4978719 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2005/06/25
XML
カテゴリ:アート&ブックス
 腹痛でダウンした直後の再開第1回で、酒や食いもんの話題を書いたら、笑われそうなので、違うテーマからスタート。

 ロックが好きだったこともあって、10代の頃から、「ニューミュージック・マガジン」という月刊誌を愛読していた。Paul Simon by Nobuhiko Yabuki洋楽の、まとなレコード評(当時はCDはなかった)が載っている当時、唯一の雑誌だった(写真左=ポール・サイモンが表紙を飾った「ニューミュージック・マガジン」74年3月号とその表紙原画)。

 僕は、本の中身ももちろんだが、有名な洋楽アーティストを描いた絵の表紙にも、すごく惹かれた。ほのぼのとして、味わいがあって、どこか懐かしい感じのする絵。作者の名は、矢吹申彦(やぶき・のぶひこ)とあった。

 彼は、1969年からその後約7年に渡って、その表紙を描き続けるのだが、70年代に入ると、故・伊丹十三氏のエッセイ「女たちよ」の表紙や伊勢丹デパートのポスター、ユーミンのLP「流線型'80」のジャケット(写真左下)など、メジャーな仕事を次々と手がけるようになる。
流線形'80
 実は、僕が小学生の時、将来なりたいと夢見ていた職業は、(笑われるかもしれないが)「漫画家」だった。ケント紙に、烏口(からすぐち)でコマ割りして、Gペンや丸ペンにプロ用の黒インク(パイロットの「製図用」)を使って、あれこれとストーリー漫画を描いていた。矢吹申彦風景図鑑

 当時の憧れは、もちろん手塚治虫であり、石森章太郎(当時は、まだ「石ノ森」ではなかった)や横山光輝も大好きだった(写真右=矢吹申彦の全貌を知るには一番の本「矢吹申彦風景図鑑」=美術出版社刊。残念ながら現在絶版中。再版してほしいなぁ…)。

 しかし、いろんな同好の友の作品と比べて、自分のストーリー・テラーとしての才能のなさにある時気づき、僕はその夢を捨てた。絵が描けるだけでは漫画家にはなれない--そのことをつくづく感じた。でも、漫画家の夢は捨てても、絵を描くことはやめなかった。パステルや水彩、油絵などを、折りにふれて描き続けた。はっぴいえんど:CITY

 矢吹さんの描く絵はどれも、油絵ぽかった。しかし、僕の常識では油絵は完全に絵が乾くまで、1週間以上もかかる。どのようにして沢山の仕事を次々とさばいているんだろうかと、不思議でならなかった。そんな疑問を一度、本人にぶつけてみたいとずっと思っていた(写真右=はっぴいえんどのベスト・アルバム「City」のジャケット・デザインも)。

 大学2年の初春、僕は志賀高原にスキーへ行った帰り、友人と別れて1人で東京へ向かった。直前、ある雑誌で、矢吹さんの個展が、東京・飯倉片町近くの「青」というギャラリーで開かれるというニュースを見つけたから。最終日の前日だったが、ひょっとしたら、会場で本人に会えるかもしれないという淡い期待を込めて…。

 ギャラリーでは、矢吹さんがニューミュージック・マガジンで描いた、表紙の原画が数多く展示されていた。CS&N(クロスビー、スティルス&ナッシュ)、ボブ・ディラン、レオン・ラッセル、ジェームス・テイラー等々、僕は絵の前で釘付けになり、絵に鼻が付くくらい近づいて、一枚一枚熱心に見つめた。キャンバスに描いてあるのもあり、板に直接描いたりしているのもあるが、絵の具は?だ。古き時計 inspired by Yaso Saijo

 突然、画廊の主人が僕に興味を持ったのか、話しかけてきた。僕は「大阪から来ました。矢吹さんの絵が大好きで…」と応えた。すると、主人は「本人が今いますよ。紹介しましょう」と言ってくれた。何という幸運!(写真左=童謡や詩をモチーフにした作品も得意。絵はそこから発展して「矢吹ワールド」を創り出す)。

 初めて会った矢吹さんは、口数は少ないおとなしそうな印象だったが、とても気さくに僕を歓迎してくれた。歳は僕より10歳ほど上だったが、歳以上の落ち着きを感じさせる方だった。

 早速、絵の具のことを尋ねる僕。「リキテックスっていうアクリル絵の具なんです。乾くまで2、3日あれば十分ですよ」と矢吹さん。疑問は、簡単に氷解した(リキテックスはいまでこそポピュラーな画材だが、当時はまだ珍しかった)。

 絵は展示即売されていた。僕には欲しい絵がいくつかあった。大好きなCS&Nの絵には残念ながら、もう「売約済みの印」が。2番目に好きだった「ポール・サイモン」の絵(冒頭の写真)には、まだ「印」はなかった。Mozart by Nov.Yabuki「サイモン」の絵は、確か5万円前後の値だった(当時の5万円だから、大学生にはとても大金だった)。だが僕は、帰りの新幹線の切符以外には、1万円くらいしか持ち合わせがなかった。

 画廊の主人に、「きょうは1万円で、残りは現金書留でお送りしてもいいですか?」と聞くと、主人が答える前に、矢吹さんが「いいよ、いいよ。残金は後で」と言ってくれた(写真右=モーツアルトをテーマした版画。僕の大好きな1枚で、我が家の玄関を飾っている)。

 しかも、「できればこのまま絵も一緒に持って帰りたいんですが…」という僕のあつかましい申し出にも「いいよ、いいよ」とにこやかに応じてくれ、キャンバスの裏側にサインをしてくれた。見知らぬ、初対面の僕が「1万円だけ支払って絵を持ち逃げする詐欺師」だっていう可能性もあるのに、そんな大学生の若造を信頼してくれたことが、心底うれしかった。

 以来、ウン十年。その「ポール・サイモン」の絵は、引っ越しをしても、常に我が家のリビングの「一等地」の壁に飾られ、僕ら家族を見守り続けている。矢吹さんとは、その後毎年、年賀状もやりとりするような仲になった。僕が結婚した年には、なんと世田谷の自宅にまで、僕ら夫婦を招いてくれて、奥様のテコさんともども歓待してくださった。

 一番最近お会いしたのは、ちょうど4年前の2001年6月、銀座の個展のオープニング・パーティーで(写真左=久しぶりのツーショット)。奥さんのテコさんとも本当に久しぶりだったが、「あー、**さ~ん、わざわざ来てくれてありがとー」と歓迎してくださった。

 このパーティーには、矢吹さんの交遊の広さを反映してか、和田誠・平野レミ夫妻、戸田菜穂さん、あがた森魚さん、鈴木慶一さんらの顔も見え、元ムーン・ライダースの鈴木さんは、会場で自らギターで弾き語りも披露してくれた。

 遠い昔に出会った地方の一介の少年ファン(?)のことを、何十年経っても大事にしてくれる、そんな温かい人柄が大好きで、僕は矢吹申彦ファンで在り続けた。いや、これからも終生、矢吹ファンで在り続けるだろう。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2022/11/23 12:39:55 PM
コメント(12) | コメントを書く


PR

Profile

うらんかんろ

うらんかんろ

Comments

汪(ワン)@ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

Free Space

▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。

▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

神戸の残り香 [ 成田一徹 ]
価格:1980円(税込、送料無料) (2021/5/29時点)


▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。

▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。

Archives

Freepage List

Favorite Blog

「続^3・ほうとう」 はなだんなさん

LADY BIRD の こんな… Lady Birdさん
きのこ徒然日誌  … aracashiさん
きんちゃんの部屋へ… きんちゃん1690さん
猫じゃらしの猫まんま 武則天さん
久里風のホームページ 久里風さん
閑話休題 ~今日を… 汪(ワン)さん
BARで描く絵日記 パブデ・ピカソさん
ブログ版 南堀江法… やまうち27さん
イタリアワインと音… yoda3さん

© Rakuten Group, Inc.