カテゴリ:西洋史関連(日本語書籍)
ジャン=クロード・シュミット(小林宜子訳)『中世の幽霊―西欧社会における生者と死者―』 (Jean-Claude Schmitt, Les revenants. Les vivants et les morts dans la societe medievale, Paris, Gallimard, 1994) ~みすず書房、2010年~ 中世歴史人類学研究を精力的に進めていらっしゃる、ジャン=クロード・シュミット氏の最新の邦訳書です。原書は上記のとおり1994年に刊行されており、英訳も1998年に出ています。私は数年前に英訳で通読していましたが、当時の読解力でどこまで理解できていたことか…。というんで、今回の邦訳書刊行を嬉しく思います。 ジャン=クロード・シュミットの業績は、すでに3冊が邦訳されています。 ・『中世の迷信』 ・『中世の身ぶり』 ・『中世歴史人類学試論』 さて、本書の構成は次のとおりです。 ーーー 序 第一章 幽霊の抑圧 第二章 死者を夢に見る 第三章 幽霊の侵入 第四章 驚くべき死者たち 第五章 ヘルレキヌスの一党 第六章 飼い慣らされたイマジネール? 第七章 死者と権力 第八章 時間、空間、社会 第九章 幽霊を描く 結論 原注 訳者あとがき ーーー 本書の構成をふまえ、全体をレジュメ風におおざっぱに示すと、次のようになります。 序…問題提起、本書の問題関心、方法論 (1)盛期中世以前の概観 第一章…ギリシャ・ローマ、ゲルマンの幽霊の多さ⇔初期キリスト教による幽霊の抑圧 第二章…初期中世における幽霊に関する夢の少なさ⇔自伝的著作の増加と夢における幽霊の出現 (2)盛期中世―三つの史料類型からみる幽霊譚の性格と機能 ○史料類型1:奇蹟譚iracula 第三章…三つの史料類型の概要、「奇蹟譚」における幽霊の分析=幽霊譚の道徳的教訓と教会改革の手段 ○史料類型2:驚異譚irabilia 第四章…奇蹟譚と驚異譚の類似性と相違性、物語の「世俗化」 第五章…ヘルレキヌスの一党の分析、来世の場所の理論、物語の政治的意義 ○史料類型3:教訓例話exempla 第六章…説教やその中に挿入された説教例話における幽霊譚、「民間伝承」の受容 (3)権力・社会との関連と、来世(幽霊)のイメージ 第七章…権力者に献呈された幽霊譚の政治的機能 第八章…幽霊の出現する時間や空間に関するイメージ、社会(親族等)と幽霊の関連 (4)図像に関する分析 第九章…幽霊の身体、言語、衣服などに関する図像学的観点からの分析 結論 あらためて、印象に残った点などについてメモをしておきます。 本書の序論で強調されているのは、死者記念(命日に死者の救済を祈るなど)のもつ、忘却機能です。死者名簿などで、死者の名前を残し、その救済を祈る一方で、遺族のもつ故人への悲しい思い出を和らげることが重要な機能であった、というのですね。まさに今日もいう「喪のつとめ」ですね。 本論に入ってしまうと、この「喪のつとめ」の側面についての分析があまり感じられなかったのですが、それは私の読みが浅いせいかもしれません。 本書のなかで特に興味深かったのは、上記のレジュメ風のまとめでいえば(2)にあたる部です。中でも、説教に関する第六章が面白かったです。 奇蹟譚や驚異譚では、幽霊として出現する人物についての説明が詳細なのに対して、教訓例話での幽霊は、より一般化されている、という指摘など、なるほどと思いながら読みました。 ジャン=クロード・シュミットは、図像の分析を研究の初期からされていて、特に最近は図像学に関する業績も多いですが、本書の第九章もまさに図像の分析となっています。多くのカラー図版があるのも嬉しいです。 ただ、カラー図版について、ちょっと残念だったのは、図版のページのまとまりが二箇所に分かれていて、しかも前のまとまりの最後の図版に関する説明が、後ろのまとまりの最初のページに書いてあったりするので、参照しにくいということです。みすず書房などの本では、カラー図版を載せるページが本文のページとは紙質が違っていて、本文のページの間にはさまれるということがよくあります。本書もまさにそうなのですが、上に書いたように図版と説明文が離れるなら、本の冒頭あたりにまとめて図版のページをおいている方が見やすいのでは、と思ったのでした。 それはともあれ、図像研究についていえば、氏の最近の著作の邦訳(『イメージの身体性』)が、刀水書房から近刊予定とのことで、こちらの刊行が楽しみです。 序や結論におかれた研究の方法論に関することばなど、興味深い指摘も盛りだくさんの一冊です。忙しい時期に斜め読みになってしまったところもありますが、良い読書体験でした。 (2010/06/25読了)
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Last updated
2010.07.09 07:09:53
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