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Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2013/07/03
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カテゴリ:アート&ブックス
 ローレンス・バーグリーン(Laurence Bergreen)という米国の伝記作家が 1994年に著した「カポネ 人と時代(原題は、 Capone : The Man and The Era)」という伝記を、集英社が99年に刊行した翻訳版(常盤新平訳)で読みました。

 著者が情報公開法によって発掘した当時の公文書や資料で明らかにした知られざるアル・カポネの姿を描いた第一級のノンフィクションです(ニューヨーク編、シカゴ編2冊合わせて、計約800頁にもなる超大作ですが、私が読んだのは後編にあたるシカゴ編です。
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 アル(アルフォンス)・カポネ(1899~1947)は、ご承知の通り禁酒法時代(1920~33)のシカゴで暗黒街のボスとして君臨した人物です。映画「アンタッチャブル」ではロバート・デ・ニーロが演じていたので、ご覧になった方も多いかと思います。

 私は先般、本ブログ上で「禁酒法下の米国――酒と酒場と庶民のストーリー」という連載をして、その際カポネの生涯についてももちろん、できる範囲でかなり調べました。

 連載では、カポネが暗黒街のボスに上り詰めたときはまだわずか30歳の若さだったことや、カポネを追い詰めた連邦捜査官のエリオット・ネスは若干25歳だったこと、それに、脱税で逮捕され服役した後は、梅毒に病んでいたため晩年は寂しく亡くなったことなどを記しました。

 しかし、このバーグリーンの伝記を読むと、これまで私が知らなかったカポネの素顔や驚くべき事実が数多くありました。結果として、カポネという人物がくっきりと浮き彫りとなり、より実像(真実)に近付けたような気がしました。例えば、以下のような――。

・抗争相手への報復事件として有名な聖バレンタインデーの虐殺の真相(本当に殺したい相手は到着が遅れたために仕損じてしまったこと)
・カポネは実際には殺人にはあまり関わらず、時には、遠くフロリダの別荘からひそかに指示を送っていたことが多かった(この時代、シカゴとフロリダの移動は原則鉄道です。結構距離があり時間はかかったはずなのに、カポネが頻繁に行き来していたことにも驚きます)

・直接殺人の実行には関わらなかったカポネが、唯一(?)「裏切り者」の仲間を自ら殺害した(映画「アンタッチャブル」にも登場する有名な)バットでの撲殺シーン。映画では、殺された仲間は1人だけでしたが実際は3人。カポネは3人を椅子の縛り付け、次々とバットで死に至る直前まで殴りつけます。その後、部下が銃を乱射して撃ち殺しました。指や腕が吹き飛ばされた遺体はハイウェイに乗り捨てられた車のトランクに放置されました。
・カポネ組織の電話はかなり盗聴されていて、検察当局は、脱税の証拠や手がかりを盗聴を通じてかなり集めていたこと

・逮捕してもなかなか口を割らないカポネ組織の会計士を、捜査当局はゲジゲジやゴキブリだらけの独房に閉じ込めて、ついには「捜査に協力する」と言わせたこと
・有名な連邦捜査官エリオット・ネスは密造酒の摘発では多大な功績を上げたが、脱税でカポネ起訴をできたのは、検察と国税当局の担当者の努力が大きかったこと(晩年、ネスがアルコールで身を持ち崩したのは皮肉です)

・警察・検察当局だけなく、新聞記者にもカポネに買収されていた人間がいたこと(その記者も二重スパイまがいのことをやって結局は殺されてしまいます)
・脱税裁判でカポネを追い詰めていく検察側の手法(ショップの店員などを次々と喚問し、カポネが買った高級下着の領収書等から収入を算定して積み上げていく執念)

・神経梅毒や淋病におかされていたカポネの病状は、シカゴの暗黒街のトップに上り詰めていくにつれて、年々悪化します。脱税で懲役11年の判決を受け、収監された数年後には完全治癒が望めないほど酷い病状になっていたこと
・当初収監された刑務所では、刑務官らを買収して“特別待遇”を受けて、刑務所の中から電話で組織に指示を送っていたが、後に移送されたアトランタやアルカトラス島の刑務所では一般の囚人扱いで過酷な日々を送ったこと(別の囚人から殺されかけたこともあったという)

・妻のメエは21歳で19歳のアルと結婚したが、愛人を何人も持った夫に対しても、彼女は最後まで献身的で、アルが梅毒が悪化し廃人のようになって死ぬまで寄り添ったこと(メエは、アルの没後約40年も生きて、亡くなったのは1986年。結構長寿でした)。
・脱税で10年近く服役したカポネが病状悪化で仮釈放された後もずっと、シカゴの暗黒街の“互助組織(シカゴ・アウトフィット)”は、妻のメエやファミリーに経済的な支援を続けたこと(イタリア・マフィアの血の結束の強さには驚くばかり)
・本には晩年、釈放された後、フロリダの別荘で過ごすアルの写真も掲載されていますが、一見すると結構元気そうで、梅毒による体調悪化と見えないのが不思議でした

  ********************************

 カポネの兄弟や子どもたちは、カポネ亡き後も「カポネ=極悪」というイメージが消えず、兄のラルフもアルと同様、脱税を追及され、死ぬまで払っても払えないような追徴金を課せられます。その他の親族も生きていくのに苦しみました。名字を変えてひっそりと暮らしたり、カポネ・ファミリーだと中傷されて自殺した親族も少なくありません。息子のソニーも、大学で周囲の白い目を避けるために名字まで変えましたが、結局はばれて大学を中退せざるを得ませんでした。

 カポネが司法当局の目の仇(かたき)にされた背景について、著者は、「当時はイタリア系とユダヤ系は目の仇(かたき)にされる世相だった。カポネ以外にも悪人はいたが、カポネは結局、イタリア系だったことで、アングロサクソンが主流を占めていたワシントンの政治家や検察当局、国税当局から一番の標的にされたのだ」と推察しています。禁酒法施行自体も、酒造業界を支配していたドイツ系の人たちへの反発があったことは、多くの歴史家が認めるところです。

 アルフォンス・カポネは、確かに犯罪者であり、シカゴの犯罪組織のトップにまで上り詰めた人間です。今でも「極悪非道の犯罪者」というイメージが定着していますが、晩年の姿を知ると、私は少し同情を禁じ得ません。

 カポネ自身は当時、「オレは市民がほしがるもの(アルコール)を提供しているだけだ」と言っていました。もちろん、当時の法律では非合法なやり方でしたが、現代社会でのルールでは、「あくどいビジネス」と非難される程度でしょう(もちろん、ビジネス拡大の過程で対立する組織の人間を粛清した行為は、もちろん現代でも明らかな凶悪犯罪ですが)。私は、カポネはある意味、禁酒法と言う時代が生み出した「必要悪のようなモンスター」だったのかもしれないと思っています。

 最後に、ブログでの連載の最終章で私が書いた一文をあえて、もう一度再録して、この稿を終えたいと思います。

 米国史上、「高貴な実験」と称された禁酒法は結果として、様々な矛盾や犠牲を生んで、失敗に終わりました。禁酒法が我々に残した教訓は、「酒に対する人間の基本的欲求を、宗教的・道徳的な規範で縛ることなど決してできない」「酒への欲求を法で縛れば、その抜け穴を狙った犯罪が増えるだけ」ということでしょう。

 第一次大戦での国家的危機感がゆえに、宗教的・道徳的規範が人間本来の欲求に優先すると信じた当時の米国の政治・宗教指導者たちは、今思えば愚かな人たちに見えます。国家が合法的に大衆を抑圧するのは、有権者の一時的な熱狂・妄信を後ろ盾にすればそう難しくないのです。それは、あのヒトラーが証明しています。

 ワン・フレーズのスローガンに煽られて、大衆がみんな同じ方向へ一斉に走り出してしまう社会ほど怖いものはありません。かつてナチス政権登場時のドイツや、(絶対天皇制下の軍部に主導されたとは言え)太平洋戦争に突き進んだ日本を思えば、私たちは、あの時代の米国の指導者や米国人をどれほど笑えるでしょうか。


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Last updated  2022/05/28 10:34:15 AM
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うらんかんろ

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