1930年以前に生まれたクラシック・カクテルでウオッカを使うものは極めて少ないのですが、この「ヨコハマ」はその数少ない例の一つです。現時点で確認した限りでは、「ヨコハマ」カクテルを初めて活字で紹介したのは、ハリー・マッケルホーン(Harry MacElhone)のカクテルブック「Harry's ABC of Mixing Cocktails」(1919年刊)です。とは言え、マッケルホーンのオリジナルではなく、欧米では少なくとも1910年代にバーの現場に登場していたと考えられています(オリジナルの場合は、マッケルホーンはその旨を記していました)。
誕生の由来や考案者等は不明ですが、横浜の外国人向けホテルのBarや社交クラブ、あるいは横浜港に寄港した外国客船内(日本~欧州間の客船での定期航路は1890年代から本格的な運航が始まりました)のBarで生まれ。欧米へ伝わったという説が一般的です。「Cocktail 101」という英語のカクテル専門サイトは「Yokohama Grand Hotel、もしくは(当時外国人居留地にあった)The United ClubやThe Columbia Clubという外国人向け社交クラブで誕生したのではないか」と記していますが、根拠資料は示していません(http://cocktail101.org/2011/09/16/27-yokohama-cocktail/)。
・「World Drinks and How To Mix Them」(ウィリアム・T・ブースビー著、1934年刊)米 ジン3分の1jigger、ウオッカ1spoon、オレンジジュース1spoon、グレナディン・シロップ1spoon、アブサン1dash(シェイク)
・「The Official Mixer's Manual」(パトリック・ギャヴィン・ダフィー著、1934年刊)米 ジン3分の1、ウオッカ6分の1、オレンジ・ジュース3分の1、グレナディン・シロップ6分の1、ペルノー1dash(シェイク・スタイル)
そして、「The Artistry Of Mixing Drinks」(フランク・マイアー著 1934年刊 仏)、「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」(A.S.クロケット著 1935年刊 米)、「Mr Boston Bartender’s Guide」(1935年刊 米)、「Café Royal Cocktail Book」(W.J.ターリング著 1937年刊 英)、「Trader Vic’s Book of Food and Drink」(ビクター・バージェロン著 1946年刊 米)、「Esquire Drink Book」(フレデリック・バーミンガム編 1956年刊 米)のような1930~50年代に出版された、そこそこ有名なカクテルブックにはなぜか収録されていません。
「ヨコハマ」のレシピにはバリエーションがあまり見受けられませんが、唯一、「Complete World Bartender Guide」(ボブ・セネット編、2009年刊 米)が、次のような“変化球レシピ”を紹介しています。「ジン4分の3onz(約23ml)、ウオッカ、オレンジ・ジュース、グレナディン・シロップ各2分の1onz(15ml)、ペルノー1dash(シェイク・スタイル)」。