ブログでの連載(「禁酒法時代の米国」)で、参考文献として利用した洋書のカクテルブック等を紹介するシリーズも、今回が最終回です。最後は、カクテルブックの「基本のキ」みたいな本ばかりで申し訳ないのですが、ご容赦ください(Amazonの価格はあくまで参考価格です。とくに古書価格は買うタイミングでかなり幅がありますので、ご了承ください)。
9. The Savoy Cocktail Book(Harry Craddock著、1930年刊、日本語版2002年刊)=Amazon等で入手可能(参考価格(円):洋書1400円~ オリジナル表紙の洋書<古書>は4500円~、初版本はオークションで50000円は下らない価格が付いています。日本語版は税込み2940円)=左の写真は洋書のオリジナル版の表紙です。
今さら改めて説明するまでもありませんが、世界中のバーテンダーの、おそらく8割は持っているバイブル(または教科書)のようなカクテルブックです。
著者のハリー・クラドックは、1875年英イングランド生まれ。22歳で米国へ渡りニューヨークなどでバーテンダーとして活躍していました。しかし禁酒法施行に伴い米国に見切りを付け、1920年、英国へ帰ってサヴォイ・ホテルで職を得ます。
そして1925年には同ホテルのチーフ・バーテンダーとなり、そのさらに5年後、この歴史的な名著を出版するのです。約800種類のカクテルが紹介されており、1920年代のスタンダード・カクテルがわかる基礎資料と言ってもよい本です(ただし、現在では使われていない材料も多く、今では再現が難しいものもあります)。
いずれにしても、どんなスタンダード・カクテルをつくる場合でも、現在でも、まずこのサヴォイのレシピが「出発点」になっていることは間違いないでしょう。レトロな挿し絵も楽しく、ぱらぱらとページをめくっているだけでも、時々思わぬ発見があります。クラドックの偉大さを改めて感じるところです。
10. Harry's ABC Of Mixing Cocktails(Harry MacElhone著、1919年刊、1986年復刊)=Amazon等で入手可能(参考価格(円):700円~)
ハリー・マッケルホーン(1890~1958)はご承知のように、世界で一番有名な街場のバー、パリの「ハリーズ・ニューヨーク・バー」の創業者。このカクテルブックは、サヴォイの本と同じくらい有名で、プロのバーテンダーのマスト・アイテムです。
実物は意外とシンプルなポケット判サイズ。中身はほとんど文字情報だけという愛想のない装丁です。約370種類のカクテルが収録されていて、1986年の復刊本にはマッケルホーンの簡単な伝記も付いています(加えて、ハリーの息子アンドリュー、孫のダンカンのオリジナル・カクテルも収録されています)。
ただし、現在市販されている本(1986年の復刊版がベース)は、おそらく1939年の改訂版がベースになっていることに加えて、86年の復刊時に80年代までに生まれた比較的新しいカクテルが追加されているので、初版時(1919年)に載っていたカクテルがどれかが分からないのが、個人的には大いに不満です。
サヴォイ・カクテルブックの初版本は今でも古書市場やオークションで時々出てくるのに対して、このマッケルホーンの初版本が出品されることは、販売部数が少なかったためなのか、滅多にありません(あってもめちゃ高いのです)。
コレクターではない私としては、せめてコピーでいいので初版本の中身を知りたいと思っていましたが、幸いその後、友人のバーテンダーが入手した初版本の第2版(中身はほぼ同じ)を見せてもらうことが出来ました(内容を詳しく調査研究した連載を、その後このBlogで掲載<2013年6月~2015年9月>していますので、ぜひお読みください)。
11. How To Mix Drinks or Bon Vivant's Companion(Jerry Thomas著、1862年初版刊、1876年、1887年改訂版刊、 復刻版1995年刊)=Amazon等で入手可能(参考価格(円):1200円~)
原著は、1862年に出版された米国初の本格的なカクテルブックで、復刻版(おそらくは1887年の改訂版がベース)も初版をかなり忠実に再現しているので助かります。ただし、収録されている約300のMixed Drinkは、パンチやサワー、デイジーなどという古典的なカクテルばかりで、現代のバーでもよく飲まれているカクテルは2割程度くらいしかありません。
著者のジェリー・トーマス(1830~1885)については、前回の「Imbibe!」でも紹介したので詳しくは省略しますが、「カクテルの父」とも呼ばれる伝説的な人です。マティーニの原型とも言える「マルチネス・カクテル」を考案した人とも言われています。
レシピなどは現代ではちょっと受け入れられにくいようなものが多く、実用本としてはあまり役に立ちませんが、1862年までの時点でどのようなカクテルが認知されていたのかが分かる貴重な一次資料と言えます。
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Last updated
2022/04/19 08:42:12 AM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。
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