前回、前々回に引き続き、連載(「禁酒法時代の米国」) で参考文献として利用した洋書のカクテルブック等についてご紹介いたします(Amazonの価格はあくまで参考価格です。とくに古書価格は買うタイミングでかなり幅がありますので、ご了承ください)。
6. Imbibe! (David Wondrich著、2007年刊)=Amazon等で入手可能(参考価格(円):1900円~)
著者のデヴィッド・ワンドリッチ(David Wondrich)は、カクテル・ライターで歴史学者、そして「アメリカン・カクテル・ミュージアム」の共同設立者という方です。この「Imbibe!」は、米国で「カクテルの父」とも称されるジェリー・トーマス(Jerry Thomas 1830~1885)への「オマージュ(敬意)」として出版されました。
本では、トーマスが1862年の米国初のカクテルブックで紹介した約200種類余のカクテルのうち、54種類(パンチ、サワー、フィズ、トディ、スリング等々)と、ほぼ同時代(19世紀後半から1910年頃までの間)に生まれた36のカクテル、計90種類について、もし現代で入手可能な材料でどうすれば当時のオリジナルなカクテルに近づけるかという観点から、さまざまな文献も参考にしながら、ワンドリッチなりの解釈で「決定版レシピ」を提案してくれています。
トーマスのカクテルは、現在でも存在するシンプルな材料でつくられているものが多いのですが、同じジンやラム、シャンパン、キュラソーであっても19世紀後半のものと現在のものとでは味わいがかなり違います。また当然現在では入手・利用が難しい銘柄もあります。
ワンドリッチは「そもそもトーマスは、例えばジン一つとっても、カクテルブックでは何の銘柄を使っているのかまったく触れていない。だから、前後関係で推測するしかない」として、最もふさわしい材料、あるいは代替できる材料でレシピを提案しています(彼自身はバーテンダーではありませんが、カクテルづくりの腕前もかなりのものだということです)。
ワンドリッチはこの本の前半で、これまでともすれば謎につつまれ、やや誇張されてきたトーマスの生涯について、初めて紹介するエピソードも交えて、その実像に迫っています。例えば37歳の時に5歳年下の子連れの未亡人と結婚し、その後2人の子どもをもうけるなど意外と家庭的な人間であったとか、破産した年、記者が訪ねていくと、彼は飼っていたペットの白いネズミを自分の肩にはべらせていたとか、亡くなる直前まで再びロンドンに行ってバーを開業する夢を語っていたとか。
結果として、私たちはトーマスの波乱に満ちた生涯だけでなく、クラシック・カクテルがどのように発展してきたかも含めて数多くのことが学べます。カクテルを愛する人、そしてカクテルの裏側に秘められた歴史に興味を持たれる方々にとっては、「必読」の読み物と言っていいでしょう(とは言え、本文の英文のレベルはかなり手強いので、辞書が手放せませんし、読むのははっきり言って結構疲れます)。
本の巻末では、“プロフェッサー(教授)”とまで呼ばれた奇才・トーマスへのトリビュートとして、ニューヨークのバーテンダーの大御所、デイル・デグロフ(Dale DeGroff、名著「The Craft Of The Cocktails」の著者、この本の序文も執筆)ら現代の最高のバーテンダー(ミクソロジスト)たちが、彼が生きた19世紀後半の黄金時代を思い起こさせるような、16種類の素晴らしい創作カクテルも紹介してくれています(そのうちの1つを著者のワンドリッチがつくっているのは、ご愛嬌でしょうが…)。
タイトルの「Imbibe!」は「飲め、吸収せよ、(思想などを)受け入れよ」という意。この本はトーマスへの「オマージュ」という意味だけでなく、バー業界のプロの方や一般の方に、「もっとトーマスのことを知ってほしい」という著者の願いが込められているのかもしれません。
7. Classic Cocktails: A Modern Shake (Mark Kingwell著、2007年刊)=Amazon等で入手可能(古書での参考価格(円):800円~)
アマゾンの洋書部門でクラシック・カクテルに関する文献は何かないかなぁと探しているとき見つけて、題名にひかれて購入した本ですが、はっきり言ってこれは期待はずれでした。
約230頁もある結構ぶ厚いハードカバーの本なのに、取り上げられているカクテルはわずか30種類ほど。しかも、内容は文章とわずかのイラストばかりで、写真は、いまどきのカクテル関連図書にしては珍しく一枚もありません。
カクテル誕生にまつわるストーリーについてあれこれ記されていますが、それ以上でもそれ以下でもありません(はっきり言ってやや退屈です)。英語の読解力がある程度あって、英文を読むのがそう苦にならない人向きです。
ちなみに、取り上げられているカクテルは、有名どころではギムレット、ウイスキー・サワー、キール・ロワイヤル、トム・コリンズ、マンハッタン、ネグローニ、ギブソン、シャンペン・カクテル、ハーベイ・ウォールバンガー、ジャック・ローズくらいで、残りはマイナーなカクテルです(果たしてこの内容で売れる本なのか少々疑問です)。
という訳で、この本は一応、連載で参考にはしたので紹介しておきますという程度で、とくに興味のある方以外は、無理に買うのはおすすめいたしません。
8. Cafe Royal Cocktail Book (W.J.Tarling著、1937年刊、復刻版2008年刊)=Amazon等で入手可能(参考価格(円):1600~1700円)
原著は、サヴォイ・カクテルブック(1930年刊)の7年後に発売されたものです。この本が出版された1937年と言えば、二つの世界大戦の間。欧米の人たちがつかの間の平和を味わっていた頃でした。
著者のTarlingという方はロンドンの「Cafe Royal Club」のチーフ・バーテンダーで、英国バーテンダー組合のトップまでつとめたという実力者ですが、詳しい経歴は未調査なのでよくわかりません。
約700種類のカクテルが紹介されていますが、当然ながらサヴォイ・カクテルブックの内容と重複するものもあります。掲載の半数は出版時にすでにスタンダードとして定着していたカクテルで、残る半数は当時の気鋭のバーテンダーたちのオリジナルです。
サヴォイホテルのハリー・クラドックも、1937年当時ではまだ現役バリバリのバーテンダーとして、この本でもオリジナルが紹介されているのが面白いです。この本は、1930年代前半の欧州で、どういうカクテルが定着していて人気があったのかが分かる一級資料です。巻末に、今ではあまり見られないスピリッツやマイナーなリキュール類について解説が付いているのも有り難いです。プロの方なら持っていて絶対損のない本だと思います。
<4>へ続く
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Last updated
2021/07/06 11:02:46 AM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。 ▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。