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Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2018/12/31
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 94. 雪 国 (Yukiguni)

【現代の標準的なレシピ】
(液量単位はml)ウオッカ(40)、ホワイト・キュラソー(20)、ライム・ジュース(10) ※カクテルグラスの縁を砂糖でスノー・スタイルにした後、あらかじめミント・チェリーをグラスの底に置く(なお、1958年の考案当時は、日本国内では生ライム、生ライム・ジュースは出回っておらず、ライム・コーディアルジュースを使用していた)。 【スタイル】シェイク

 1958年(昭和33年)、山形県酒田市のバー・ケルンのオーナー・バーテンダー、井山計一氏が、川端康成の小説「雪国」をイメージして考案、第1回寿屋カクテルコンクール(1959)で最優秀賞に輝きました(初めて発表されたのは、前年1958年に開催された寿屋コンクールの東北大会でした)。

 日本生まれのカクテルとしては、世界的には「バンブー」が最も有名ですが、残念ながら考案したのは明治期に米国から来日した外国人です。「雪国」は、その後も多くのカクテルブックや全国各地のバーテンダーに紹介され続け、日本人の考案したスタンダード・カクテルとしては、現在、最も有名な存在でしょう(今では海外のバーテンダーでも知っている人が少なくありません)。

 井山氏は92歳の今(2018年)もなお、現役バーテンダーとしてカウンターに立ち続けていて、バー業界のレジェンドです(末尾の【追記】ご参照)。今年は、井山氏の歩んできた人生とカクテル「雪国」誕生秘話を描いたドキュメンタリー映画「YUKIGUNI」が完成、地元・山形で先行上映されました。2019年以降、首都圏(1月から)や関西でも公開される予定です。

 「雪国」はバーテンダー修業をしていた井山氏が、コンクール出場のために、身近にあったウオッカ、ホワイト・キュラソー、ライム・コーディアルという材料で急きょ考えたと言います。当初は、ミント・チェリーなしで考えていたそうですが、何かアクセントがほしいなぁと思っていたところ、仙台にいたバーテンダーの友人とのアドバイスもあって、当時、店に回ってきた営業マンから購入した珍しいミント・チェリーを沈めることを思いついたそうです。

 当時としては、とても斬新だった「スノー・スタイル」(塩や砂糖をグラスの縁に付けること)という見た目のひと工夫は、井山氏によれば、「雪国」誕生の5年前にあったカクテルコンペで優勝した「キッス・オブ・ファイア」(この連載の第47回で取り上げています)というカクテルからインスピレーションを得たそうです。

 現代のスタンダード・カクテルと言えども、当たり前ですが、当初はバーテンダー個人が考案した創作カクテルでした。それが長い歳月の中で、数多くのお客様に愛されて注文され続け、バーテンダーがつくり続けた結果、「スタンダード」として定着・認知されてきた訳です。

 国内外では毎年、何百、何千という数多くの創作カクテルが誕生していますが、残念ながら、たとえコンクールで優勝、準優勝したカクテルでも数年後に生き残るものは極めて稀です。戦後誕生した日本人の手による創作カクテルで、現在でも長く生き続け、全国ほとんどのオーセンティック・バー通じるくらい知名度を持っているのは、雪国以外では、ソル・クバーノ、キングス・ヴァレー、オーガスタ7くらいでしょうか。そうした創作カクテルの中でも、「雪国」は最も有名で偉大な存在と言えるでしょう。

 なぜ「雪国」がここまで愛され続け、生き残ってきた理由ですが、やはり3つの材料だけで構成された飽きのこないシンプルな味わい、酸味と甘味のバランスの良さ、そして「スノー・スタイル」にして、ミントチェリーを沈めるというビジュアルでの工夫。この4つの絶妙な組み合わせが大きかったと思います。

 しかし誕生当初、日本のバーではカクテルという飲み物はまだあまり馴染みなく、井山氏は「コンクールで優勝した後でも、(ケルンでも)雪国の注文はあまりなかった。飲まれるのはハイボールやビールばかりだった」と振り返ります。その後、80年~90年代のカクテルブームの時でも、爆発的に飲まれるということはなかったということです。

 しかし10年ほど前、ある英字新聞が井山氏と雪国について記事で大きく紹介したのがきっかけに、テレビや雑誌等でもよく取り上げられるようになり、全国からお客様が来るようになったといいます。今では、映画公開の効果もあって、ケルンは連日満員です。井山氏は毎日何十杯も雪国をつくるそうです(あまりに忙し過ぎて疲れ気味なので、最近は毎週のお休みを1日増やして、月・火を連休にされています)。

 なお当初は、冒頭のレシピで提供していた井山氏ですが、現在は辛口な味わいにレシピを変えておられます。現在ではウオッカを45~55ml、ヘルメス・ホワイトキュラソー7~8ml、ライム・コーディアル(サントリー・ライム)3~4mlです。ウオッカは、度数の違うサントリー・ウオッカを2種(40度と50度)を使い分けておられます(アルコールに強いか弱いか、男性か女性かなどお客様に応じてウオッカの度数を選択しておられます)。

 辛口に変えた理由について、井山氏は「当時は時代的に甘口が好まれたけれど、現在では辛口志向になっているから、昔と同じレシピでつくると甘すぎるし、。レシピも時代に合わせて変えていけばいいと思う」と話しています。頑固にレシピを変えないバーテンダーもいますが、飲み手の嗜好に合わせて柔軟に対応するという姿勢は、後輩である私たちは忘れてはいけないと思います。

 【確認できる日本初出資料】カクテル小事典(今井清&福西英三著、1967年刊)。レシピは冒頭に掲載のものと同じ。

【2021年6月追記】大変残念ながら、井山計一氏は、2021年5月10日、老衰のため死去されました。謹んでご冥福をお祈り致します。





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Last updated  2024/04/30 09:42:41 AM
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うらんかんろ

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