテーマがこんにち重要性を認められていることを示します。
 また、「人々の関心の出発点は、まずなにより衣食住に関わるような自分自身の毎日の生活であり、そこから政治や経済を捉えようとするのが、生活人の頭の働き方である」という言葉にも、なんというか勇気づけられる感じがしました(といって、「西洋史を専門に勉強にしている」という以上、政治史や経済史にも広く目を配るべきことも承知しています)。
 ところで、本書は、衣食住の歴史や技術の歴史そのものは取り上げない、と著者はいいます。本書の目標は、「ヨーロッパ中世一千年の歴史を理解するために重要であると思われる物質生活上のトピックを取り上げながら、前後の時代との連続性のなかで、中世社会が育んだ、ものとそれを生み出す技術をめぐる問題を論じること」です。

 具体的には、第二章で農村の物質生活、第三章で都市の物質生活を取り上げ、第四章では衣食住などのそうした物質生活は身分によって規定されていたことを示します。このあたりは、やや概説的ですが、特に鉄に注目して論を展開する第五章は、いわば各論となっています。鉄の象徴性や生産方法の発展、大砲など武具に関する話など、こちらも興味深く読みました。
 第六章と終章は、五章までに述べた中世の物質生活が、いかに近世につながっていくか、を論じています。私はお酒は苦手ですが、たとえばビールが大量生産されるようになったのはこの時代だそうで、まさに「身近なもの」の歴史的展開を追う形になっています。

 では、特に印象に残った(というか読みながら付箋を貼った)指摘について、ふたつ紹介しておきます。
 本書は、中世考古学の成果をふんだんに取り入れた著作となっているのですが、たとえば、メロヴィング期(5~8世紀頃)のある集落の遺跡から、動物の骨で作られた櫛の破片が大量に見つかったそうです。この櫛、歯の間隔がとても狭く、また、紐を通すための穴が開いているといいます。ここでクエスチョンです。ではこの櫛、いったい何のために用いられていたのでしょうか?
 …と、某番組風に書いてしまいましたが、どうも、髪の毛についたシラミを取るために使われたと考えられているそうです。紐でベルトなどに結んで、頭がかゆくなったらいつでも使えるようにしていた、というのですね。

 第四章6で論じられる狩猟書と料理書の話もとても興味深かったのですが、ここでは特に、14世紀の料理書が、携帯と現場での参照に便利なように、その多くが巻物の形を取っていたという指摘を挙げておきます。というのも、巻物の形が、果たして現場で使うのに便利だろうか、と疑問に思ったのでした。
 私は、西洋中世の説教史料や説教活動に関して特に勉強してきているのですが、13世紀には托鉢修道会といって、民衆への説教活動を精力的に展開する修道会が誕生します。その修道士たち(=説教師たち)は、説教に使うために、小型の手引書を携帯していた、と指摘されています(cf. d'Avray, The Preaching of the Friars, pp. 57-62)。
 制作者や実際での現場での使い方が同じというわけではないとはいえ、巻物よりは、このような小型本の方が参照に便利だと思うのですが、なぜ巻物という形が多いのか。興味深い問題だと思います(私が不勉強なだけで、既に解決されている問題かもしれませんが…)。

 繰り返しになりますが、「身近なもの」が本書の主題で、また考古学資料などの図版も豊富に掲載されているので、実に興味深い1冊となっています。

 シリーズ「ヨーロッパの中世」は全8巻。次回の大黒俊二先生の『声と文字』が、最後の配本となります。大黒先生は中世の説教史料や説教活動について精力的に研究を進めていらっしゃる方なので、『声と文字』の刊行が楽しみでなりません。

(2009/09/05読了)


*2009.09.14訂正とお詫び
・『世界歴史大系フランス史1』を執筆され、さらにはホイジンガ『中世の秋』の訳者としても有名なのは堀越孝一先生で、『ものと技術の弁証法』の執筆者で『中世ヨーロッパを生きる』の編者でもいらっしゃるのは、堀越宏一先生でした。恥ずかしながら、そしてとても失礼なことに、お二人が別人であることに今の今まで気付いていませんでした。文体も全然違うわけですね…。ここに訂正して、お詫びいたします。





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Last updated  2009.09.14 07:13:12
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