ただ、原曲を大切にするかと言って、キースは決してピーターソンやエディ・ヒギンズのようには弾かない。原曲をバラバラにし、キース流解釈をして、また織り上げる。結果として、元の曲を超える、キースのオリジナルなスタンダードにしてしまう。他のプロには、とても真似できないような…(写真左=今なお「進化」し続けるキース (c)universal music kk )。
メロディーラインを大切にするから、右手で単音でメロディーを弾くときは、ピアニッシモでも、とても一音、一音をいとおしむように、大切に、丁寧に弾く。だから、コンサートでもその単音の透明感が際立ち、ホールの奥までくっきりと聞こえる。しかもその単音は、決して点、点、点で切れるのではなく、しっかりと線になって連関している。
アルバム「TOKYO‘96」(写真右)に収録の「My Funny Valentine」や、DVD「Standards2」(写真左下)に収録の「Geogia On My Mind」を、機会があれば聴いてほしい。その単音(メロディーライン)の美しさに、僕は心がとろけそうになる。
オリジナル曲でも、メロディーラインの美しさは際立つ。初期の名アルバム「Life Between The Exit Signs」(1967=写真右下)には、「Margot」というアップテンポのオリジナル曲が入っているが、これがまたとても美しい。後期だと、アルバム「Standards2」(83年)には、「So Tender」というオリジナルが1曲入っているが、これも惚れ惚れするくらい綺麗なメロディー。そんな美の探求は即興演奏でも同じ。きっと指が自然と「美しさ」を追い求めるのだろう。
キースのもう一つの素晴らしさは、いろんなジャンルの音楽のいいところを、自分の曲にどん欲かつ巧みに取り込んでしまうこと。「Standards1」の中の「God Bless The Child」なんて、原曲のメロディーは残しているが、雰囲気はまるでROCKだ。
1998年のソロ・ピアノのアルバム「Melody At Night, With You」には、クラシックやゴスペル、トラディショナル・フォークなどいろんな音楽の要素が詰まっていて、とても面白い。発売直後、あるクラシックのピアノの先生にCDをプレゼントしたら、聴いて凄く感激していたのを今も思い出す。
エバンスのコピーは何とかできても、キースのコピーは僕には至難の業。でもキースが好きだから、僕でも弾けそうな曲に挑んでいる。今、練習中なのはいずれも「Standards2」に入っている「In Love In Vain」と「So Tender」。キースのように弾くのはもちろん無理だが、キースをそっくり真似ても面白くない。最近は、僕流にアレンジを変えてやるのも、いいかなと思っている。