[投稿・掲載文]の記事一覧 | 　　新　つれづれ日記

私いい人です。

この文は朝日新聞に投稿するも不採用だった原稿です。あらたに本名などを入れ、手を加えた文章です。・・・・・・・・・・・「私いい人です」先日、夜の10時の中央線で2万円入りの財布の入れたポシェットを落としました。名前のわかるものは何もポシェットに入れていなかったので、諦めてはいました。夫も「済んだことだ、潔く諦めるしかない」といいます。しかし、「もしや」と思い直して2日後に駅まで行き、問い合わせてみました。ところがあったのです。駅員に正直に届けてくださった方の親切に感謝感謝です。ここで改めてお名前も知らない親切な方にお礼申し上げます。そして「日本ってまだまだ素晴らしい国だ」と実感しました。次に逆に財布を拾った外国人青年のはなし。コシンベック君はタジキスタンでの私たち日本語教師時代の教え子です。来日し国際交流基金の埼玉日本語研修センターで研修中の彼は休日に街中で男物の財布を拾いました。中には1万円とカードと名刺が入ってたそうです。その時コシンベック君の財布には500円しかなく、おなかも空いていたそうです。まず、本国でなら「しめた！ヤッター！」とばかりに自分の懐に入れただろうと彼は言います。でも、ここは日本。日本語を習い、日本文化を知り、正直で優しい日本人に触れるなかで彼の心は財布を届け出るかどうか右に左に迷ったそうです。私たち夫婦の顔も頭によぎったようです。ひとまず、宿舎に財布を持ち帰り、ゆっくり考えた結果、決断して持ち主にメールしたそうです。選ばれて日本に来た、タジキスタン代表という彼の誇りも作用したのでしょう。次の朝さっそくサラリーマンの持ち主が現れ　感謝されたそうです。持ち主からのお礼は残念ながらお金ではなく、お菓子だったそうです。彼が今勉強している、クラスで、またセンターの先生方からもじきじきに「すごい」と褒められ、彼はセンターの有名人になり、やっぱりこれでよかったと思ったそうです。彼は私にウインクしながら「私いい人です。でもいい人になるには本当に悩みました」と言いました。コシンベック君は日本でいい思い出を作って帰国しました。日ごろ私たちは、日本の良さをあまり評価していませんが、　外国人が「日本人の習性」を褒めちぎりますから、きっと素晴らしい国なのだと　思いますよ。・・・・・・・・・・・・・コシンベック君（右端）の送別会にて懐かしい学生たち　　2004年タジキスタン外語大学　日本語科2年生手を上げているのがコシンベック君です。このクラスから短期ながらすでにジャホンギル、ヤヒヨ、コシンベック君の３名が日本に来て日本語研修を受けています授業で「桃太郎」をやりました。中段は学生たちが描いた絵です。・・・・・・・ＭとＫのギャラリー

投稿文NO10　人民中国　

中国の雑誌「人民中国」2004年8月号掲載「人民中国」という中国の雑誌があります。日本語でも出版されており、北京では日本人がよく集まるホテルとか日本大使館の図書館とか日本料理店などに置かれ、在中国の日本人によく読まれていました。中国の歴史探訪、中国各地の名所案内、身近な社会問題など取り上げているので私は自分で年間購読していました。昔は党の宣伝臭い面も多かったのですが、最近はマエナス面の中国の姿も正直に書くようになりました。　　下の文は私が2004年北京理工大学勤務時代に人民中国に投稿し掲載されたものです。【放談ざっくばらん】父母がわたしに残したもの　　　　　　　　　　　　　　　北京理工大学日本語非常勤講師　田端　道子わたしは中国の河北省張家口で生まれた。張家口は北京の北西約200キロにある町だ。　わたしの父母は結婚して新天地を中国に求めた。大学を出た父は、「大学は出たけれど職はなし」の時代だったので、中国にあった日本の民間会社に就職したのである。　その地で父母は3人の子をもうけ、メイドもいる順調で幸せな生活を送っていた。私が生まれたのは1941年、太平洋戦争勃発の年である。　母は私に、「開戦の日にあなたを抱いて、『日本がんばれ！　あなたが男の子だったらお国のために戦争に行けたのにね。残念ね』と興奮して話すと、そばにいた中国人のボーイが、『奥さん、中国広い、日本負ける』とつぶやいたことが忘れられない」と話したことがある。その頃の母は、他国に生活しているという意識も薄く、中国人の悲しみまで深く考えることもない、のんきな若奥さんだったのだろう。　まもなく戦況が悪化して、すでに35歳になった父にまで現地召集の赤紙が来た。子煩悩だった父は7歳の兄、4歳の私、3歳の弟を一人ひとり抱いて頬ずりし、「駅へは見送りに来るな、子供たちをよろしく。すぐに日本に帰れ」といい残し、中国の東北に出征して行った。それが父の最後であった。　父の出征後、すぐに母は3人の子を連れて帰国した。そのころの戦況は惨憺たるもので、北からソ連軍が南下してきて日本の民間人がたくさん犠牲になったなかで、母は3人の子を連れて筆舌に尽くしがたい苦労の末、日本の土を踏んだのだった。　終戦の年、戦死通知の紙切れと小石のようなものの入った箱が届いた。父の戦死を信じなかった母は、数年の間は父の衣類や愛用品一切を売らずにその帰りを待ち続けた。夢の中で何度も軍靴の音を聞いて目を覚ましたという。父の生存を諦めてからは、「理不尽な運命に対する怒り」に似た気持ちが母の原動力となって3人の子を必死で育てあげた。　母は晩年何度か上京する機会があったが、靖国神社には一度も参拝することなく、「靖国神社なんかには行かないよ。わたしの家の仏壇にお父さんはいるのだから」とかたくなに言っていた。しかし、老一兵卒として徴兵され、東北で苦労して玉砕した父の遺骨はいまだに拾われていない。感じた度量の大きさ　72年に中国との国交が回復し、81年、日中両国の努力により中国残留孤児の親探しが初めて実現した。戦後36年目のことである。青い人民服を着て、テレビの前で「私のおかあさん、会いに来てください」と中国語で訴える残留孤児の姿は、戦争の悲惨さを日本中の人々に改めて実感させた。それを見て私の母は決まって涙し、よくぞここまで育ててくれた、ありがとう、ありがとう、と中国に向かって手を合わせ感謝した。一歩間違えば私たち兄弟だって残留孤児になっていたかもしれない。　わたしはこのことを考えるとき、いつも中国人の度量の大きさを感じる。もし、これが反対の立場だったら、敵国中国人の孤児たちを日本人は育てることができただろうか。一万人近くもの子どもたちを捨てざるを得ず、外国の戦地に置きざりにした国民は他国に類を見ない。いろいろ事情は違っただろうが、とにかく自分たちの衣食を削って育ててくれたのである。本来国民を守るべきはずの日本軍は、あの時いち早く南下撤退していたのであった。日本語教師になった理由　現在、私がこうして中国に滞在して日本語を教えている理由には、中国侵略に対する申し訳なさや中国人への感謝の思い、はたまた中国の大地に散った父への思いがある。それらは母の心を受け継いだ私の心にしっかりと刻まれている。　一方、夫の父は軍人だった。義母の新婚時代は、人もうらやむ軍人の妻であった。義父は音楽をこよなく愛する優しい人だったと聞く。パイロットとして活躍し、多くの特攻隊の若者の飛行技術の指導をした。教え子たちが次々に突撃して散っていくことを苦にして、教官たちで志願編成し、教え子たちの後を追ってレイテ島上空で壮絶な戦死をとげた。　戦友と妻への別れの言葉は「靖国で会おう」だったという。義母はそのとき27歳だった。いよいよ戦地に出発する前日、夫が一人で釣りをしていた後ろ姿が忘れられないという。　義母は、それ以来靖国神社に夫の魂があることを疑わず、お正月、桜のころ、お彼岸など、決まって孫たちを連れて参拝に出かけた。それは一度だけだったが、ある日参拝している義母の前に軍服姿の夫が現れたのだという。その時に聞こえたという夫の感謝の念は、義母にとって苦しい時代を生きる心の支えになったことだろう。　最晩年の頃の義母は、33歳のままの若い父の写真をみて、「こんな顔だったっけ、お父さんには悪いけど、もうすっかり忘れてしまったよ」と寂しそうに笑っていた。同じ過ちを繰り返さない今年春、学生と一緒に北京玉淵潭公園で花見日本から桜が何千本もの桜が寄贈され植えられました。　夫も私も、父たちがそこに眠っているとは思えないから、ほとんど靖国神社には参拝したことがない。夫は「自分に親父がいないのは悲しいけれど、親父はあの時、純粋な心のまま戦死してよかったのかもしれない。もし、生き残っていたら、純真な人だっただけに戦後の変化の中を生き抜くのは辛かっただろう」とよく話す。　実際、今でも高齢になられた戦友のかたから、生き残ったものの義務としての気持ちからか、手紙が届くときがある。この方たちの戦後も苦しく大変だっただろうと思う。ただ旧軍隊へのノスタルジアがあまりに強く、時には戦死を美化しすぎる傾向も伺えて私たちをとまどわせる。　現在、中国に住んでみると日本侵略の傷跡がいかに深いかを肌で感じる。日本軍の破壊の爪あとが残っている現場を今も見ることがある。　先日、北京西方の古刹・雲居寺に行き、唐代創建の美しい石塔を見た。この塔はもともと南北に二対あったものだが、北塔は日本軍の砲撃で破壊されたという。そのことを知って、いたたまれないような気持ちになった。一緒に行った中国人学生は、「戦争とはそういうものですから」となぐさめてくれたのだが、あの時代、日本軍と日本人は何故あれほどの狂気に走ってしまったのだろう。　日本語科の学生の中にはおじいさんが日本人に殺されたというものもいるし、かつて敵国の言葉であった日本語の専攻に反対された学生もいる。「普通の日本人は悪くありません。むしろ日本民衆も被害者です。一部の悪い日本軍がしたことですから」と判で押したように中国人は答えるが、一部の戦犯といわれる人々だけに全責任を負わせていいものなのか。わたしの父母たちを含めた国民全部にその責任が少しもなかったとはいえないと思う。　「戦争とはそういうものだ」といえばそれまでのことではあるが、だからこそ、二度と同じ過ちをくりかえしてはいけない。等しく納得する解決策　さて靖国神社のことであるが、戦死した軍人を国が手厚く慰霊するのはどの国でも当然の礼節である。しかし、問題はそのやりかたである。　また8月15日がやってくる。先日も首相の靖国神社参拝が問題になったし、毎年その日になると、議員たちがこぞって参拝し、そのことで国内外において論議が蒸し返され過熱する。政教分離の原則、戦犯合祀、それにともなうアジアの国々の不満と不安、日本兵として戦死した外国人兵士の問題など、多くの問題が浮上する。「日本古来の文化風習であり、参拝するのを外国人がとやかく言うのは内政干渉である」と単純に割り切ろうという議員も多い。　しかしこのことをただ日本人の文化風習や感情の帰結だけで収めようとするのでなく、アジアや世界中の人々が等しく納得する解決策というものは模索できないのだろうかと、わたしはわたしの経験を通じて思うのである。（2004年8月号より）　　北京の風　　

投稿文NO９　一言謝罪が欲しかった。

2010年　9月　東京新聞「ひろば」掲載「一言謝罪が欲しかった」東京新聞8月29日付「ひろば」の「勇気ある発言」読んで昭和天皇の葬儀はみぞれの降る寒い寒い日だった。葬儀の模様をテレビ中継で見ながら「ああ天皇はとうとう逝ってしまわれたか。ご苦労の多い人生でした。　でも、最後まで戦争への謝罪はなかったね。」と同じ思いの夫と顔を見合わせた。私個人としては　やっぱりその言葉が欲しかった。私と夫は戦争遺児で父の顔を知らず、父のない人生だった。夫のいない母たちの人生を哀れに愛しく思う。それは戦争になれば仕方ないとしてもやはり、日本国の長として開戦の決断し、国民を戦争へ向かって突進させたことへの謝罪がほしかった軍の暴走、日本を取り巻く世界事情、国民の気質、その他さまざまの要因があったとしても、天皇はその時の国の長だったのだから。約300万人のもの死者を出し、原爆を落とされ、日本及びアジアの国々も焦土と化した。戦後、天皇は「人間宣言」をされ、日本全国を長い年月かけてを見舞い励まされた。しかし、「頑張ってください」の言葉だけで「すまなかった」の雰囲気はなかったように思う。ともかく天皇は国の長として、白馬にまたがり国民を奮い立たせ、国民は「天皇の為に天皇の為に」を口に「天皇万歳」を叫んで戦い死んでいったのだから。天皇自身に謝罪したいというお気持ちがあったのか、なかったのかは一般国民にはわからない。とりまき陣の意志だったのかもしれない。　生まれながらに「朕」の世界に御育ちになり、天皇家の存続が何よりも大切な天皇であれば、一般の人間社会のルールとか普通の感情は通じないのかもかもしれない。また私のような意見に「なんと不遜な！「陳謝」などもってのほか」とう考えのひともも多いとは思う。しかし、戦犯と言われた方々の無念も理解できる。日本が民主主義の国になり、国民が主人公になって６５年、皇室の在り方についても、国民が物言える国になって行くことを願う。踏み込めぬ領域を作ってはならぬと自戒を込めて思う。（当時の掲載文に加筆しています）　ーーーーーー　　8月29日広場掲載「勇気ある発言」の内容ある元BC級戦犯が「昭和天皇に謝罪してほしかった」と述べたことは、勇気ある発言だと思う」という趣旨ーーーーーーー　追私のこんな記事でも「勇気ある発言」になるのかな。言ってはならないことなのかな。批判文がくるかな。現、現天皇ご夫妻の健気ともいえる　長年の戦場慰霊の旅には頭が下がる。昭和天皇の悲痛な懺悔の思いを暗黙に理解し、　引き継がれ、父上のかわりに実行なさっているように私には思える。それにしても、あのご高齢で公務を全うされる天皇ご夫妻を痛々しくさえ思う。昔の天皇は若い引退もあったし、女帝時代もあったのに、いつからこんな制度になったのだろう。これらも国民みんなで　考えていくいくべきではないだろうか。

投稿文NO8　クライスチャーチ大地震

投稿文2011年3月　　東京新聞朝刊「発言」に掲載「クライスチャーへのお見舞い」夜遅く、長男から沈んだ声で「クライストチャーチのこと」で電話がありました。クライストチャーチは１５年ほど前、長男がワーキングホリーでー住んでいた街です。教会が街の中心にあり、フラワーガーデンがあり美しく、地元の人たちは日本人に優しく、本当に素敵な街だったそうです。ホームステイ先の御夫妻にとてもよくしていただきました。ベランダで星を見上げながらホームステイのお父さんと人生を歴史を世界観を語りあったこともあったようです。長男の英語の上達はいまいちでしたが、そこで恋もし、友人たちと遠出もし、よく遊び、ひとときの青春を楽しんだようでした。クライストチャーチは彼の青春の思い出の地になったようです。遊び過ぎて、彼の英語はあまり上達しなかったので、私は「もったいないお金だった」とその頃は愚痴ったものでした。しかし、今になって思うと、人生には無駄はない、無駄と思えることが実は非常に大切なこともあると思えるようになりました。「その時しか出来ないこと」ってありますよね。長男は「義援金を送るつもり」といって電話を切りました。ほんの少しでも彼はクライストチャーチに恩返しができるわけです。今度の地震は本当にひとごとではりません。もしかしたら長男が行っていたころ地震が起きることもありえたのです。運命としか言いようがありません。行方不明の娘さんを案じた日本のお父様が「早く娘を抱きしめてやりたい」と言っておられましたが、私も涙がでました。亡くなられたかたのご冥福と、生存者への一刻も早い救援と、そして街の復興を祈るばかりです。素敵な青春のひとときを息子に与えてくださった「クライストチャーチ」に感謝をこめて・・・・・・・・・・・・その後の日本の三陸の大地震と津波、本当に運命はわかりませんね。改めて　亡くなられた方がたのご冥福をお祈りします。　

投稿文NO7・献体

朝日新聞　2010年3月23日　「声」に　掲載「献体を考える」私たち夫婦の母親は、どちらも戦争で夫を失った同じ境遇ということもあり、晩年まで同志のように友情を分かち合った。60代半ばに二人は話し合って献体を決め、ある大学病院に登録した。先に逝ったのは私の母だった。覚悟はしていたものの、そのまま荼毘に付したい思いが募り切なかった。２年後、大学病院から遺骨引渡しの慰霊祭の知らせがあった。「とても、心のこもった慰霊祭で、医学生からも丁寧な感謝の言葉があったよ。」と、遺骨を引き取りに行った弟は話してくれた。夫の母は私の母の様子を見ていたので自分の献体に対しても安心したようだった。そして１０年後に献体した。さて私も６０代の終わりに近づき、そろそろ献体の登録を考えていた。ところが９日の朝刊で「献体登録、20年で倍」という記事を見た。献体も狭き門になってしまったようだ。登録はもう少しゆっくり考えてみようと思った。width="364" height="259" alt="momoab.JPG" border="0">３月９日　朝日朝刊「献体登録、20年で倍」の主旨最近、大学病院に献体登録を望む人が急増しているという。20年前は　望む人の数が少なかったが　今は多すぎてお断りする場合も増えてきたらしい。理由としては家族関係が希薄になり、弔ってくれる家族がいなくなった老人が増えたこと。未婚者が増えたこと。経済的にお葬式を出せない人が増えたこと。ホームレスなどに身元不明者の行き倒れも多くなったなったこと。また、希望すればそのまま大学病院の慰霊塔に遺骨を納めてもらえるので、それを望む人が献体希望するらしい。

投稿文NO6・かすかな後悔

b>1996年５月　朝日新聞　千葉版　　読者のページ　　　「お母さん」記載「お母さん！お母さん！」とまた義母が私を呼ぶ。「何か用？　トイレ？」と走っていって声をかける。「何も用はないけれど、あんたの顔を見たかっただけ。あんたは私の『お母さん』だから。しばらくここにいてね」と義母は苦笑している。35キロにやせ、酸素ボンベをつけた義母。その細い手をさすりながら「何ニモ御用ハナイケレド、何ダカ呼ビタイお母サン」の童謡を歌ってやりながら、私も苦笑する。この母の若い頃、私と母はよくぶつかり合い、いろいろのことがあった。30年近く経った今も本当の母娘にはなれなかったけれど、充分理解し合える嫁姑にはなることが出来たと思う。そして今や、私は姑の「お母さん」になってしまたのだ。姑からよばれる「お母さん」というの声、それは私にとって快い響きでもあり、切なくもあり、また石のように重いものでもあった。その義母も昨年9月に亡くなってしまった。今、かすかな後悔が胸にうずく。義母のベットの脇での「お母さんごっこ」をもっと心を込めて、ゆっくりと何回もやってあげればよかったと。ごめんね。義母さん。道子のメインHPへ　　

投稿文NO4・遠きにありて

1997年　人吉第一中学校卒業40年記念誌　掲載文 *この原稿は私たちが中国へボランテア日本語教師として第二の人生を踏み出す直前のものです* ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・　遠きにありて故郷を離れてはや30年、その間何度人吉に里帰りしたことでしょう。乳飲み子を一人連れて、幼児を三人を連れて、小学生を連れ、また夫と二人だけでと・・その帰省ごとに同じ思いを繰り返しています。それは故郷を持つものの幸福感と同時に、故郷に親を置いてきたという「うしろめたさ」みたいな感情でしょうか。帰省の汽車が八代を過ぎると球磨川が美しい姿を現してくれます。左側に急流の水しぶきが見えたかと思うと、今度は右側に青くたゆたい、またその末には豊かなとうとうとした流れとなって流れ去ります。「やっと帰ってきたー」と熱い思いが込み上げてきます。あと一つトンネルを抜けると「母の待つ人吉」です。優しい球磨弁と人情、懐かしい町並みの風景はいつも私を包んでくれます。近所のおばちゃんが「帰ってきなはりましたかー。お母さんが待っとんなったですよー」と声をかけてくれます。故郷へ久しぶりにたどりついた幸せをしみじみ感じさせてくれます。そして数日を過ごし、人吉を離れる時は毎回、母娘は少し涙ぐみお互い気づかれないようにしています。そして車窓から見える球磨川はいつも涙で滲んで見えます。今別れてきたばかりの置いてきた母を愛しく思いだします。「今度はいつ帰ってやれるだろうか」大切なものを置き去りにしてきた「うしろめたさ」と帰省中の数日間でたっぷりもらった重い母の愛から抜け出したという解放感がいりまじった不思議な感情なのです。同じように人吉で頑張って、人吉の街を守り人吉の発展に尽くしてい幼馴染みたちにも「うしろめたさ」みたいなものを感じるのです。親のめんどうを見、家を守ってもらっている兄弟に対する「すまない」と感情に近いかもしれません。今回、人吉在住の皆さんのお世話で「人吉第一中卒40周年記念祭」が開かれますとの事、本当嬉しく思います。私たちは何一つお手伝いできなくて本当に申し訳ありません。ご盛会を心よりお祈りいたします。卒業してから40年も経ったとは夢のようですね。校門のプラタナス並木の葉陰や木造の古い校舎、個性豊かな先生方、卒業以来一度もお会いしていない学友たちの顔を、古いアルバムを夫と開いて懐かしんでおります。こんな時、同級生同士の夫婦である私たちは気持ちを共有でき誠に便利でもありますあの一中のグラウンドをブルマー姿で懸命に駆けた少女時代の無垢だった自分を、丸坊主の小年時代の夫の姿を懐かしく思い出したりしています。故郷を離れ都会に出たものたちも、それなりに大変でした。自分たちの力だけで、知らない土地に新しく根を張る為に、働きつづけ、子を育て、住む家を作り、懸命に走り続けた日々でもありました。私たちは晩年に東京へ年老いた二人の母を呼び寄せ、その責任も果たし、子どもたちもどうやら巣立ち、又もとの二人になり、自由な身になりました。まだしばらく続く人生、ここでちょっと仕切りなおし、方向転換をして第二の人生をさぐりあてようと動きはじめました。来月中国に二人で渡ります。中国は私の生まれた土地です。その頃北京は秋、遥か遠くより　人吉の会のご盛会を心よりお祈りいたします。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　1997年　夏　　記国宝青井阿蘇神社道子のメインページ

投稿文・NO3・母からの自立

昭和６０年１月４日朝日新聞「ひととき」掲載　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　故郷人吉私は兄弟はいるが、一人娘である。兄と弟は大学卒業後も東京暮らしなので、母娘二人だけの生活が長かった。私が夫との結婚を決めて上京することになった時「２０数年暮らした親より、やっぱりKさんの方がよいのか」と母は涙ぐんだ。すまないと思いながらも、自分の人生を切り開くため、九州熊本に母を残し、東京で所帯をもった。それから２０年近く母の一人暮らしは続くことになる。若い時の夫の給料は安く両方の親たちから、よく小包が届いて私たちの生活を潤おしてくれた。３年目の夏、２歳になった長女をつれて３週間ほど里帰りすることにした。夜行寝台者を利用しての里帰りは若い教員家庭にとっては大出費であった。そのころの教員の給料は本当に安かったのである。でも私は一人暮らしの母を慰め、孫と遊ばせてやりたかった。「おばあちゃん」というものは、とにかく「孫さえ見せればメロメロになる」と私の気持ちの中に「母に喜びを与えに帰ってやるのだ」という高慢さがあったことはいなめない。兄夫婦などいな母だけの実家は、娘時代と同じで気楽さであった。箪笥や押入れを勝手に開け、母が「いい」といえば　なんでも帰り支度のカバンに中に詰め込んだ。帰る日が近づき、帰りの切符を買う日になった。私は母が「ご苦労さん。孫を見せによく帰ってきてくれたね」と寝台切符は買ってくれるだろうと算段しそのお金は用意してこなかった。それにその頃の母は　商売もうまくいっており、私達の所帯よりずっとゆとりのあり生活をしていた。ところが母は言った。「もう所帯を持ったんだから、甘えるのもいいかげんにしなさい。里帰りするのなら、ちゃんと往切符を買ってくるのが当然でしょう。そして、実家にちゃんとした土産を下げて、新しい洋服をパリッと着てくる、ぐらいの気概を持ちなさい。もうここはあんたの家ではないのだよ」と。私はガンと頭から水をかけられる気持ちだった。私の結婚の時、あんなに涙ぐんだ母だったのに、母は明治生まれの「けじめ」を諭したのだった。私も勝気だから、「ハイ、わかりました」と答え、ひとまず母に頭を下げて切符代を借りた。帰郷すると次の日速達書留で母にお金を返した。母はそのことに驚いたようで「あんたも意地ものだ」と電話で言った。そのことが私の本当の意味の母からの自立であった。あのことがなかったら、真の意味での私達の結婚生活はなかった気がする。気丈だった母も、今年７３歳（当時）になった。・・・・・・・・後日談この文章は好評で読んだ知人から「あなたのお母さんは偉い、私も娘に厳しくします」と便りをもらったりした。ちなみに私の娘は結婚して１７年になるが、親の私にそうした小言を一度も言わせたことがない。今の娘は私の若い頃よりしっかりしていると思う。・・・・・・・・・道子のメインページ

投稿文・ＮＯ２・「旅たつ息子の耳かきは」

若い頃から、投稿を楽しんできました。掲載された文をまとめてみることにしますこの記事は　１９９４年　９月７日の朝日新聞　「ひととき」に掲載された記事です。二男19歳の旅たちは懐かしい我が家の出来事でした。・・・・パパの耳かき「旅たつ息子の耳かきは」　１９歳の次男がオーストラリアに旅立つことになった。働きながらの１年間の旅行だ。彼の成長を願って快く私たちは送り出すことにした。「旅の手引書」によると「耳かき」とある。オーストラリアでは売っていないらしい。いったい外国人はどんなもので耳掃除をするのだろうか。耳かきといえば、私の夫は耳掃除大好き人間である。３人の子が小さいころ、皆がテレビをみて団欒していると、夫はよく耳かきを持ち出して現れ「ちょっと　こっちにおいで」と子どもたちの耳を物色しだすのである。キャーキャーと逃げ回る子供たちを一人ずつつかまえ、膝枕をさせ強引に耳掃除を始める。そのうち子供たちも観念し、父親に身を任せる。「くすぐったーい」とか「痛い」と言う子に「すごい大きなのが出てきた、ホラ見てみろよ」と言いながら紙の上の収穫を見せ、耳かきは結構楽しいひとときであった。今思えば、あの頃が子育ての至福の時であったと思う。一人、また一人と巣立っていきあの賑やかな日々は遠いものになってしまった。この数年、夫と次男の間は男同士の照れがあって、正面からの会話はほとんどなくなってしまった。父親への頼みもほとんど私を通してである。旅たちの日までの準備や友人が送別会をしてくれたりして、家でも落ち着かず忙しい日が続きていきいよいよ出発の日を迎えた。「行ってきます」と玄関を出しな、息子が父親の顔を久しぶりにまともに見て言った。「あっ！出発前にもう一度お父さんに耳掃除をしてもらいたいと思っていたんだが、忘れちゃた。１年間耳はいじらないでお父さんのために耳垢はそのままにしておくから楽しみにしててね」これが精一杯の父親へのあいさつだったのだろう。「バカモノ！　耳掃除してくれる恋人ぐらい見つけて来い」と夫。かくして息子は照れた笑顔を残して　ひとり旅たって行った。・・・・・・・末っ子でママっ子だった次男の将来を心配したけれど、現在は遠くに巣立ちなんとか　なんとか頑張っているようで一安心している。

投稿掲載文ＮＯ１・ポプラ社「こどものつぶやき」

若い頃から、投稿を楽しんできました。掲載された文をまとめてみることにします。私達は一姫二太郎にめぐまれました。どの子も個性の強い子で、子育ては苦労しましたが楽しくもありました。上の言葉は次男青吾が４歳のころ言ったセリフです。父親が考え抜いてつけた名前でしたが彼は気にいらなかったようです。そのころ私は「母の友」」を購読していて、その「こどものつぶやき」という投稿覧に掲載されたものです。後にポプラ社から本になりました。